被災写真の洗浄から修復までをマニュアル化し、ボランティアが参加しやすいようにフローを明確化したプロジェクトがある。それが「あなたの思い出まもり隊」だ。
東日本大震災から1年。震災直後からさまざまな支援活動が行われてきた。そして1年という節目を前に、それらの活動で得た知見を活かすため、記録の整理と共有が行われるようになってきている。
東北福祉大学、神戸学院大学、工学院大学の3大学が共同で設立した「社会貢献学会」も、2011年4月から津波被害によって損傷した写真の修復を行っている。もともと文部科学省の戦略大学連携支援プログラムによって、2009年から防災、減災、ボランティアを中心とした社会貢献教育を展開。「社会貢献活動支援士(シンシエーター)」の資格認証などを行っている組織だ。
そんな社会貢献学会社が被災地外からの支援「あなたの思い出まもり隊」として、被災地350人からの依頼を受けて写真の洗浄と修復に取り組むことになった。アドビシステムズをはじめ多くの企業が活動を支援し、工学院大学ではボランティアに延べ562人が参加。作業時間は延べ1849時間、修復が完了した写真は12月末時点で1043枚となっている。
この活動を通じて、写真の収集・洗浄から、Photoshopを使った写真の修正、返送といった一連のワークフローを得た。今回、学会ではマニュアル化して2月21日に発表。また実際の作業の様子を公開している。
ティーゲル氏は「修復された写真は、印刷だけでなくCD-ROMなどのデジタルデータで返送してほしいとの希望も多いと聞いている。アドビシステムズでは、Photoshopによる写真修復だけでなく、デジタルデータとしてクラウド上に保管するサービスも展開しており、今後役に立つはずだ」と説明した。
記者は以前「思い出サルベージ」という活動を取材したが、そちらが被災地での写真の収集・洗浄とデータベース化を主にしていたのに対し、こちらの活動は被災地から離れた場所でのPhotoshopを用いた写真の修復に特徴がある。今回この活動で得た写真修復のノウハウもマニュアル化した。写真の状態に応じて以下のように複数の手順が存在する。
ボランティアのほとんどが写真補正の未経験者だったが、活動を通じ半年で修復のノウハウを体得。村上氏によると、作業をマニュアル化することで、ボランティアに初めて参加する人でも作業を完結できるようになったという。
マニュアルは「写真の分類、管理」「写真の洗浄」「スキャンとデータの保管方法」「写真修復(Photoshopの使用方法)」からなり、また一連の作業を管理したり運営したりした記録も取っている。依頼を受けた写真はこのマニュアルの手順で修復。最終的に印刷できるところまで整えて、簡易アルバムやCD-ROMに収め、依頼者に返送する仕組みだ。
被災地外での写真修復というボランティア活動であり、また学生が作業の主体となり学内に作業場所を確保した前例のない環境の中、作業は試行錯誤の連続だったという。依頼が寄せられた写真は全体で約7万枚、社会貢献学会では今後も作業を続けるとしている。そのノウハウが記録され、また広く共有されることは、意義があるだろう。
なお、マニュアルのダウンロード提供は現在行っていない。社会貢献学会では作業の内容や状況などのヒアリングを行いながら、紙もしくはデータでのマニュアルの共有を行っていくという。
ジャーナリスト・プロデューサー。ASCII.jpにて「メディア維新を行く」、ダ・ヴィンチ電子部にて「電子書籍最前線」連載中。著書に『スマートデバイスが生む商機』(インプレスジャパン)『生き残るメディア死ぬメディア』(アスキー新書)など。取材・執筆と並行して東京大学大学院博士課程でコンテンツやメディアの学際研究を進めている。DCM(デジタルコンテンツマネジメント)修士。9月28日にスマートフォンやタブレット、Evernoteなどのクラウドサービスを使った読書法についての書籍『スマート読書入門』も発売。
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