ブログ感覚で電子書籍を作成でき、そのままオンラインで販売までできてしまうpaperboy&co.のサービス「パブー」。最近ではプロ作家の利用も増えるなど、成長著しいが、その企画当初から今日に至るまでのエピソードを、同社の取締役副社長で、パブーの責任者を務める吉田健吾氏が明かした。
ブログ感覚で電子書籍を作成でき、そのままオンラインで販売までできてしまうpaperboy&co.のサービス「パブー」。iPadの国内発売から1カ月後の2010年6月にスタートした同サービスは、現在までに6000冊を超える電子書籍が登録され、さらに最近ではプロ作家の利用も増えるなど、運営側も当初想定していなかった動きを見せ始めている。
実はこのサービス、決してiPadの発売に合わせて開発がスタートしたわけではなく、社内で企画が出されたのはその1年前、2009年の春にさかのぼる。企画当初から今日に至るまでのエピソードを、同社の取締役副社長で、パブーの責任者を務める吉田健吾氏に聞いた。
── まずは、パブーというサービスが生まれることになったきっかけからお伺いしたいのですが。
吉田 いろいろ伏線になっている経緯がありまして、その一番大きいものが「ブクログ」というWeb本棚のサービス、これはもともと家入*が個人で始めたのですが、これを譲渡してもらって会社のサービスとして運営しようと昨年の秋に決めたんですね。会員数も増えてきていて個人で運営するにも限界があるだろうから、もったいないし会社でやらせてくださいよという話を家入にして。
── ブクログを引き取られた時点で、パブーにつながる構想はあったということでしょうか?
吉田 その時点ではまだはっきりと形にはなっていませんでしたね。「P1グランプリ」というプレゼン大会を社内で毎年をやっていまして、その中で出されたプランの中に漫画のWebサービスをやりたいというのがありました。漫画のCGM、UGC的なサービスで、海外に向けても日本の漫画文化を広げていきたいんだという強い意気込みが感じられるプランで、そのときプレゼンを観覧していたスタッフからの評価も高いものでした。
プレゼン大会でせっかくいい評価をもらったプランがそのまま何もなしでお蔵入りになるのはもったいないということで、サービス化実現のためにしばらくリサーチを続けてたんですよ。それが昨年の5月か6月くらいですね。
── ということは「ブクログ」のリニューアルよりさらに前?
吉田 そうです。そのリサーチもブクログと並行して昨年末くらいまで続けていました。その時点ではやると決めていたわけではなく、実際やるとしたらどうなるんだろうというのを考えていた程度です。
その後、ブクログをサービスとして会社で受け入れることになり、事業としてどうマネタイズしていこうかと考えたときに、出版社や著者の方たちのプロモーションの場所として使っていただきたいと思い、コンセプトを「人と本が出会う場所」に切り替えて、その方向性でリニューアルしました。そのころから、出版社の方とおつきあいする中で何となく出版業界的な話題やトピックが視界に入るようになってきました。
あと、うめさん*がKindleで「青空ファインダーロック」を公開されたのが大きかったですね。ブログで手順を公開されていたので自分でもまねしてみたらすごく簡単で、数日でAmazon.comのKindle Storeに、自分たちが描いた漫画が並んで、これはものすごく簡単だなと。もう誰でも簡単に本が作れるんだなという実感を持ちました。ですので、これをサービスとしてやるというのは面白いんじゃないかと。
うちはブログのサービスを提供している会社でもあるので、ブログと同じインタフェースで、電子書籍のファイルがパブリッシュされる形のものを作るといいんじゃないかと。Amazon DTPだと手元でファイルを作ってからアップロードする形ですけど、それよりは原稿作成からファイルの生成まで、すべてオンラインで作る方が手軽で面白いだろうと思いましたし、Webで完結するサービスがぼくらの得意分野でもあるので、そういった作り方をしようということで。
こうした伏線が幾つかあって、今年の頭ぐらいに新規サービスの企画をどれかスタートさせようとなったときに電子書籍をやらせてくださいということで、昨年進めてたリサーチの部分を含めて社長や役員に話をして、じゃあこれで進めましょうという形でスタートしたわけです。
家入:家入一真氏。paperboy&co.創業者、元代表取締役社長。現在は同社取締役(非常勤)。「IT社長からカフェオーナーに ペパボ創業者・家入一真氏のいま」などを参照してほしい。
うめ:漫画家。小沢高広・妹尾朝子のユニット。代表作に「大東京トイボックス」など。Kindleで日本人初の漫画作品「青空ファインダーロック」を発売し注目を集める。「Kindle初の日本語マンガはいかにして誕生したか――電子書籍出版秘話」などを参照してほしい。
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