アメリカ陸軍参謀総長のマーク・ミリー。2015年7月21日、陸軍参謀総長に任命された上院軍事委員会にて。
Thomson Reuters
アメリカ国防長官のジェームズ・マティス(James Mattis)は、その並外れて豊富な知識と飽くなき読書習慣から「戦う僧侶」の異名を持つ。
しかし、戦闘知識と学術的見識を併せ持つ米軍将校は、元海兵隊大将のマティスだけではない。
そしてアメリカ陸軍は兵士や一般市民に対しても、「軍の由緒ある歴史、そして何世紀にもわたる紛争で果たした決定的役割に関する知識を磨くため」の読書を勧めている。
陸軍参謀総長のマーク・ミリー(Mark Milley)が薦める、国際社会の戦略的環境を理解するのに役立つ11冊を、同氏の推薦文とともに紹介しよう。
(敬称略)
※書影はすべてオリジナル版。日本語版とは異なります。
Penguin Press
Richard Haass『A World in Disarray: American Foreign Policy and the Crisis of the Old Order』
「ハースは、アップデートされた国際オペレーティングシステムを求めている。パワーが分散し、国境の意味が低下した現実を反映した『世界秩序2.0』だ」
Penguin Press
P・W・シンガー『ロボット兵士の戦争』(原題:Wired for War: The Robotics Revolution and Conflict in the 21st Century)
「驚くほど多くの関係者へのインタビューと歴史的証拠を融合させた1冊。(シンガーは)戦争の戦われ方だけでなく、その戦争を取り巻く政治、経済、法、倫理において、テクノロジーがどのように変化しているかを明らかにする」
W.W. Norton & Company
ジョン・J・ミアシャイマー『大国政治の悲劇』(原題:The Tragedy of Great Power Politics)
「国家は有史以来、自国の安全保障のために、より大きな権力と影響力の獲得に突き動かされてきたと訴える。(ミアシャイマーは)現在のエンゲージメントに対する努力や、国家間における協調関係の追求は最終的に失敗すると言い、アメリカと台頭する中国との安全保障をめぐる競争は必然的に激化するだろうと予測する」
Random House
ポール・ケネディ『大国の興亡 —— 1500年から2000年までの経済の変遷と軍事闘争 上・下巻』(原題:The Rise and Fall of the Great Powers: Economic Change and Military Conflict from 1500 to 2000)
「幅広い検証によって、経済、戦略、テクノロジー、軍事力の関係性を探求したケネディの著書。一部の国家が大国の地位を得た理由として、経済的要因の優位性を主張。同様に、軍事的野望と公約を支える財源がなくなった時、国家はつまずき、衰退するだろうと説く」
Oxford University Press
チャールズ・A・カプチャン『ポスト西洋世界はどこに向かうのか:「多様な近代」への大転換』(原題:No One's World: The West, the Rising Rest, and the Coming Global Turn)
「1500年代から1800年代まで、西側諸国はアジアや中東など他の地域をリードしてきた。……今日、中国やインド、ブラジルなどの新興諸国が勃興するにつれ、その先進性は低下している。カプチャンは、西側諸国と結びついた民主主義、資本主義、世俗的ナショナリズムといった原則が、西側諸国以外の新興国家が経済的・政治的に大きな力を得るにつれ、どのように持続されるかを考察する」
PublicAffairs
ジョセフ・S・ナイ 『スマート・パワー —— 21世紀を支配する新しい力』(原題:The Future of Power)
「変わりつつあるパワーの性質についての探求。国家の権力と影響力のあり方を再定義する上で、インターネットと情報通信テクノロジーが果たす役割について論じる」
Brookings Institution
Michael O'Hanlon『The Future of Land Warfare』
オハンロンは、「大規模紛争や大災害が起こる確率が最も高いのはどこだろうか。このうち、アメリカの軍事的オプションが必要となるものはどこか? また、問題の解決に向け、相当数の地上軍を必要とするのは、どのケースか? 」を問う。しかし、「著者はこのような活動におけるアメリカの大きな役割を予測したり、擁護しているわけではない。それらを避けられるだろうとのアメリカの過信に対して、警告しているだけだ」
Twelve
ピーター・ゼイハン『地政学で読む世界覇権2030』(原題:The Accidental Superpower: The Next Generation of American Preeminence and the Coming Global Disorder)
「ゼイハンは、地政学の厳格なルールが自由貿易に対するアメリカのコミットメントをどう侵食しているか、どれほどの国が市場と資本供給を脅かす大量退職へ向かっているのか、そして、先進国の中で唯一ますます貪欲になっているアメリカ経済が、どれほどエネルギー面での独立性を高めているかを分析する」
その上で、「脱グローバル化の世界において、地理学がこれまで以上に重要さを増しており、その点においてアメリカが非常に卓越していると結論づける」
Osprey Publishing
Louis A. DiMarco『Concrete Hell:Urban Warfare from Stalingrad to Iraq』
「市街戦に関するこの優れた研究で、ディマルコは市街地を文字通りブロックごとに占拠し、防衛する方法を説明し、自らの危険をおろそかにする現在の戦術家らに教訓を与えてくれる」
Palgrave McMillan
マシュー・バロウズ『シフト —— 2035年、米国最高情報機関が予測する驚愕の未来』(原題:The Future Declassified: Megatrends That Will Undo the World Unless We Take Action)
「バロウズは、2030年までに我々を動かす構造変革の前兆となる最近の傾向を考察している。前例のない広範囲で起こる高齢化から、急速な都市化、中間所得者層の世界的な拡大による経済力の東方シフト、破壊的技術の急増まで、様々な変化が起きている」
Johns Hopkins University Press
Jakub J. Grygiel『Great Powers and Geopolitical Change』
「高度なテクノロジーとインスタント・コミュニケーションの時代に、戦略と政治の形成における地政学の役割は過小評価される可能性がある。……一連の事例研究を通じて、政治学者のグリゲルは地政学を大戦略(Grand Strategy)に組み込むことの重要性を強調。国家は、資源や通信網の管理に焦点を当てた戦略地政学を追求することによって、その地位を高め、維持できると主張する」
[原文:11 books the US Army's top officer recommends to help understand the world]
(翻訳:本田直子)