新ジャンル開拓の軌跡と、今後の展望を語る
『アンジェリーク』、『遙かなる時空の中で』、『金色のコルダ』……コーエーテクモゲームスが誇る女性向けゲームのシリーズは、“ネオロマンスゲーム”と呼ばれている。同社の女性スタッフが集う開発チーム“ルビーパーティー”が手掛けるこれらの作品は、ゲームのクオリティーの高さと、積極的なメディアミックス展開によって多くのファンの心を掴み、発展。2014年9月には、誕生20周年を迎えた。
20年前には存在しなかった“女性向けゲーム”。新ジャンルを生み出し、作り続けることに、どれほどの苦労があったのか。また、今後はどのような展開を考えているのか。コーエーテクモゲームスの襟川恵子氏に聞いた。
※本インタビューは、週刊ファミ通2015年6月25日号(2015年6月11日発売)に掲載されたものです。
コーエーテクモゲームス 取締役名誉会長
襟川恵子氏
コーエーテクモゲームスと、その前身であるコーエーを創業時より支えてきた経営者。コーエーテクモゲームスの開発チーム“ルビーパーティー”を立ち上げた、ネオロマンスゲームの生みの親。現在も、経営に携わる一方で、ゲーム作りにも深く関わっている。
女性向けゲームの構想は30年前から抱いていた
――ネオロマンス20周年、おめでとうございます。本日は、女性向けゲームの誕生から現在までを見てきた襟川さんに、さまざまなお話をうかがいたいと思っています。始めに、約20年前にネオロマンスゲーム第1作『アンジェリーク』を作ろうと思ったきっかけを教えてください。
襟川恵子氏(以下、襟川) 『アンジェリーク』が発売されたのは1994年の9月ですが、それよりも前にきっかけがあるんです。もう30年以上前、襟川(陽一氏。コーエーテクモゲームス代表取締役会長)といっしょに、『投資ゲーム』や『コンバット』などのゲームを開発していたのですが、そのころのお客様は男性ばかり。
ゲームも男性目線のものでした。そこで私は、女性のために「女性向けのゲームを作りたい」と考えるようになりました。
――『アンジェリーク』が発売されるずっと前から、女性をターゲットにしたゲームの構想があったのですね。
襟川 はい。当時、開発現場には女性が1名でしたから、まず女性を採用をしなければいけないと。そこで、1983年に『信長の野望』を発売した後くらいに、女性の開発者を募集し始めました。当時、プログラミングを学んでいる理系の女性はごくわずかでしたから、文系の女性を採用しました。やはり、シナリオは女性が適任でした。
――では、女性の採用を始めてから『アンジェリーク』が完成するまでに、10年もの時間が経ったということですか?
襟川 女性スタッフがゲーム作りに慣れるまでに、時間はかかりました。当時は当たり前のことですけれど、採用した方はみんな、ゲームを作ったことがありませんでしたので。女性を採用するようになってから、ルビーパーティーのチームを立ち上げるまで、時間がかかりましたね。
――確かに、女性を採用したからといって、未知のジャンルのゲーム開発にすぐに取りかかることはできませんよね。そのように手探りで進む中で、『アンジェリーク』をどのように作っていったのですか?
襟川 最初に女性向けゲームを作るなら、とことん女性向けに振ろうと思ったんです。主人公はかわいい女の子のキャラクターで、洋服は赤。インテリアもガーリーでピンクです。私自身は、じつはピンクはあまり好きではないんですけど、娘が大好きだったんです。そして、素敵な男性をたくさん登場させたいので、ギリシャ神話を題材にして、個性豊かな男性キャラクターを作りました。でも、なかなかゲームにならなかったんです。ゲームとして見たら、ぜんぜんおもしろくないものになっちゃって(笑)。
――それはなぜだったのでしょう?
襟川 シナリオができあがっても、恋愛ゲームにならない。目的を達成したり、競い合ったりするためのシステム作りが弱かったんです。そこからは、ゲーム作りのプロとしての襟川の出番でした。ゲームシステムを確定させて、『アンジェリーク』はライバルと競い合い、守護聖の協力を得ながら、ロマンスも楽しめるゲームとなりました。
――『アンジェリーク』発売当時の反響はどのようなものでしたか?
襟川 前例がないゲームでしたので、爆発的に売れたわけではありません。でも、周りからの評判がすごくて。「女性向けのゲームがついに出た!」ということで、いろいろなメディアに取り上げていただきました。「よくぞ作ってくれた」と、女性のユーザーの方からお手紙をいただくこともありましたね。多くの方に興味を持っていただけてよかったです。ただ、先ほど言った通り、男性もののように大ヒットにはなりませんでした。でもそれはわかっていたので、最初からメディアミックスを考えていたんです。
――ゲームを発売する前から、ですか?
襟川 はい。ゲームだけでは、せっかく作った『アンジェリーク』の世界観が伝わりきらないと思っていましたので。ゲームの発売とほぼ同時にドラマCDを発売しました。さらに、アニメやイベントもやりたいと、そのころから考えていました。
――いろいろなコンテンツを用意することで、女性のユーザーに、“女性向けゲーム”という新たなジャンルを知ってもらおうというお考えだったんですね。
襟川 そうです、少しでも女性ユーザーの皆さんに楽しんでいただきたいと。会社の中では、「市場が小さいから、女性向けのものを作っても売れない」という意見もあったのですが、私は「市場はある」と考えていました。その考えを貫いてよかったと思っています。
初開催のイベントはファンから賛否両論の嵐
――ネオロマンスゲームのメディアミックスと言えば、声優さんが出演するイベントが印象的です。
襟川 最初にイベントを開催したのは、1995年なんです。六本木のヴェルファーレという会場で、NECさんにスポンサーになっていただいて。イベント当日はたいへんだったんですよ。お客様がずらーっと並んでしまって、警察の方が来ちゃったんです。
――イベント運営も手探りのころですよね。
襟川 イベントの内容もいろいろ考えて、バレエや音楽を組み合わせて、いい雰囲気のイベントにしたんです。お客様からの意見は賛否両論でしたね。「すごくいい!」と言う方と、「ぜんぜん違う!」と言う方と。後者の方は、『アンジェリーク』のことを強く思ってくださるがゆえに、ご自身のイメージと違うものが出てきて、残念だったのだと思います。そうしたら、うちのスタッフが怖気づいちゃって。「反対意見が多いので、もうイベントはやらない」って言うんですよ。
――ええっ、イベントは1回限りだ、と?
襟川 「またイベントをやってほしい」と言ってくださった方もいるのだし、少しずつブラッシュアップしていけばいいのに、「お客様に怒られる」って。ぜんぜん企画が上がってこなくて、業務命令として私が推進しました。前例のないところから女性向けのコンテンツを作るのは難しいなと思いましたね。
――ですが、ネオロマンスが先駆者となったことで、いまでは声優さんのイベントも数多く開催されるようになりました。
襟川 当時、ほかのゲームメーカーさんでメディアミックスをして、イベントを開催しているというお話は聞きませんでした。あのころの苦労が、いまに活きていると思います。
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