ビジネスのデジタル化が加速する日本で、データサイエンティスト人材が引っ張りだこだ。
日本の小売りを牽引するセブン&アイ・ホールディングスがデータ分析の人材を拡充すると言えば、オンライン英会話大手のレアジョブはデータサイエンティストの採用拡大を進めていく。ビッグデータと人工知能(AI)を駆使して、レアジョブは英会話レッスンをどう変えていくのか?
2017年にR&D(研究開発)室を開設したレアジョブは2018年9月、データサイエンティストとして千葉大学で統計学を学んだ山本隼汰氏(23)を採用。同社のサービスを利用するユーザーの音声データとAI(人工知能)を使って、個人にカスタマイズされた学習内容を提案する仕組みを開発する。今後はさらにデータ解析の人材を増やしていくという。
データから見えてくるユーザーの弱点
ユーザーが英語学習を進めていく時に、いつどこでつまずくのか?会話の中で不得意とする表現方法は何か?不足するボキャブラリーや言い回し方法は?レッスンでの会話をデータ化して分析すれば、一人一人のユーザーが英会話を効率的に習得できる学習方法やロードマップが見えてくる。
従来のレッスンでは、ユーザーの多くが通信ソフトのスカイプ(Skype)を利用するが、レアジョブは2018年春からPCブラウザ版やスマートフォン・タブレット向けのアプリでレッスンを受講できる「レッスンルーム」を開始。レッスンの受講をよりシンプルにするだけでなく、ユーザーは「レッスンルーム」で受講の予約ができ、一画面で映像やチャット、教材を表示することができる。
「レッスンルーム」はレアジョブが進めるデータ戦略の一部分でもある。データはレッスン毎に自動保存され、講師からレッスン中に送られたフレーズや単語などを簡単に探し出すことができる。講師とレッスン中にやりとりしたチャットの内容は、いつでもレアジョブ英会話のサイトから確認することも可能だ。
山本氏は、千葉大在学中に会計ソフトのfreeeでインターンとして働いた経験がある。同社の機械学習(マシンラーニング)ラボで、エンジニアの卵としての時間を費やした。
「データ解析、コーディング、ビジネス開発の全てをこなせる人になりたいと思っています。プログラマーとしてであれば、今の時代、中学生や高校生の中にも優秀な人たちがたくさんいます」と山本氏は話す。
「テクノロジーが進化を続けていく中で、僕たちの知識や能力も常にアップグレードを繰り返さないといけない。レアジョブでは新たなデータを作り、そのビッグデータを教育のサービスに落とし込んでいきたい」
深刻化するデータサイエンティスト不足
データ分析の需要が激増する中、データサイエンティストなどの人材不足は依然として世界的な課題だ。
戦略系コンサルティング世界最大手のマッキンゼーは2011年に既に、データ分析における人材不足が深刻化すると予測した。同年に発表されたレポート「ビッグデータ:イノベーション、競争、生産性のための未開拓領域:仮訳(Big Data: The next frontier for innovation, competition, and productivity)」の中で、アメリカは2018年までに約180万人のデータ分析能力を持つ労働者やマネジャー、アナリストが不足すると予想。
2017年12月には、IBMが「Quant Crunch(直訳:データ分析人材の逼迫)」と題するレポートをまとめ、アメリカが直面するデータ分析の人材不足が、マッキンゼーの当初予測よりも深刻化していると強調した。データ分析に関連する人材の募集数は2015年、既に235万件を超え、2020年にはさらに36万の人材が新たに必要となり募集数は272万件に達すると述べている。
2007年創業のレアジョブは、フィリピン在住の約5000人の講師をオンラインでつなぎ、「日本人1000万人を英語が話せるようにする」をミッションにオンライン英会話を運営してきた。今では、会員数を70万人までに増やし、レアジョブのサービスを導入する企業は2000社を超えた。
「ノンネイティブスピーカーとして世界1位の英語力を持つ」と言われるフィリピン人講師のネットワークを築き上げてきたレアジョブは、データ戦略を強化することで、サービスを革新的に向上させていく。データサイエンティスト人材を巡る世界的な争奪戦が続くなか、レアジョブはいかに人材を獲得していくだろうか。
(文・佐藤茂)