NTTと自動運転技術をはじめとしたインフラ構築に共同で取り組むことを10月31日に発表したトヨタ自動車だが、同社が自動運転絡みで進めている取り組みはこれだけではない。
実はトヨタ自動車は、既に中国4都市で自動運転タクシー(ロボタクシー)を商用化している中国の自動運転スタートアップ小馬智行(Pony ai)の大株主でもある。このPony aiが、10月17日にナスダック市場に上場申請した。
上場申請時に提出した目論見書から明らかになった同社の事業・収益について紹介したい。
4都市にロボタクシー250台投入
ライドシェアが解禁されたばかりの日本で、完全無人のロボタクシーは想像がつきにくいが、中国は既に一般消費者が自動運転タクシー(ロボタクシー)を呼べるようになっている。北京、上海、広州、深センの一線都市でもテスト営業が始まっており、4都市全てで営業許可を取得している唯一の企業がPony aiだ。
Pony aiはグーグルで7年間勤務し、中国メガテックのバイドゥ(Baidu、百度)で自動運転技術の責任者を務めた彭軍共同創業者兼CEOらが2016年に創業した。
創業時からモビリティ及び物流分野での自動運転ソリューションをグローバルで提供する目標を掲げ、現在ロボタクシーと自動運転トラック(ロボトラック)事業を手掛けている。
Pony aiのロボタクシーは特定条件下で全て自動運転を行う「レベル4」の技術を搭載し、4都市で250台以上を運行している。深セン、広州、北京の3都市では完全無人のロボタクシーが走行し(補助員が同乗している場合もある)。上海では完全無人のライセンスが降りていないため補助員が同乗しての走行となっている。
同社の配車アプリのユーザーは2024年6月末時点で22万人に達し、ユーザーの70%以上がサービスを複数回利用している。
今年9月に乗車した日本人男性によると、レクサスの車両に自動運転システムを搭載した車両は、運転席の横に1つ、後部座席の前に2つのモニターが設置され、対向車両、路上の人や自転車、バイクなどが検知されて表示されるようになっていたという。
30分ほど乗車した男性は「車線変更や信号での右左折もなめらかで、想像していたよりも高いレベルで走行していた」と話した。
創業者除くとトヨタが最大株主
同社は創業以降7回の資金調達を行い、累計調達額は12億ドル(1ドル=153円で計算、約1800億円)、評価額は85億ドル(約1兆3000億円、いずれも推定)に達する。出資元にはトヨタ、中国国有自動車メーカー・一汽集団など大手自動車メーカー、セコイア・キャピタル・チャイナ、IDG Capitalなど著名VC、さらに海外の投資機関がずらりと並ぶ。
目論見書ではIPO申請前の出資比率も明らかになった。最大株主は彭CEOで持株比率は18.9%、トヨタが13.4%と続く。
車両にレクサスを使用していることから分かるように、Pony aiとトヨタは緊密に連携している。
2019年8月に自動運転タクシーの開発に向け提携を発表し、翌2020年にトヨタがPony aiに4億ドル(約610億円)を出資した。
両社は2024年4月、ロボタクシーの量産体制を構築するため合弁会社も設立した。トヨタと広汽集団の合弁会社である広汽トヨタの工場で生産した車体にPony aiの自動運転システムを搭載した車両を、早期に1000台投入する計画だ。
Pony aiは2021年にアメリカでのIPOを模索したが、米中関係が悪化し、米証券取引委員会が中国企業の上場に対する監視を強化したため、一度は計画凍結を余儀なくされた。その後仕切り直し、2024年4月に中国当局から海外上場の承認を得て、申請にこぎつけた。上場で調達した資金は、自動運転サービスの大規模展開、市場開拓、技術開発に充てるとしている。
目論見書では2022年以降の業績も明らかにされた。2022年、2023年、2024年前半の売上高はそれぞれ6839万ドル(約100億円)、7190万ドル(約110億円)、2472万ドル(約38億円)。
純損失は2022年が1億4800億ドル(約220億円)、2023年が1億2500億ドル(約190億円)、2024年前半が5178万ドル(約80億円)。開発系だけに赤字が続くが、縮小傾向にはある。
Pony aiはロボタクシー事業の損益分岐点を「1000台体制」としており、その実現のためにトヨタとの合弁による車両生産が大きな意味を持つ。
海外の都市計画に参画
ロボタクシー分野でトップランナーの1社として知られる同社だが、ロボトラック事業の進捗ぶりも明らかになった。2024年6月末時点で190台を運用し、走行実績は累計500万キロに上る。出資元でもある建機メーカー大手の三一集団とレベル4の自動運転トラックの共同開発を行っている。
海外進出も活発だ。報道ベースでは、これまで以下の国で事業展開(準備含む)を行っている。
アラブ首長国連邦:2023年10月、先端エネルギー技術を駆使してゼロ・エミッションのエコシティを目指す砂漠の計画都市「マスダール・シティ」でスマート&自動運転車産業群(SAVI)に参加。
サウジアラビア:2023年10月、スマート都市建設プロジェクト「NEOM(ネオム)」傘下の投資ファンドと合弁企業を設立し、NEOMにPony.AIのロボタクシーの生産・開発拠点を設けることで合意。
韓国:2024年3月、韓国市場の自動運転ソリューション構築に向けて韓国のテック企業「GemVaxLink」と合弁企業を設立。
ルクセンブルク:2024年3月、自動運転自動車と技術の同国での発展に向けて政府と覚書締結。
シンガポール:2024年7月、タクシー会社ComfortDelGro Corporation(康福徳高集団)とロボタクシーの大規模展開に向け覚書を締結。
テスラ参戦、市場も競争も拡大
自動運転タクシーを巡っては、米アルファベット傘下のWaymo(ウェイモ)が米国の一部都市でサービスを展開、中国・武漢市で事業を行うバイドゥは2024年5月、年内に同市に1000台のロボタクシーを投入し、2025年の黒字化を目指すと発表した。
米テスラも先月下旬、カリフォルニア、テキサス両州で2025年中に一般向けにロボタクシーサービスを始めると発表し、台風の目として注目を集めている。
3社に比べるとPony aiは資本力に劣るスタートアップだが、その立場を生かしてトヨタをはじめ多くの大手自動車メーカーと提携し、メガテックに対抗しようとしている。日産自動車などが出資する中国の自動運転技術スタートアップ文遠知行(ウィーライド)も10月25日(米国時間)、ナスダック市場に上場した。日本では実感しにくいが、ロボタクシーを巡る自動車メーカーとテック企業の競争が今後加速しそうだ。
浦上早苗: 経済ジャーナリスト、法政大学MBA実務家講師、英語・中国語翻訳者。早稲田大学政治経済学部卒。西日本新聞社(12年半)を経て、中国・大連に国費博士留学(経営学)および少数民族向けの大学で講師のため6年滞在。最新刊「新型コロナ VS 中国14億人」。未婚の母歴13年、42歳にして子連れ初婚。