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再び、NHK問題!

1. これまでの動き

 NHKの受信料問題については、本特集の第1回「NHKの受信料問題」で取り上げ、読者の皆さんから大きな反響をいただきました(2004年11月2日掲載)。「なぜNHKに受信料を払わなければいけないのか?」という疑問については、当サイトの法律相談コーナーにおいても、以前から継続的に多数のアクセスをいただく状況にありましたが、この至極もっともな疑問がNHKの度重なる不祥事と相まって、一気に表面化した形となりました。
 その後、海老沢会長(当時)の政権癒着問題、職員のたび重なる汚職問題等が明るみに出て、NHKの放漫経営・体質に対する批判が全国的な高まりを見せたことはご存知の通りです。批判は組織外部からのみならず、職員有志からも「倫理・行動憲章」を改善するよう執行部に提言が出されるなど、内部からも改善への声が上がりました。
 これらの動きを受け、NHKは、特集番組の放映、海老沢会長(当時)辞任などの対応に追われていましたが、過日「まっすぐ、真剣。NHK」なるスローガンの下に、全ての部局・放送局に「CS(お客さま満足)推進委員会」を立ち上げるとともに、ホームページで活動状況や結果を周知するなど、遅ればせながら視聴者の声に応える態度を見せはじめました。しかし、視聴者の怒りはおさまらず、受信料を払っていない世帯が9月現在、有料契約対象者の3割にあたる約1,300万件に上ることが明らかになりました。その詳細は次の通りです。

NHK受信料支払い状況

 このような状況の下で受信料の問題に正面から触れることは視聴者を刺激すると考えられたからでしょうか「なるべく自主的な納入を希望する」と述べるにとどまっていました。
 ところが、9月20日、NHKは「新生プラン」なる計画を発表しました。「新生プラン」とは、信頼回復と財政対策を目的とするもので、

  1. 2006年度から全職員の10%、1,200人を削減するなどの組織のスリム化
  2. 受信料の公平負担への取組みとして、受信料支払い拒否・保留世帯に対し、法的措置を導入すること

を挙げています。
 今回は、この受信料の徴収に法的措置を導入する根拠と正当性について、皆さんと共に考えてみたいと思います。

2. そもそも「受信料」とは?...その法的根拠

 NHKの受信料とは、NHKの放送を受信できる受信設備(例えばテレビ)を設置した者が締結しなければならないNHKとの受信契約(放送法32条)に基づき、NHKに支払う料金のことです(放送法の目的、趣旨等については本特集の第1回「NHKの受信料問題」をご覧ください)。
 この放送法の条文からしますと、受信設備を設置した者はNHKと受信契約を結ばなければなりません(結ばなくても罰則等があるわけではありません)。従ってこの受信契約を結んでいない以上受信料の支払い義務は発生しません。先にあげた数字の中で958万件いる未契約者がこれにあたります。
 今回NHKが法的措置を採ると言っている対象者は受信契約を結んだのにNHKの不祥事等を理由に支払い拒否、保留をしている130万件の世帯です。
 その法的手続は次のようになります。

法的手続の流れ

 確かに、この法的手段は可能ですが、まさかNHKも130万世帯全員に対して、この法的措置をとることは考えてはいないでしょう。視聴者の大きな反発が政治的問題を引き起こしかねません。そうなるとNHKの民営化の議論も再燃するでしょう。恐らく、一部の不払い者に法的措置を採り、払わないとこうなるぞという心理的強制を狙っているものと思われます。

3. 払わない側の論理

 これに対し、不払者の言い分は次のようなものが考えられます。

  1. NHKと受信契約をしていない世帯は契約が存在しませんので債務不履行になりません。NHKから契約してくださいと言われたら私は~という理由で契約しませんと言えばよいだけです。これに対し、NHKが契約すべき法的義務を主張して裁判に訴えることは現行法上無理だと思われます。
  2. 契約したかどうか記憶にない場合に、NHKから受信料を請求されたときは、契約をしたかどうか記憶にないので、私が記名捺印した契約書の控えを見せて欲しい、と確認することです。控えがない場合、私は契約をしていないから受信料を払う義務はないと主張するでしょう。
  3. 控えはないけれども、あなたは今迄受信料を払ってきたではないか、それは受信契約を認めたから払ってきたのだろうと主張された場合。イヤ、私は放送法の条文を知らなかった為にテレビがあったら即受信料を払わなければならないと思って払ってきたのだ。受信契約がない以上払うべき法的義務はない。今迄払ってきた金額は法的義務がないのに払ってきたのだから不当利得として返して欲しい、と返還請求することです。
  4. 仮に、受信契約の控えがあった場合。NHKの放送受信契約書は以下のようなものです。これは契約書としては極めて簡単で原始的なもので受信者の住所氏名を書かせ判を押させるだけです。どういう契約内容なのかはどこにも書いてありません。欄外に「放送法、放送受信規約により放送受信契約を締結します」と小さく書いてあるだけです。恐らく、記名捺印した方も、この「放送受信規約」を見せられていないと思います。ですから控えをもってきたときは、私は契約のとき、この規約を見せてもらってもないし、その内容について説明も受けていない。従って、この受信契約は無効だ、と主張することです。

放送受信契約書
▲ 放送受信契約書

4. なぜ、NHKだけ他の民放と比べて特別扱い?...その存在意義

 NHKには、放送法7条44条1項等の内容を実現するため、経済的に自立し、他組織からの干渉を受けないようにする必要があります。たしかに、内容的に中立で偏頗のおそれのない報道を実現し、目先の視聴率に左右されない報道姿勢を貫くには、特定の団体から援助を受けないことが必要であることは否定できません。視聴者にも「NHKにしか作れない番組がある」という評価が根強くあるのも事実です。
 しかし、受信設備(テレビ等)を持っているだけで、なぜNHKとの受信契約締結義務が生じるのか。このことは憲法、民法が保障する契約自由の大原則に反すると多くの方が疑問に思うところです。また放送法が成立・施行された昭和25年と55年後の現在とでは、マスメディア、情報界の現状も国民の権利義務に対する意識も、全く変化しています。
 その中で、放送法だけを根拠に受信料の法的措置を行っても、視聴者の共感を得られるとは思われません。NHKは現在問題となっている郵政民営化以上に、民営化されても国民は困らないし、むしろ喜ばれる機関でしょう。さらには、NHKを見たい人だけがお金を払ってみるというシステムも現代の技術をもってすれば簡単にできることです。法的措置をとる根拠を文句を言わずに受信料を支払っている人との不公平感を理由に挙げるのは、あまりに姑息なやり方です。視聴者の意見を大切にするというのなら、全ての声に対して誠実な対応を行うべきではないでしょうか。
 さて、今回のNHKが採るという法的措置について皆さんはどうお考えになるでしょうか?
 アンケートにお答えください。皆さんの意見もどんどんきかせてください。

参考

 今回、NHKの採る法的措置についての特集記事を掲載するにあたり当法人からNHKに出した質問とNHKの回答です。電話をかけて責任者が出るまで10数分待たされました。電話ではダメで文書にて質問するように、とのことでしたので文書化し、FAXで送ったものです。

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