未成年の性別違和治療禁止法、連邦地裁が無効判断 米アーカンソー州

A trans youth and her family attends a rally in support of trans rights at the Texas State Capitol

画像提供, Getty Images

米アーカンソー州の連邦地方裁判所は20日、同州が2年前に定めた、トランスジェンダーの未成年に医師が性別違和(性同一性障害)の治療を行うことを禁じる法律を無効とする判決を出した。

アーカンソー州はアメリカで初めて、未成年がホルモン療法や性別適合手術などを受けられないようにする州法を定めた。以来、少なくとも19州が同様の禁止措置を導入している。

しかし、同州連邦地裁のジェイ・ムーディー判事は、この州法が「子供を保護」していると、同州は証明できなかったと結論付けた。

この決定は、共和党が与党となっている他の州でも、同様の措置に影響を及ぼす可能性がある。

アーカンソー州政府は、控訴するとしている。

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無効とされた州法は、共和党が優勢のアーカンソー州議会で2021年4月に制定された。同党所属のエイサ・ハッチンソン知事(当時)は、同法を「巨大な政府の越権行為」と批判し拒否権を発動したが、議会がこれを覆した経緯がある。

今回の裁判は、アメリカ自由人権協会(ACLU)がトランスジェンダーの10代の若者4人とその家族、医師などを代表して起こした。8日間にわたる審理では、子供や親、医師らが、性別違和の治療の結果、子供の生活が改善したと証言した。

一方で州政府は、こうした治療の安全性や、性別違和に関する研究の信頼性を疑問視する4人の専門家と、「ディトランジション(性転換をやめること)」した成人2人を証人として呼んだ。

ムーディー判事は判決の中で、州は「禁止された治療が効果的でない、あるいは実験的だという十分な証拠を提出できなかった」とした。一方で原告については、治療が「青年期の性別違和に伴う臨床的に重大な苦痛を和らげることができる」ことを示したと述べた。

また、18歳未満に対するホルモン治療や思春期阻止剤の使用、手術を禁止することは、合衆国憲法に基づくトランスジェンダーの子供たちとその家族の権利を侵害すると述べた。

「真実を生きられるように」

原告の1人であるディラン・ブランドさん(17)は、判事の決定に「とても感謝している」と話した。

「母と私は、私の医療を守るためだけでなく、私のようなトランスジェンダーの人々が安全かつ完全に真実を生きることができるようにするためにも、この法律と闘いたかった」

一方、アーカンソー州のティム・グリフィン司法長官は控訴の意向を示し、「これらの治療が子供たちに利益をもたらすという科学的根拠はないが、治療の結果は有害で、多くの場合は永久的だ」と述べた。

サラ・ハッカビー・サンダース州知事(共和党)も、控訴すると発表。「これは『治療』ではない。活動家が政治目的を推し進めるために子供たちを人質にし、永久的で有害な処置を負わせようとしている」と述べた。

「子どもを守るのが不適切だとされるのは、左翼のウォーク(社会問題への認識が高い人を指す)が持つアメリカのビジョンの中だけだ」

ACLUは他にも7州で、トランスジェンダーの未成年に対するホルモン治療や外科手術を禁止する州法に異議を唱えている。アーカンソー州での決定が、これらの裁判の前例となるかもしれない。

連邦裁判所はこれまでも、アラバマ州、フロリダ州、インディアナ州で同様の法律の施行を阻止してきた。

ACLUでトランスジェンダーの正義担当副主任を務めるチェイス・ストランジョさんは、「今回の決定が、こうした法律の脆弱(ぜいじゃく)性と、それを成立させることで生じる多くの弊害について、他州にメッセージを送ることを願っている」と述べた。