古くから続く伝統工芸は、需要の低下などで継続が難しいものもある。愛知県高浜市の「三州瓦」もそのひとつだが、ユニークなアイデアで切り開こうとしている瓦メーカーがある。
「三州野安(さんしゅうのやす)」が挑戦しているのは、瓦を使った「ペット好きへのニーズ」だ。
■すっぽりハマる猫続出?瓦素材の猫小屋
高浜市の「三州野安」は、1913年(大正2年)に創業した、老舗の瓦メーカーだ。
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よく見る瓦はもちろん、平たいタイプや洋風なものまで、さまざまな瓦を扱っている。
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この会社で、瓦を材料にして作ったのが猫用の小屋、「瓦猫(かわらねこ)」だ。
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屋根瓦と同じ材料でできていて、表面は滑らかで、触るとひんやりとしている。
瓦を材料に猫の家を作った理由を「三州野安」の野口安則社長に聞いた。
「三州野安」の野口安則社長:
(瓦は)熱を保つ作用があって、夏はひんやり涼しくて、冬はほんのりあったかい。どの季節でも猫が快適にすごせる。衛生的にも洗うことができるということで、割れない限り半永久的に使える。
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猫は狭いところが好きで、この空間が落ち着くという。また、頑丈なため、猫が爪を研いでも傷がつかないというメリットもある。
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値段は6万円と安くはないが、これまでに200以上売れたという。
■苦しい瓦業界…出荷数は50年前の10%に
愛知県陶器瓦工業組合によると、高浜市や碧南市、半田市を中心に作られる「三州瓦」は、1700年ごろから生産が伸びていき、現在も愛知県は、粘土瓦の生産量の全国シェア75%を誇る。
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しかし、住宅着工頭数がだんだん減っていることや、新素材の屋根材が台頭していることもあり、瓦業界全体ではかなり厳しい状態だと野口社長はこぼす。
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ピーク時にはおよそ21億もの粘土瓦が全国で作られていたが、現在はおよそ2億枚と、9割も生産が減った。
■職人や学生の力も結集し瓦製の「猫小屋」が完成
業界全体が苦しい中、野口社長がハウスメーカーからもちかけられた話が「猫瓦」へのチャレンジに繋がった。
「三州野安」の野口安則社長:
ハウスメーカーさんから犬小屋ができないかっていう話があって、そこでチャレンジしたんですけど…。
試作をしたものの犬は大きさに差があるなど、実用化が難しく断念したが、スタッフのひとりが「猫って屋根瓦の上で気持ちよく寝ているよね」と話したことから、猫の小屋にシフトした。
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猫好きの社員を中心にプロジェクトチームが結成され、大同大学の学生にも協力を仰いで、瓦を使った猫の小屋を企画しました。
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猫が寛ぎやすいデザインを考え、ダンボールで試作品を作ったりしながら修正を繰り返し、日本最大級のペットの展示会に出したところ、かまくら型の瓦小屋が大好評とだったという。
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そこで、工場には猫小屋用の型を新しく作り、きれいに小窓を切り抜いてもらうため、鬼瓦を作る「鬼師」にも協力を依頼した。
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鬼師の男性:
(こういう依頼は)初めてです。大きいのでどこまでできるかなと心配はありました。
スタッフや職人、学生と、様々な力を結集させ、4年前に完成した。全国的にも注目を集め、地元・高浜市のふるさと納税の返礼品にも選ばれている。
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「三州野安」の野口安則社長:
家を建てる人が、屋根にこだわることが少なくなったんですね、瓦を知っていただくきっかけの入口としてずっと進めてきた。
■「インコだろうがカメレオンだろうが」…挑戦はこれからも続く
この猫瓦をきっかけに、さらに攻めた商品も開発した。「猫ドメ」「犬ドメ」シリーズだ。(※価格は2万2千円)
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屋根にかわいらしさが生まれ、犬好きや猫好きをアピールしたい人に好評だという。
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「インコだろうがカメレオンだろうがなんでもやってみたい」と話す野口社長は、これからも三州瓦の新しい挑戦を続けていくつもりだ。
2025年1月24日放送
(東海テレビ)