全国の認知症行方不明者数は2023年、過去最多の約1万9000人に。増加する認知症の高齢者をどう支えていくのか?58歳で認知症と診断され、63歳で行方不明になった妻を今も探し続ける夫の姿を見つめた。
58歳で認知症、娘の顔がわからない
広島県の海田警察署が掲示板で呼びかけている行方不明者に久保しげみさんの名前がある。認知症があり、当時63歳だった2023年4月から行方がわかっていない。
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夫の久保敦男さん(65)は今も妻を探し続けている。この日、敦男さんは行方不明者届けの更新を行うため海田警察署を訪れた。
「山口県、岡山県、島根県に行っていた場合、捜索願いの情報は共有されますか」
県外へ出ているかもしれないという不安に、警察官が「大丈夫です。全国手配となっていますので」と答える。行方不明者の情報公表期間はおおむね3ヵ月。あと何回、更新すれば妻は見つかるのだろうか。
「どこに行ったんだろう。どこかで亡くなっていれば発見されるだろうし…」
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しげみさんは58歳で認知症と診断された。1週間前のことが覚えられず、娘や孫の顔がわからなくなることもあった。行方不明になって以降、妻が担っていた家事を敦男さんがしている。一人で台所に立ち、湯を沸かした鍋にインスタントラーメンを入れた。
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「妻はラーメンが好きだった。必ずラーメンを食べに行っていました」
あの日からラーメンを一緒に食べることは叶わなくなってしまった。
墓参りの帰り道、先に下りた妻は…
敦男さんは約40年前からCMの制作会社でディレクターを務めている。仕事が忙しかった敦男さんは帰りが遅くなる日が多く、子どもと会う時間はほとんどなかった。
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「あまり子育てをしていなかった。ただ、そういうものだと感じて妻は何でも一人でやってくれました。感謝しかないですね。子どもをちゃんと育ててくれてありがとうという気持ちです」
今だから言える妻への感謝。しかし、その思いを伝えることはできないままだ。
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警察庁によると、認知症や軽度認知障がいがある人で行方不明になった人の数は2023年、届け出があっただけでも全国で1万9039人に上った。これまでで最も多い数である。
しげみさんが行方不明になったのは2023年4月3日、墓参りに訪れた時だった。広島市と呉市の間に位置する坂町の高台にある墓地。親族が集まったこの日、敦男さんは妻の異変に気づいていた。
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「小さい子たちが自分の孫だという認識がなかったんじゃないかと思います。久しぶりに会えてうれしいはずなのに、妻はうれしそうではなかったというか。気がつかないうちに認知症はかなり進んでいました。墓参りが終わって僕の実家まで帰る道、妻は一人で先に下りちゃって…」
敦男さんは孫たちの手を取りながら、近くにある実家に戻った。しかし、家のどこを探しても妻の姿はなかった。
「先に歩いて下りていったから妻は帰っていると思った。いないから、やばいなと」
外出中に目的を忘れてしまうことも
敦男さんはすぐに警察に通報。しげみさんの捜索活動が始まった。
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すると、墓から約6キロ離れた場所にある防犯カメラに、国道31号を呉市方面へ向かって歩くしげみさんの姿が映っていた。
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しかし、手がかりはこれだけ。
「ここから先の行方が全くわからない。手がかりがないので捜しようがない」と言い、敦男さんはうつむいた。
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しげみさんはなぜいなくなったのか。専門医は認知症が行方不明につながる可能性を指摘する。
廿日市野村病院・野村陽平理事長は「認知症の方の中で、位置感覚がわからなくなる特徴が出てきます。最初はどこかへ行こうと思っていたかもしれないが、途中でどこへ行っているのだろうと目的を忘れてしまう。名前・住所・配偶者・子どもの情報を伝えることができない場合、生存してどこかで暮らしているなら情報がない中でまわりの人が支援している状況がある」と話す。
「元気に暮らしてくれていたら」
警察の捜索が終わった後も、敦男さんは一人で呉市方面の様々な場所を探しまわった。
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倉橋島にある妻の実家も訪れ、付近の住民たちに話を聞く。
「妻が認知症を患って行方不明になっていて、もしかしたらここに帰るかも」
ところが住民からは「見たことない」という返答ばかりで、ここでも手がかりは得られなかった。
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敦男さんは妻を思い、こう話す。
「自分が誰かわからないかもしれないけど、おいしいものを食べて、何不自由なく元気に暮らしてくれていたらいい」
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高齢化が進む中、急増すると言われている認知症。そして認知症に伴う行方不明者の増加。社会はこの避けられない現実にどう向き合っていけばいいのか。家族は今も帰りを待ち続けている。
【情報提供はこちら】
海田警察署 082-820-0110
(テレビ新広島)