「シドニアの騎士」で知られる漫画家・弐瓶勉のデビュー作「BLAME!」の劇場版アニメが、5月19日に全国の映画館で公開する。日本初の試みとして、劇場公開と同時にNetflixでも配信を開始。世界のアニメファンに届ける。
米国では増えつつある、劇場とオンラインの同時公開だが、日本でも今後広がる可能性はあるのだろうか?
エグゼクティブ・プロデューサーのポリゴン・ピクチュアズ守谷秀樹氏と、Netflixのジュリアン・ライハン氏がメディア向けイベントで今後の展望を語った。
企画段階からタッグ「世界に通用すると思った」
「BLAME!」は「アフタヌーン」(講談社)で1997年から2003年に連載された漫画。
無限に増殖を続ける都市システムから、人類は「違法居住者」とみなされ、駆除・抹殺されるようになった――という近未来を描いたSF作品だ。今回の映画は、原作者・弐瓶勉の総監修のもと、完全新作ストーリーとして作られている。
制作は、高いCG技術で海外でも認知度の高いポリゴン・ピクチュアズ。これまでもNetflixを通して「シドニアの騎士」「亜人」などを世界に向けて配信してきた。いずれも国外のユーザーからも高評価だったという。
その実績を受け、「BLAME!」は配信だけでなく、企画段階からNetflixとタッグを組んだ。守谷氏は「Netflixのサポートがあったから作れたもの」と振り返る。
オリジナルのドラマや映画を多数手がけているNetflix。日本発のアニメ作品の制作に携わるのは今作が初めてだ。
ライハン氏は「トップクリエイターと手を組んで企画から作り上げていくのは我々が力を入れているモデルのひとつ。『BLAME!』は原作も素晴らしく、世界に通用すると思った」と共同制作に至った経緯を話す。
劇場とオンライン。同時公開、どう差別化?
通常、劇場アニメは、映画館での公開後、一定期間経ってからパッケージ版の発売やオンラインストリーミングの配信をすることが多い。
同時公開となると、映画館への客足が減る可能性もあるが、どんなメリットや狙いがあったのだろうか。
「映画館の大画面で客席全体でライブ感を味わい、家ではじっくり楽しむ、というスタイルはかなり浸透してきているのでは。それぞれ別のよさがあると思うし、劇場版とNetflix版はなるべく差別化するよう意識した」(守谷氏)
劇場側とも丁寧にやりとりし、最終的に50館近くでの公開が決定。「アニメビジネスの展開として、新しい方法を提案できたのでは」と守谷氏は手応えを語る
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劇場版のこだわりのひとつは、音響。日本のアニメ作品として初めてドルビーアトモスを導入し、迫力ある音源を作り上げた。全6種類を用意し、劇場によって最適なものを使用する徹底ぶりだ。
対するNetflix版のよさは「繰り返し観られること」。「『シドニアの騎士』と比べても技術的にかなり進化していますし、細かいところまで作り込んだ画面に注目してもらえれば」(守谷氏)
プロモーション面でも同時公開のメリットを感じたという。
「決して誰もが知っている作品ではないので、まずは知名度をあげなければいけなかった。視聴する手段が2つあることで、オフラインとオンライン、それぞれで広くPRできた」(守谷氏)
アニメファン“以外”にも届けたい
ライハン氏は「Netflixとアニメ、まだ結びつくイメージは弱いかもしれないが、東京オフィスを拠点にこれから積極的に取り組んでいきたい」と意気込む。
「日本のアニメは発想自体がとても柔軟で、画期的な世界観やストーリーラインも多く、魅力的。Netflixを通して世界のアニメファンはもちろん、アニメになじみのない人、見たことがない人にもすごさやおもしろさを感じてもらいたい。アニメファンの裾野自体を広げられる可能性を感じている」(ライハン氏)