いまのネットをぶち壊して再創造?
欧州原子核研究機構(CERN)の職員だったティム・バーナーズ=リー(Tim Berners-Lee)氏は、World Wide Web(WWW)の構想を立ち上げ、ハイパーテキストシステム(HTTP)の原型を生みだした功績から、Webの生みの親とも称されてきました。でも、それから数十年の時が経過し、インフラとして発展を遂げた現在のインターネットに、同氏は満足していないようです。
Webは人々の目に入るものをコントロールし、インタラクティブに人と人がつながるメカニズムを構築する存在になった。それはすばらしいことだ。しかしながら、検閲やアクセス遮断、コンテンツの情報操作、意図せぬサイトへの誘導など、クリエイティブなスピリットを台無しにするものでもある。
このように懸念を表明した同氏は、米国カリフォルニア州サンフランシスコに、インターネット業界で著名なエンジニアたちを集め、新たなネットの仕組みの構築を目指す「Decentralized Web Summit」を開催。だれがどんなサイトを閲覧したかを政府機関が把握できてしまったり、一部の巨大な企業がオンラインコンテンツを情報操作してしまい、マーケティングや企業理念に沿ったコンテンツばかりが表示されてしまう、現在の中央集権的なインターネットを変えようと呼びかけましたよ。
ちなみに同氏は、あくまでもネットを牛耳るGoogleやFacebookなどに敵対的な立場を取っているのではなく、それはそれで認めつつも、もっと個人がプライバシーを保ち、自由で多様性に富むコンテンツも閲覧できるスペースを築いていきたいとの方針を打ち出しています。特定のサーバやサービス上にコンテンツを管理されてしまうのではなく、より非中央集権的で分散型のインターネットの世界をもたらしたいと語っていますね。
広告収入というビジネスモデルに頼り切っているのが、現在のWebの実態だ。現代のコンシューマーは、無料でコンテンツを楽しむためには、マーケティングに手を貸さざるを得ないとあきらめている。手渡した(個人情報の)データが、どのように用いられるのかを不気味に感じていてもだ。
Decentralized Web Summitにて、同氏は、このように発言し、問題意識を高めています。まだ具体的な新技術の詳細はみえていませんが、特定の企業が提供するオンライン決済システムに頼らず、プライベートにネット上でつながる人同士が、本当に欲しいもののために手軽に金銭を支払ってコンテンツが手に入る世界の実現も目指しているようです。また、この仕組みが完成すれば、検閲の厳しい中国などでも、なんでも自由に閲覧できたり、絶対的に当局からWebの閲覧履歴をトラッキングされなくなるんだとか。
すでにWebには、非中央集権的な構造が備わってもいる。真の問題は、1つの検索エンジン、1つの巨大なソーシャルネットワーク、1つのTwitterというマイクロブログが、Webを席巻していることにある。つまり、技術的な問題ではなく、ソーシャルな問題でもあるのだ。
再びエキサイティングで、よりプライベートにセキュアなインターネットの世界を築きたいと訴える同氏ですが、実は技術的に新たな仕組みを整えようとも、問題は別のところにあることを認めてもいるようです。まだネットを牛耳るビッグスターが誕生していない、黎明期のインターネットの盛り上がりの再来というのは、夢のまた夢でもあったりするのかもしれませんよね~。
image by ntr23
source: New York Times
Michael Nunez - Gizmodo US[原文]
(湯木進悟)