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【コラム】米国離脱後の世界、欧州は準備し始めた-NATO元司令官

北大西洋条約機構(NATO)の元欧州連合軍最高司令官である筆者が、このようなコラムを書くことになるとは、夢にも思わなかった。しかし悲しいかな、トランプ政権発足後まもなく、米国や欧州が発したNATOに対する懐疑的な見方や、分断をますます深めるような言葉を考えると、この由緒ある同盟を米国が撤退した場合の、世界の地政学的なあり方を考える時が来たようだ。

  私たちは本当に、NATO終焉(しゅうえん)の時を迎えているのだろうか。 もしそうだとすれば、それに代わるものはあるのだろうか。あるいは、NATOが存続したとして、米国抜きでどのような同盟になるのだろうか?

  米国がNATOを離脱するとしたら、それはとんでもない間違いだ。だが共和党には、それを真剣に主張する、または少なくともその可能性について検討する有力政治家らがいる。マリン上院議員は最近、「NATOが米国の最善の利益にかなわなくなっているのであれば、私たちは物事を再検討すべきだ」と述べた。昨年6月には、46人の共和党下院議員がNATOの予算を削減する修正案に賛成票を投じた。

  バンス副大統領は2月、ミュンヘン安全保障会議での痛烈なスピーチで、NATO軽視の姿勢をあらわにした。そしてもちろん、バンス氏をきっかけに2月28日にホワイトハウスで起きたトランプ氏とウクライナのゼレンスキー大統領のあり得ない公開口論を見ると、米国の今後のNATO協力にはあまり期待できそうにない。

  欧州では、米国のコミットメントに対する疑念が高まっている。フランスのマクロン大統領は長年、欧州独自の防衛軍、すなわち「戦略的自立」の必要性を訴えてきた。マクロン氏と英国のスターマー首相はそれぞれ、ウクライナの戦争を終わらせるための別のイニシアチブについて話し合うため、欧州の指導者たちによる緊急会議を開催した。

  ドイツの次期首相候補メルツ氏も国内メディアとのインタビューで、「トランプ氏がNATOの集団的防衛義務を無条件では守らない可能性に備えなければならない。欧州が最大限の努力をし、少なくとも欧州大陸を自分たちだけで守れるようにすることが極めて重要だ」と率直に語った。

NATO's Biggest European Spenders

Germany overtakes UK with largest European defense budget

Source: IISS 2025 Military Balance report

Note: 2024 defense spending

  ゼレンスキー氏が「欧州軍」を求めるのも当然だ。これは「もはや米国を当てにはできない」という暗示であり、先週トランプ氏から痛烈な非難を受ける前から推し進めてきたことだ。

  だが、こうしたレトリックにもかかわらず、米国にNATOが提供できる価値は今なお高い。ロシアの侵略の脅威とトランプ氏の圧力に後押しされ、欧州の国防費は、ようやくNATOが目標としていた国内総生産(GDP)の2%に達しようとしている。NATOは今、米国の支出水準である3.5%以上への引き上げも真剣に検討している。

  欧州の防衛予算は、全体では中国やロシアを上回る世界第2位の規模だ。仏エアバス、英ロールスロイス、独ラインメタルやスウェーデンのサーブといった欧州の大手防衛企業は、膨大な量の高性能機器を製造している。これらの企業は生産量を増やし、米国の防衛企業とその労働者を押しのけて巨大な契約を獲得しようとしている。

  欧州に対する私たちの不満とは裏腹に、米国は最終的には、太平洋地域で高まる一方の中国の脅威に対抗するため、欧州の支援を必要とするだろう。サイバーセキュリティー、インテリジェンス、宇宙活動における欧州の貢献は重要だ。NATOに加盟する6カ国がロシアに相対する北極圏での活動においても、欧州の協力は不可欠になる。

  だが、米国が一部の右派の意見に従って正式に同盟を脱退し、10万人近い兵力を欧州から撤退させたり、または資金拠出を停止したりすれば、NATOは崩壊するだろう。

European "Independence"?

US personnel by country shows legacy of post-WW2 security

Source: EUISS

Note: Greenland not shown

  その場合、何が取って代わることになるのか。おそらくは、現在のNATOを基盤としつつ、米国を除いた「欧州条約機構」(ETO)が誕生するだろう。カナダはETOへの参加を選ぶかもしれない。トルドー首相は2日、欧州緊急首脳会議に出席するためにロンドンへ駆けつけた。同国は、北極圏における安全保障パートナーとして、欧州を必要としている。

  あるいは欧州連合(EU)の支援の下、非加盟国である英国も含めた新たな安全保障体制の構築もあり得る。EUはすでに、よく整備された指揮系統、10年前には筆者の同僚だった最高司令官(EU軍事委員会議長)を有している。また、バルカン半島での平和維持活動など、米国やNATOとは独立した活動の経験も豊富だ。

  これは、未知の領域である。これまでNATOから完全に撤退した国はない。しかし、もし米国が離脱すると決定した場合、筆者は欧州が3つの行動を取ると予測する。

  まず、彼らは防衛費の増額を継続し、特に核戦力の増強を図るだろう。英国とフランスはすでに核保有国だ。彼らは攻撃と防衛の両面で宇宙軍を強化し、インテリジェンス、サイバー攻撃、宇宙活動への支出を増やして米国の活動と競合するようになるだろう。ロシアの脅威を考慮すると、より広範な徴兵制を検討することもあり得る。スウェーデンやフィンランドを含む欧州の複数の国では、現在すでに、何らかの兵役が義務付けられている。

  第二に、欧州の外交・防衛政策は、米国と急速に乖離(かいり)していくことになるだろう。米国と足並みをそろえて中国に対峙(たいじ)するよりも、欧州はロシアと米国が連携を深める場合への備えとして、中国との経済協力、さらには軍事協力さえ模索する可能性がある。おそらくは、中国の「一帯一路」構想に参加する欧州の国が増えることになるだろう。米国と共にイランの核開発を理由に同国に圧力をかけることにも消極的になり、欧州はイランでの経済的利益を追求するようになるかもしれない。

  最後に、欧州はウクライナを強く支援するだろう。農業国で鉱物資源の豊富なウクライナがプーチン大統領に降伏するようなことがあれば、欧州にとっての悲劇になるからだ。

  NATOが設立された理由については、昔からこんな言い方がある。「ドイツを鎮圧し、米国を中にとどめ、ロシアを締め出すため」だ。もし米国が世界で独自の道を行くことを決断すれば、それが1920年代、30年代に悲惨な結果をもたらしたように、この均衡は崩れ去る。

  そして、新しい表現はこうなるかもしれない。「米国が去り、ロシアが入り込もうとしている中、欧州は抑え込まれないだろう」と。

(NATO元欧州連合軍最高司令官で、タフツ大学フレッチャー法律外交大学院の名誉学部長のジェームズ・スタブリディス氏は、ブルームバーグ・オピニオンのコラムニストです。このコラムの内容は必ずしも編集部やブルームバーグ・エル・ピー、オーナーらの意見を反映するものではありません)

原題:Europe Is Getting Ready for the End of NATO: James Stavridis(抜粋)

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