10月16日(現地時間)、Appleが「iPad Air 2」と「iPad mini 3」を発表した。Wi-Fiモデルは22日から、Wi-Fi+Cellularモデル(以下、セルラーモデル)はドコモ、KDDI、ソフトバンクモバイルの3社が取り扱い、24日に販売が開始された。各キャリアがシェアプランのような2台目需要を掘り起こす料金プランを整備し、市場的にはモバイルデータ通信対応タブレットが伸びている状況だ。新しい2機種のiPadは、この市場をさらに押し広げる端末として期待を集めている。同じiPadを取り扱うことで、下取りをはじめとする各種施策の競争も激化している。
盤石に見えるiPadだが、グローバルで見ると、苦戦を強いられている状況だ。販売数やシェアも下落傾向にある。Appleが10月20日(現地時間)に発表した第4四半期の業績発表によると、前年同期に1327万6000台だったiPadは、今年度1231万6000にまで低下。それに伴い、iPadから得られる収益も悪化している。今回の連載では、このような新しいiPadを取り巻く状況を考察していきたい。なお、料金は「税込」と表記したもの以外は税別。
10月22日に発売された「iPad Air 2」は、iPad Airシリーズの後継機。わずか7.5ミリの厚さで、重さも469グラム(Wi-Fiモデル)と、歴代最薄・最軽量を誇った初代iPad Airを数字の上でさらに下回り、その厚さは6.1ミリ、重さは437グラムとなる。一方で基本性能は向上しており、チップセットには1世代進化した64ビット対応の「A8X」を採用。Appleによると、処理速度が40%、グラフィックス性能が2倍に向上しているという。
また、iPadシリーズとしては初となる「Touch ID」も搭載しており、セキュリティも強化された。ディスプレイも一新。9.7型というサイズは、初代iPadから共通しており、解像度もRetina化された第3世代のiPadと同じだが、新たにディスプレイのガラスとタッチセンサー、LCDを一体化した「フルラミネーションディスプレイ」を搭載する。こうした仕組みはApple独自のものではなく、ほかのスマートフォンやタブレットでもおなじみの技術。光の乱反射が少なくなり、映像をより鮮明に映し出すことができるのが特徴だ。
薄型化に伴い、デザインも一新された。どちらかといえば、9月に発売されたiPhone 6やiPhone 6 Plusに近づいた印象で、これまで側面にあったスイッチがなくなっている。このスイッチでは、画面回転もしくは音量のオン・オフを切り替えることができたが、こうした操作はソフトウェアで行う。iOS 7で加わったコントロールセンターで、こうした制御が可能になり結果として必要性が薄くなった物理キーを廃した格好だ。これによって側面の見た目がさらにシンプルになっている。
セルラー版の通信周りでは、カテゴリー4のLTEに対応しており、キャリアアグリゲーションも行える。auのネットワークに接続すれば、下り最大150Mbpsで通信が可能だ。ドコモの1.7GHz帯(Band 3)も同様に、下り最大150Mbpsとなる。このほか、TD-LTE方式に対応しており、au版はUQコミュニケーションズの「WiMAX 2+」、ソフトバンク版はWireless City Planningの「AXGP」に接続できる。
見た目や機能を一新させたiPad Air 2に対し、iPad mini 3は小幅な進化にとどまった。大ざっぱにまとめると、iPad mini 2(2013年に発売された「iPad mini with Retinaディスプレイ」を改称)にTouch IDを搭載したのがiPad mini 3といえるだろう。チップセットやディスプレイといった、タブレットの基幹となるデバイスはiPad mini 2と同じ。モデムについても変更がなく、キャリアアグリゲーションやTD-LTEは利用できない。LTEの仕様もカテゴリー3なので、下りの速度は最大で100Mbpsにとどまる。その分、iPad Air 2より価格は抑えられているが、値下げして継続販売するiPad mini 2との差が少ないのは気になるところかもしれない。
日本では、タブレットのシェア1位を獲得しているiPad。IDC Japanが10月6日発表したタブレット端末のメーカー別シェアによると、Appleは39.4%のシェアを獲得している。続く富士通が12.1%、ソニーが11.1%、ASUSが10.8%となる。第1位四半期よりシェアは落としているが、それでも2位の富士通に3倍以上の差をつけた格好になっている。以前と比べ、富士通やソニーといったメーカーが伸びているのは、キャリアの販売するセルラー版のタブレットが売れ始めるようになったため。iPadも例外ではなく、全体での出荷数は大きく成長している。キャリアの取り扱うセルラー版タブレットが好調なのは、各社経営陣の発言からも推測できる。
例えば、ドコモの代表取締役社長 加藤薫氏は夏モデルの発表会で「我々としてタブレットが順調に動いていて、売れ行きを伸ばしている」とコメントしている。7月に開催された決算説明会でもiPadについて言及。iPadも含め、ドコモは14年度第1四半期で29万台のタブレットを販売したことを明かしている。これは、前年同期比で約30%の増となる。ドコモがiPadを導入したのは、2014年6月のこと。すでに登場から半年以上たっていたこともあり、導入効果は限定的だったが、それでも市場は拡大している。KDDIの代表取締役社長 田中孝司氏も、同様にタブレットが好調であるとたびたび語っている。
要因の1つとして挙げられるのが、データシェアプランが充実したことだ。ドコモは新料金プランに合わせ、2台持ちでデータ通信量が安くなる「パケあえる」を導入した。「2台目プラス」を使えば、基本使用料とネット接続料に、2台目プラスの500円を払うだけで通信ができる。通信量は主回線とのシェアになるが、普段使いはスマートフォンで、カフェなどの落ち着いて使える場所ではタブレットという風に使い分けるユーザーには、お得な料金設定といえるだろう。例えば、ドコモのiPad Air 2を購入すると、月々サポートは2565円〜2673円(税込)が付くので、基本使用料+ISP料金+2台目プラスの料金(税込2592円)が引かれ、毎月の料金はほぼ0円になる(割賦の場合は、端末代だけを払う)。
NTTドコモ | KDDI | ソフトバンクモバイル | ||||
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基本使用料 | データプラン | 1700円 | LTEフラット for Tab(i) cp | 2850円 | タブレットプラン | 1700円 |
ネット接続 | moperaUシンプルプラン | 200円 | LTE NET | 300円 | ウェブ基本使用料 | 300円 |
シェアプラン | 2台目プラス | 500円 | ― | ― | タブレット・ルーターセット | 500円 |
合計 | 2400円 | 3150円 | 2500円 | |||
KDDIも同様に、シェアプランを導入した。今はまだキャンペーン期間中だが、「はじまる!データシェアキャンペーン」を使うと、iPadの基本使用料が2850円になる。ネット接続サービスの「LTE NET」の300円を加えると3150円で利用可能だ。iPad Air 2の64Gバイト版で、2575円(税込)の毎月割が適用されれば、利用料金は827円になる。ここに端末代がかかり、ドコモよりやや割高だが、その分KDDIの料金プランだと毎月利用できるデータ量がトータルで2Gバイト増量される。キャンペーン期間の11月30日までは主回線とのシェアはされず、iPad単独で7GGバイト利用できる。
また、KDDIはiPadの発売に合わせ、LTEのプリペイドプランを開始した。料金は1Gバイトで1500円だが、基本使用料がかからず、使わない月は0円で維持できる。毎月割が付かないデメリットはあるものの、必要なときだけモバイルデータ通信を使えるのが便利だ。普段は家でWi-Fiを使い、出張などで外に持ち出したときだけLTEをオンにするといったようなことも可能になる。MVNOと比べると1Gバイトあたりの価格が高いのはネックだが、全国のauショップで気軽に契約できる販路の広さはKDDIの強みといえるだろう。
ソフトバンクは、「スマ放題」向けのキャンペーンとして、「iPadセット割」を用意。子回線としてiPadを契約すると、2500円の月額使用料が1年間0円になる。立てつけとしては、まず2回線目のiPadの使用料が月月割で引かれ、2500円のiPadセット割は主回線に適用される格好だ。ただし、割引をフルに受けるにはスマートフォンなら10Gバイト以上のデータ定額パックに入る必要がある。また、キャンペーン終了後に解約や機種変更すると、iPadが回収される。事実上、端末の下取りを先取りした形に近いキャンペーンだということには、注意したい。iPadを手元に残しておきたいときや、10Gバイト未満のプランに加入したいときは、通常のシェアプランである「タブレット・ルーターセット」に加入する方がよい。こちらでも月月割が適用されるので、2回線目である毎月の料金はほぼかからなくなる。
このように、各社とも2台目としてタブレットを安価に維持できるプランを用意している。タブレットが販売数を伸ばしている背景だ。特にiPadは人気も高く、2台目需要を取り込みたいキャリアにとってはうってつけの商品といえるだろう。一方で、通信費用は抑えられるが、端末価格は最も安いiPad mini 3の16Gバイトでも、6万円以上かかる。最近では、2、3万円台のAndroidタブレットやWindowsタブレットでも、機能的にはiPadと比べてもそん色なくなりつつある。むしろ、Windowsタブレットであれば、PCと同じ機能やアプリがそのまま使えて、iOSやAndroidのようなモバイルに特化したOSよりも利用シーンが広い。専用アプリが充実しているというiPadならではのエコシステムは利点だが、そのプレミアム感をどこまで維持できるのかは未知数だ。
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