日本通信とVAIOが協業して開発したVAIOスマートフォン「VAIO Phone」がついにベールを脱いだ。3月20日に発売し、オンラインショップやイオンで販売される。価格は端末代込みで月額2980円(税別、以下同)からで、日本通信 代表取締役副社長の福田尚久氏は「ストライクゾーンど真ん中のスマートフォンだ」とアピールする。VAIOブランドを冠した初のスマートフォンということもあり、大きな注目を集めている本機だが、果たしてSIMロックフリー市場に風穴を空けられる存在になれるのだろうか。いくつかのポイントから見ていきたい。
VAIO Phoneは5型のHD(720×1280ピクセル)ディスプレイ、1.2GHzのクアッドコア(Snapdragon 410)、16Gバイトのストレージ、2Gバイトのメインメモリ、容量2500mAhのバッテリーを備える。カメラはメインが1300万画素、インが500万画素で、こちらはハイエンド機と比べてもそん色ない。通信はLTEに対応し、2000/1800/800MHzの3バンドを利用できる。全体としてみると、スペックは“ハイエンドに近いミッドレンジ”といったところで、必要十分な機能を有している。
一方、防水/防じん、ワンセグ、おサイフケータイといった日本のスマートフォンでなじみの深い機能はサポートしていない。
競合他社のSIMロックフリースマートフォンを見ると、同じく5型のHDディスプレイを備えるASUSの「ZenFone 5」とスペックが近い。
VAIO Phone | ZenFone 5 | Ascend Mate7 | |
---|---|---|---|
OS | Android 5.0 | Android 4.4.2 | Android 4.4.2 |
プロセッサ | Qualcomm Snapdragon 410「MSM8916」(1.2GHzクアッドコアCPU) | Qualcomm Snapdragon 400「MSM8926」(1.2GHzクアッドコアCPU) | Hisilicon Kirin 925(1.8GHz/1.3GHzオクタコアCPU) |
メインメモリ | 2Gバイト | 2Gバイト | 2Gバイト |
ストレージ | 16Gバイト | 16Gバイト/32Gバイト | 16Gバイト |
外部メモリ | microSDXC(最大64Gバイト) | microSDXC(最大64Gバイト) | microSDHC(32Gバイト) |
ディスプレイ | 5型TFT IPS液晶 | 5型TFT IPS液晶 | 6型TFT IPS-NEO液晶 |
解像度 | 720×1280ピクセル | 720×1280ピクセル | 1080×1920ピクセル |
バッテリー容量 | 2500mAh | 2110mAh | 4100mAh |
メインカメラ | 有効1300万画素 | 有効800万画素 | 有効1300万画素 |
インカメラ | 有効500万画素 | 有効200万画素 | 有効500万画素 |
無線LAN | IEEE802.11a/b/g/n | IEEE802.11b/g/n | IEEE802.11a/b/g/n |
Bluetooth | Bluetooth 4.0 | Bluetooth 4.0 | Bluetooth 4.0 |
NFC | − | − | ○ |
ボディカラー | ブラック | ブラック、ホワイト、レッド、ゴールド | オブシディアン・ブラック、ムーンライト・シルバー |
サイズ | 約71.3(幅)×141.5(高さ)×7.95(奥行き)ミリ | 約72.8(幅)×148.2(高さ)×10.34(奥行き)ミリ | 約81(幅)×157(高さ)×7.9(奥行き)ミリ |
重量 | 約130グラム | 約145グラム | 約185グラム |
価格 | 5万1000円(SIMカードのパッケージ込み) | 2万6800円(16Gバイト)、2万9800円(32Gバイト) | 4万9800円 |
VAIO Phoneは24回分割払いと一括払いのいずれかで購入できる。24回払いだと音声通話+高速定額プランのSIMを合わせて月額3980円か、音声通話+1GバイトのSIMを合わせて月額2980円となる。端末一括払いだと5万1000円だが、これはSIMカードの申し込みパッケージ(3000円)を含んだもので、純粋な端末価格は4万8000円となる。ちなみに、3000円を支払わずに端末だけを購入することはできない。
この4万8000円という価格は、キャリアが販売するハイエンドなスマートフォンと比べると確かに安いが、ASUSやHuaweiのSIMロックフリースマートフォンと比べると高い。例えばASUSの「ZenFone 5」は16Gバイトモデルが2万6800円で、VAIO Phoneより約2万円安い。Huaweiの「Ascend Mate7」は4万9800円で、VAIO Phoneよりもやや高いが、スペックはAscend Mate7の方が高い。
少なくとも価格だけを見ると、ライバル機に対して優位性があるとは言い難い。VAIOブランドに魅力を感じて購入する人も多いだろうが、そこに(ライバル機と比べて)2万円の価値があると判断できるかどうかだろう。
あとは今後、日本通信が掲げる「付加価値」をどれだけ出せるかに懸かっている。福田氏によると、現在自宅で使っている電話番号を、そのままVAIO Phoneで使える機能(FMCフォン)を提供する予定とのこと。このほか、ヘルスケアやセキュリティを強化したサービスを盛り込んでいく考えもあるという。「ソリューション、アプリ、販売ルートを持っている方々と、多方面でいろいろなパートナーシップを組んで新しい領域を広げてく」(福田氏)ことで、どこまで高い価値を提供できるかが重要になってくる。
VAIO Phoneは日本通信が製造元で、VAIOはデザインを中心に監修しているので、デザインにこそVAIOのDNAが宿っていると考えてよい。そのデザインは、光沢感のある背面ガラスパネルと、マット仕上げの側面が特徴的。側面をカットすることで、持ちやすさにも配慮した。なお、VAIO PhoneはPCのようにVAIO本社がある長野県安曇野でゼロから製造したものではなく、すでに存在するベースのモデルを改良した形だという。
実際に触ってみると、確かに持ちやすいが、「高級感がすごい」「圧倒的に薄い」といった際立った特徴はなく、手堅くまとめたという印象だ。
カラーバリエーションがブラック1色というのは物足りない。幅広い層を取り込むのなら、ブラックのほかにホワイトも欲しかったところだ。
ASUS、Huawei、LGなどライバルメーカーのスマートフォンは、ソフトウェアにメーカー独自のカスタマイズを施しており、より便利に操作できる工夫が豊富だ。VAIO PhoneはOSはAndroid 5.0(Lollipop)を採用しているものの、UIは素のLollipopから手が加えられていない。「素のUIの方が操作しやすい」という意見も多いだろうが、せっかくのVAIOスマホなのだから、VAIOの世界観をちりばめてほしかった。以前VAIOを扱っていたソニーつながりで考えると、ソニーモバイルの「Xperia」の方がミッドレンジからハイエンドまで、デザインとUIで世界観が統一されていると感じる。
2014年4月に「イオンスマホ」として「Nexus 4」とb-mobile SIMをセット販売して瞬く間に完売したように、今回のVAIO Phone+専用SIMという販売方法は、スマホに乗り換えるユーザーにとっては分かりやすい(VAIO Phoneもイオンスマホとして販売される)。そういった層にとってば“日本のVAIOブランド”を冠している安心感もあり、魅力的に映るだろう。一方、価格やスペックに際立った特徴がないことを考えると、すでにスマートフォンを利用している層にどこまで売れるかは未知数だ。やはり日本通信が掲げる付加価値次第だといえる。
さて、気になるがの今後のVAIO Phone。発表会後にVAIO執行役員の花里隆志にうかがったところ、VAIOスマホは日本通信と排他的に展開するわけではなく、ほかのMVNOと協業する可能性もあるとのこと。より多くのユーザーに届けたいのなら、端末単体でも販売すべきだろうし、ほかのMVNO向けのVAIOスマホも見てみたい。まずは船出を果たしたVAIO Phoneの今後を注視したい。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.