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レポート 天理大学附属天理参考館が他宗教の考古資料をも収集、展示する理由 2024年10月3日

 天理大学附属の博物館である天理参考館は、日本をはじめアジア、ヨーロッパ、中東など世界各地の考古資料と民族資料を収蔵・展示しており、その中には数多くのキリスト教関連物も含まれている。常設展示は国内有数の規模を誇るが、これらはどのような意図で蒐集され、一般に公開されているのだろうか。本紙の取材に対応してくれたのは梅谷(うめたに)昭範さんと間舎(かんしゃ)裕生さん。2人は学芸員として、それぞれ海外民族資料とオリエント考古資料を担当している。

 梅谷「当館の創設者は二代真柱の中山正善氏ですが、東京帝国大学(以下、東大)文学部宗教学宗教史学科で姉崎正治教授の薫陶を受けて、この地に戻りました。当時、天理教では布教師たちによって個々に海外伝道が進められており、それを教団が組織的にバックアップする体制を整えることが課題となっていました。正善氏は、大正15年と昭和5年に朝鮮半島と中国への巡教を行い、その際に多くのキリスト教関連施設を視察しました。上海の徐家匯でカトリック(イエズス会)の施設を訪れた正善氏は、児童養護施設の子どもたちが作った柘植(つげ)製の人形に注目しました。こちらがそれです」

風俗人形(生活百態)

 「生活百態」と名づけられた人形は、中国の庶民の生活を映したもので、全部で108体ある。外国人宣教師が子どもたちに自立のため手に職をつけさせようとしていたことがうかがえる。精巧な作りで、高値で取引されたそうだ。訪問先に関しては、東大教授たちの推薦状や助言があったため濃度の高い視察が行われたようだ。

 一行は、山東省済南ではプロテスタントの斎魯大学附属の博物館を訪れ、自然科学から人文社会まで幅広い分野の展示を見学した。また天津滞在中に、東洋文庫の石田幹之助に勧めで、カトリックの北疆博物館を視察した。どちらもキリスト教伝道の一環として設立された施設で、この二つの博物館を訪れたことが、天理参考館の創設につながる。

 1930年(昭和5年)、海外布教に赴く人たちにその土地の文化や風習を学ばせるために、天理参考館の原型となる海外事情参考品室が作られた。

 現在の建物が建てられたのは2001年。常設展示が1~3階まであり、1、2階では日本と世界の生活文化に関する資料、3階では日本と世界の考古美術に関する資料を展示している。

(1階)中国、祭祀の間

(1階)パプアニューギニア、精霊像・盾・仮面

 イスラエルの発掘で出土した資料は3階で解説板とともに展示されている。天理大学とイスラエルとの関わりが始まったのは1964年。日本オリエント学会が組織した、大畠清(東大教授)を団長とする西アジア文化遺跡発掘調査団がテル・ゼロール遺跡を調査したときからである。この発掘調査は同学会の設立10周年記念事業として行われたもので、三笠宮崇仁親王(同会会長)と中山正善氏の理解と支援によって実現した。四次にわたって発掘調査が行われたものの、情勢悪化によって調査は終了。しかしその後も、日本隊によってエン・ゲヴ遺跡、テル・レヘシュ遺跡(初期シナゴーグが発見)の調査が行われてきた。現在、現地情勢の悪化でテル・レヘシュ遺跡の発掘調査は中断しているが、間舎さんは2004年以降、エン・ゲヴ遺跡、ベイティン遺跡(聖書のベテルではないかとされる)、テル・レヘシュ遺跡で発掘調査を行った経験を持つ。

 間舎「テル・ゼロール遺跡調査の開始は正善氏の最晩年にあたるため、正善氏が現地を訪れたわけではありません。こちらの出土品は2003年から展示するようになりました。海外の遺跡からの出土品がどうして当館にあるのか疑問に思われるかもしれませんが、当時のイスラエルでは、外国隊が発掘した遺跡から類似資料が複数出土した場合、一つを調査隊の本国に持ち帰ることが、協定によって認められていました。今では考えられないことですが。そのおかげでテル・ゼロールの出土品をこちらで見ることができるのです」

(3階)イスラエル、テル・ゼロール遺跡の展示

(3階)シリア、床面モザイク

(3階)埴輪、いずれも重要文化財

 日本の考古資料も重要文化財を何点も含むなど充実しており、他館の企画展に貸し出されることも多い。「天理大学の附属博物館」というと、天理教の紹介をする施設のように思えるが、そうした展示はごく一部。天理教の信者以外の者であっても違和感なく見学できる。解説文には近年の学術研究が反映されており、展示方法もよく考えられている。参考館で働く学芸員は9名。各分野を網羅できるよう採用されているという。なぜキリスト教関連など他宗教の物を収集し、展示するのか。海外布教のためには異文化を知る必要があるというが、それだけだろうか。博物館設立・運営の背景にある天理教の他宗教理解をうかがった。

 梅谷「天理教では『世界一れつきょうだい』という教祖の教えに基づき、世界のすべての人々は等しく神の子どもであり、お互いがきょうだいであるから、相互に理解し合う努力をしようと話します。他者をリスペクトする姿勢が背景にあると思われます。例えば、正善氏は1951年にバチカンに行って教皇に謁見しています」

 天理参考館が示すビジョンの根底には、教祖の教えに基づく他宗教理解と博愛主義が流れている。信者数115万人(文化庁『宗教年鑑』2023年)を擁する宗教組織が、一貫して採ってきた異文化への敬意と眼差しは、多様化と分断が進行する現代に問題解決のヒントを与えてくれるのかもしれない。

 参考館からほど近い天理大学附属天理図書館には、グーテンベルク聖書など古今東西の稀覯本のほか、国宝6点、重要文化財87点、重要美術品66点等の図書が収蔵されている。重要文化財に指定された、きりしたん版7点などのデジタル画像も館内で閲覧可能。参考館訪問の際には図書館にも足を伸ばしたい。

天理図書館(建物は登録有形文化財)

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