2019-20以来となるプレミアリーグ制覇へ向け邁進するリバプール。好調の大きな要因となっているのが、名将ユルゲン・クロップを後を継いだアルネ・スロットの存在だ。「自分が理想とするシステムはない」と明言するオランダ人戦術家の指導力の根幹を成す、攻撃に関する10の原則を3回に分けて紹介する中編。
前編では2017年の『De Voetbaltrainer』誌のインタビューをもとに、アルネ・スロットが「軸」(ピッチ中央レーン)を重視し、「裏抜け」を最優先していることを紹介した(原則1:ボールがサイドにあったら、軸に返さなければいけない。原則2:優先順位は「裏」「バイタル」「ハーフスペース」。原則3:バイタルエリアに少なくとも3人が立つ)。
ただし「裏抜け」を実行しても、相手も警戒しているため成功させるのは簡単ではない。「裏抜け」についてどんな原則を持っているのだろうか?
スロットは言う。
「私は選手たちに、裏抜けについて明確なガイドラインを与えている」
今回は「裏抜け」に関する原則について紹介しよう。
原則4:裏抜けは助走をつける
スロットは裏抜けにおいて、パスを受けるレシーバーの「助走」が重要だと考えている。
「私の最も重要な指示の1つは、『裏抜けは常に助走をつける』というものだ。選手がDFラインぎりぎりに立って、手を相手ゴールの方に向けてパスを要求しているような状況は望ましくない。DFラインぎりぎりで静止して待っていたら、ボールが蹴られた直後に走り出さなければならず、よほどパスの精度が高くなければ成功しない。また、立ち止まった状態から動き出すので加速に時間がかかる。
それに対して助走をつけると加速しやすく、さらにボール保持者がレシーバーのランニングを認識しやすくなる。それらの効果によって相手に捕捉されづらくなる」
CFがバイタルエリアに下りるポジショニングを「原則3」で紹介したが、それには助走をつけやすくする狙いもあるのだ。
現在、リバプールの試合を見ると、助走をつけた裏抜けを頻繁に目にすることができる。
12月23日のトッテナム戦の1点目はその好例だ。
敵陣において右CBジョー・ゴメスから右SBトレント・アレクサンダー・アーノルドへパスが出されると、バイタルエリアにいたCFのルイス・ディアスがゆっくりと前へ動き出し、アーノルドがボールを止めて顔を上げると一気に加速。ディアスはファー側の相手CBの背中を取り、アーノルドが上げたクロスを頭で叩き込んだ。
原則5:裏抜けする選手はパサーがボールを受ける前に走り始める
実はこの場面では、他にも「裏抜け」に関する原則が実行されていた。それが5つ目の原則「パサーがボールを受ける前に走り始める」というものである。……
Profile
木崎 伸也
1975年1月3日、東京都出身。 02年W杯後、オランダ・ドイツで活動し、日本人選手を中心に欧州サッカーを取材した。現在は帰国し、Numberのほか、雑誌・新聞等に数多く寄稿している。