サッカー界の“嫌われ者”は誰なのか?
先日、マンチェスター・ユナイテッドのFWアントニー(24歳)の試合後の振る舞いが物議を醸した。ブラジル代表経験を持つウインガーは、4月21日に行われたFAカップ準決勝の試合後に相手選手への敬意を欠くジェスチャーをしてメディアやSNSで叩かれることになった。
「俺だってこんなことはしない!」
イングランド2部のコベントリーと対戦したユナイテッドは、格下を相手に3点のリードを奪いながら追いつかれてしまい、あわや番狂わせの餌食に。何とかPK戦を制してファイナル進出を決めたのだが、試合後に批判を浴びた。PK戦の決着がついた瞬間、FWアントニーが相手チームの方を振り返りながら耳に手を当てて「聞こえない」といったジェスチャーをして、120分の死闘を演じたコベントリーの選手たちを馬鹿にしたのだ。
チームメイトのDFハリー・マグワイアが相手チームの健闘を称えて握手を求めに行くなかで、敬意を欠いたアントニーの行動は大いにバッシングを浴びた。無論、アントニーにも言い分はある。試合後にエリック・テン・ハフ監督が「彼は挑発されたんだ」と説明したように、後日アントニー本人も「僕らのファンに対する相手選手の態度が良くなかったので、僕はクラブを守ろうと挑発に乗ってしまった」とSNSで明かした。どんな事情があったにしろ、準決勝まで勝ち上がってきた2部のチームに対して取るべき行動ではなかった。なぜなら、あんなことは“一番の嫌われ者”でさえしないからだ。
試合後、アントニーの態度について『BBC』がSNSでファンに意見を求めると、ある選手がファンに混ざって自分の意見をポストした。「念のために言っておくが、俺だってこんなことはしない!」と。これを書き込んだ選手というのが、プレミアリーグ随一の“嫌われ者”として知られるブレントフォードのFWニール・モペイ(27歳)なのだ。
今季エバートンから古巣ブレントフォードにローン中のモペイは、これまで幾度となく相手選手と揉めてきた。今年1月のトッテナム戦では、先制点を決めた後に相手MFジェイムズ・マディソンのトレードマークとなっている“ダーツを投げる”ゴールセレブレーションを真似してスパーズの選手から反感を買った。2月のマンチェスター・シティ戦では、試合中にDFカイル・ウォーカーと一触即発の事態に陥った。家族を馬鹿にされたと激怒したウォーカーに対し、モペイは挑発を認めつつも、家族については一切触れていないと否定した。
境界線を守りつつ挑発を続ける
これまで何度もいざこざを起こしてきたモペイは、英紙『The Sun』が選ぶ「うざい奴ランキング」でウルグアイ代表FWルイス・スアレスなど抑えて2位に選ばれたことがある。だから彼は“嫌われ者”なのだが、超えてはいけない境界線はちゃんと心得ている。「個人的な攻撃はしないし、一度も限度を超えたことはないはず」と、モペイは英紙『The Times』のインタビューで説明している。「ギリギリまでいくけど、相手選手のプライベートや家族について触れたことはない。皆さんは試合中の姿だけで選手の人間性を判断するが、それが真の姿とは限らないんだ。僕はどう思われようが気にしないがね」
そしてモペイは、ちゃんと計算して踏み込んでいる。「みんなサッカー選手のことを『つまらない』と言うよね。それなのに僕が何かすると『アイツは最も嫌われている選手』と言われてしまうんだ。僕にとってフットボールは遊びであり、エンターテインメントなんだ。僕は楽しんでいるだけさ。そしてピッチ上では、勝つために何でもする。自分の発言で相手が苛立ってミスをしてくれるかもしれない。この戦法はなかなか効き目があるんだ。相手の感情を揺さぶることができれば最高さ」
当然、リスクはある。スパーズ戦でゴールセレブレーションを真似た時は、結局2-3の逆転負けを喫してしまい、試合後にマディソンから「彼(モペイ)は全然ゴールを決めてこなかったから自分のゴールセレブレーションがないのさ!」と揶揄された。それでもモペイは、しっぺ返しを承知で相手に食って掛かる。その性格は親譲りだという。フランス生まれのモペイだが、母親はアルゼンチン出身で「母は良い意味で感情豊かで、何か発言することを臆さない」そうだ。
だからモペイは、これからも「超えてはならない一線」だけは超えることなく、チームを勝利に導くために相手選手を挑発し続けることだろう。
Photos: Getty Images
Profile
田島 大
埼玉県出身。学生時代を英国で過ごし、ロンドン大学(University College London)理学部を卒業。帰国後はスポーツとメディアの架け橋を担うフットメディア社で日頃から欧州サッカーを扱う仕事に従事し、イングランドに関する記事の翻訳・原稿執筆をしている。ちなみに遅咲きの愛犬家。