池内恵の中東通信
池内恵(いけうちさとし 東京大学教授)が、中東情勢とイスラーム教やその思想について日々少しずつ解説します。
サウジの壮大な経済改革(国家改造)プラン「ヴィジョン2030」の目玉、そして改革を成立させる前提条件とも言える国営石油会社サウジアラムコ(Saudi Aramco)の新規株式公開(IPO)だが、迷走を極めている。「ヴィジョン2030」の実現可能性は大いに懐疑的に見られており、そ…
トルコのエルドアン大統領が、10月4日、イランの首都テヘランを訪問しており、ロウハーニー大統領だけでなく、最高指導者ハメネイ師とも面会する模様だ。主要な議題はクルド問題と見られている。エルドアン大統領のイラン訪問に先立つ10月1日、トルコのフルシ・アカル参謀総長…
カナダ・エドモントンやフランス・マルセイユで9月の末にローン・ウルフ型のテロが続発した背景に、9月28日に公開されたとみられるアブー・バクル・バグダーディーの音声声明は何らかの影響を及ぼしているのだろうか。"'New Baghdadi tape' posted by Islamic State group," B…
過去半月の間に、世界各地で、「ローン・ウルフ型」のテロが続発している。ラスベガスの事件がどのように他のものと関連するか分からないが、とりあえず一覧で基礎事実をまとめておこう。9月15日 英国・ロンドンの地下鉄ディストリクト・ライン(District Line)の列車内に置…
米国ラスベガスで10月1日夜に起きた銃乱射事件は少なくとも59名の死者、400名を超える負傷者を出し、米国でも前例の少ない規模の銃犯罪事件となった。ここでも「イスラーム国」に近いメディア組織アゥマーク通信(Amaq)が犯行を主張する声明を出した。1つ目の声明では、犯人…
先ほどは、ハマース支配下で封鎖され孤立したガザを巡って、ファタハとハマースの歩み寄りが、UAEやサウジやエジプトの後押しによって進められていることを記した。これはサウジとUAEが、カタールとイランを敵と見立てて行う、地域内の覇権ブロック構築の試みの一環と言える。…
パレスチナのガザを支配してきたイスラーム主義のハマースが、ヨルダン川西岸のラーマッラーを拠点としたパレスチナ自治政府を掌握するPLO主流派ファタハへの接近を進めている。10月2日、ファタハとハマースの統一政府の首相としてファタハのラーミー・ハムダッラーがガザ地区…
半月ほど、この欄でのつぶやきが途絶えてしまった。この欄の更新が止まる時は、中東で何か深いところで変化が起こっていると考えていただきたい。重要な、しかし精査を要する情報が中東から奔流のように流れてくると、処理能力を超えてしまう。「面白いニュース」は無数にある…
中東でも中国の動向に注目が集まる。中国のインド洋への海洋進出を「真珠の首飾り」と呼ぶことがあるが、中東付近ではパキスタンのグワダルと、ジブチでの港湾開発が注目されてきた。それらの中間地点のオマーンが次の中国の進出先として注目される。昨年5月に結ばれた合意に…
サウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマーン皇太子が9月初旬に、極秘にイスラエルを訪問したという噂がある。"Did the Saudi Crown Prince Make a Covert Visit to Israel," Jerusalem Post, September 11, 2017.イスラエル・ラジオがサウジの匿名の高官あるいは王子の訪問…
8月28日から29日にかけてレバノンで、レバノン東部からシリアのダマスカス北東方面に連なるカラムーン山地に勢力を持っていた「イスラーム国」や「シャーム解放機構」を、シリア東部のデリゾール(「イスラーム国」の占拠地域)や、シリア北部のイドリブ(「シャーム解放機構…
中東の「延長」としての東アフリカ・「アフリカの角(つの)」地域と紅海沿岸地域の情勢については、この「中東通信」欄で重点を置いて取り上げてきた(ジブチ、ソマリアなど)。AP通信の記者もこの問題を取り上げた記事を載せている。Jon Gambrell, "Qatar crisis shakes Eas…
8月23日にイスラエル・ネタニヤフ首相はソチでプーチン大統領と会談した。これと重なる時期に、イスラエルの諜報機関モサドのヨッシ・コーエン長官が率いる代表団が米国を訪問しているようだ。これらの訪問で行われる協議において主要な課題になるのは、シリア南部へのイラン…
「アラブの春」によるムバーラク政権崩壊後、2012年6月までの相次ぐ選挙に勝利したムスリム同胞団の政権掌握、2013年7月の軍主導のクーデタと揺れるエジプトは中東国際政治における存在感を低下させてきたが、最近、シリア内戦の停戦実施などで地道な関与を行うことで、じわ…
シリア内戦と比較して、あるいはシリアとイラクの「イスラーム国」と比較して、報じられることが少ないのだが、同程度あるいはそれ以上の人道的悲劇が深刻化しているのはイエメンである。フーシー派がハーディー政権を放逐し全土を掌握しかけた2015年3月に、サウジ・UAE主導で…
8月23日、カタールが召喚していた駐イラン大使をテヘランに復帰させる方針を発表し、外交関係の回復に踏み切ることが明らかになった。"Qatar says its ambassador to return to Iran: foreign ministry," Reuters, August 24, 2017.2016年1月初頭に勃発したサウジとイランの外…
北朝鮮と中東との関係というと、エジプトのように冷戦期の民族主義・反米主義つながりというのがかつての常態だったが、近年は湾岸産油国とのつながりもあり、米・北朝鮮間の緊迫化に伴い、政治問題化することが増えている。さらにそこに、湾岸産油国内部でのカタールと、サウ…
エジプトと北朝鮮の関係は、特にムバーラク政権期に深まった。1963年に両国は国交を結んだものの、1973年の第4次中東戦争で、北朝鮮がミグ戦闘機のパイロットを送って支援したことが関係を深めたようだ。空軍士官上がりのムバーラク元大統領にとって、北朝鮮との「血の絆」の…
米の対エジプト援助差し止め・延期の背後にエジプトと北朝鮮の深い関係がある、との報道を紹介した。北朝鮮の対中東・アフリカへの軍事援助・軍事輸出については、宮本悟聖学院大学教授(政治学・北朝鮮政軍関係)が広範に調査をしており、私もエジプトの参謀総長の回顧録に記…
先ほどメモを記した米トランプ政権の対エジプト軍事・経済援助の差し止め・延期について、ニューヨーク・タイムズは、エジプトの北朝鮮との深い繋がりを問題視してのものだという見立てで報じている。"U.S. Slaps Egypt on Human Rights Record and Ties to North Korea," The…
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