ロシア、ウクライナ4州の「編入」を一方的に宣言 ウクライナはNATO加盟申請を発表
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は30日、ウクライナ東部と南部の4州を一方的にロシアに併合すると宣言した。「ロシア編入」の是非を問うため占領地で行った、ロシアが「住民投票」と呼ぶものの結果、現地住民がロシア編入に賛成したと主張。4州でロシアが任命した行政幹部4人が、「編入」のための文書に調印した。これに対抗してウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は同日、北大西洋条約機構(NATO)への加盟手続きの加速を申請すると表明した。
プーチン大統領はモスクワの大クレムリン宮殿で、ロシアが一部を占領する4州でロシアが任命した行政幹部をはじめ、ロシア政府幹部が居並ぶ前で演説。ウクライナの東部ルハンスク、ドネツク、南部ザポリッジャ、ヘルソンの4州の住民が「選択した、あり得る唯一の選択をした」と述べ、4州は「永遠」にロシアの一部だと宣言した。
プーチン氏のこの宣言と演説の後、ウクライナ4州でロシアが任命した行政幹部は「編入」文書に調印。これをもってウクライナ4州の住民は、ロシア国民だと宣言した。4州はウクライナ国土の15%に当たる。
これは国際法上、認められていない。国連のほか西側諸国は、ロシアが「住民投票」と呼ぶものを、見せかけにすぎないと非難している。ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は、「偽の住民投票」に価値はなく、現実を変えるものではないと批判。欧州理事会は30日のプーチン氏の演説を受けて、「我々はこの違法な併合を絶対に認めない」と声明を出した。
ウクライナはNATO加盟申請へ
ロシアのこの動きに対抗してウクライナ政府は、迅速なNATO加盟手続きを申請すると発表した。
ゼレンスキー大統領は首都キーウで、デニス・シュミハリ首相、ルスラン・ステファンチュク最高議会議長と共に、申請書に署名したと明らかにした。
このコンテンツは開けません
Twitterでさらに見るBBCは外部サイトの内容に責任を負いません。ゼレンスキー氏は、ウクライナは以前から「事実上」NATO加盟国だったと述べ、ロシアが「殺人と恐喝、不当な扱いとうそ」によって国境を引き直していると非難した。
「我々はNATOへの迅速な加盟手続きを求める申請書に署名し、断固とした一歩を踏み出す」と大統領は述べた。
NATOのイエンス・ストルテンベルグ事務総長は、この申請については加盟30カ国が決めることだと態度を保留した。ただし、ロシアによるウクライナ領の併合を非難し、「開戦以来最も深刻なエスカレーション」だとした。
数百万人の民意とプーチン氏
しかし、「編入」文書の調印に先立ち、ロシアが「住民投票」と呼ぶものについてプーチン氏は、その「結果は知られている、広く知られている」とした上で、これは投票した住民の「自然権」だと述べた。さらに、「ロシア連邦議会は、ロシアに新しい4州ができることを、ロシア連邦に4つの自治体が加わることを承認するはずだと確信している(中略)これは数百万人の人の民意だからだ」と述べた。演説に集まった政府幹部らはこれを拍手で迎えた。
プーチン氏はさらに、この4州をめぐり歴史上、何世代ものロシア人が戦ってきたのだと述べた。また、ウクライナにおける「特別軍事作戦」のために命を落とした「勇敢な兵士」たちのために、黙祷(もくとう)を呼びかけ、会場に集まった全員がそれに応じた。
プーチン氏は、「特別軍事作戦に参加している兵士たちに呼びかけたい」と述べ、さらに兵士たちの妻や子供たちにも、「我々が何のため戦っているか」理解しなくてはならないと呼びかけた。
プーチン氏は、ルハンスク、ドネツク、ザポリッジャ、ヘルソン4州の「ロシア編入」はもはや交渉対象になるものではないと述べた上で、ウクライナに停戦交渉に応じるよう呼びかけた。
<関連記事>
アメリカの原爆投下は「前例」と
プーチン氏は37分続いた演説でこのほか、ソヴィエト連邦の崩壊以降、西側諸国がロシアを屈服させ、ロシア文化を否定しようとしてきたという、従来の主張を繰り返した。
プーチン氏はロシアが豊かな天然資源などを持つ強力で広大な国だと強調し、西側は「これほど豊かな国が存在するというのが、受け入れがたいのだ」と述べた。
プーチン氏はさらに、西側諸国がロシアを「植民地化」しようとしており、そのためにロシアに対して「ハイブリッド戦争」を仕掛けて、ロシアを解体させようとしているのだと主張した。
「我々が自由な社会でいるのを(西側は)見たくないのだ。連中は我々を、奴隷の集まりとみなしたいのだ」とプーチン氏は述べた。集まった政府幹部が拍手すると、プーチン氏は「(西側は)ロシアを必要としていない。我々にはロシアが必要だ!」と述べた。
プーチン氏はこのほか、ロシアと欧州を結ぶ天然ガスパイプライン「ノルド・ストリーム」からガスが漏れている問題について、「アングロサクソン」による「サボタージュ」が原因だとも述べ、米英を非難した。
さらに、核兵器の使用については、「アメリカは世界で唯一、核兵器を2度も使用した国だ」として、アメリカがかつて第2次世界大戦の終盤に広島と長崎に原爆を投下したことに言及。「日本の広島と長崎を破壊した時、アメリカはそれによって前例を作ったのだ」と述べた。プーチン氏はこれまでの演説で、「あらゆる手段」を使う用意があると述べ、「はったりではない」と強調してきた。
ウクライナ4州の「ロシア編入」文書調印が終わると、クレムリン宮殿の大広間に集まった政府幹部らは、「ロシア! ロシア! ロシア!」と叫び、式典を締めくくった。
ロシア国内の手続きでは今後、憲法裁判所と連邦院がそれぞれ4州の「編入」を承認した後、国会の批准を経て、プーチン大統領が署名する。ロシアの上下両院は10月初旬にも、併合に関する条約を正式に批准する見通し。
「永遠に一緒」
ウクライナ4州の併合を宣言した式典の後、モスクワ中心部の赤の広場では、併合を祝うテレビ中継のコンサートが行われた。
集まった群衆を前にプーチン氏は4州併合を祝い、「我々は勝利する」と述べた。
コンサート会場には数千人が集まり、多くの人がロシア国旗を手にしていた。ただし、モスクワで取材するBBCのウィル・ヴァーノン記者によると、参加者の多くは団体としてバスで送り込まれてきたと話したという。
同日夜にロシアは国連の安全保障理事会で、4州併合をの非難決議案に拒否権を行使した。ロシアのワシリー・ネベンジア国連大使は、常任理事国を非難する決議案など前例がないと抗議した。
自国を非難する決議案をロシアが拒否するのはあらかじめ予想されていたのに対し、インドと中国は棄権した。
欧米は認めず
国連安保理では非難決議案が採択されなかったものの、アメリカや欧州はこぞってプーチン氏を非難した。
アメリカのジョー・バイデン大統領は、プーチン氏がウクライナ領を「詐欺」によって奪い取ろうとしていると非難し、一連の動きは「国連憲章をふみにじるもので、世界中の平和的な国々を見下している」行為だと述べた。
フランスのエマニュエル・マクロン大統領は、「ロシアの侵略にウクライナの人たちが対抗するのを支援する」として、「ウクライナがその全土について完全な主権を回復するよう」ウクライナを支援すると述べた。
欧州理事会はこれについて、ロシアによるウクライナ4州の一方的な併合を「断固として拒絶し、きっぱりと非難する」と声明。ロシアによる「併合」は国際法上、何の意味もないと主張した。
「我々はこの違法な併合を絶対に認めない」として、ロシアが「ウクライナの独立という基本権」を「あからさまに」侵害したと非難。
欧州連合(EU)は「決然と」ウクライナを支持し、ロシアへの制裁を強化するとした。
欧州委員会のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長は、「ロシアの侵略者が違法に占領した領土はすべて、ウクライナのものだ」として、プーチン大統領による宣言では何も変わらないと述べた。
ロシアが「住民投票」と呼ぶものを、ウクライナ政府のほか西側諸国は「見せかけ」で「偽」の投票だと非難してきた。バイデン米大統領は29日、ウクライナ領土を併合しようとするロシアの動きをアメリカは「決して、決して、決して」認めないと述べ、国連のアントニオ・グテーレス事務総長は、国家の領土を武力行使によって併合することは、国連憲章と国際法に反する行為だと批判している。
ロシア側がウクライナ国土の15%に当たる地域で進めた自称「住民投票」は、わずか数日の予告期間の後に実施された。独立した監視は実施されなかった。
選管当局者らが武装兵士を伴い、民家を1軒ずつ訪ねていたことが、写真で記録されている。ロシア国営メディアは、安全確保のために武装警備員が出ていたと説明。ただ、住民を威嚇する効果もあったことは明らかだった。
ザポリッジャ州エネルホダルの女性は、投票の方法について、「口頭で答えなくてはならず、兵士が回答を書類に書き込んで保管する」とBBCに証言した。
プーチン氏は29日、中南部のザポリージャ州と南部ヘルソン州の「独立」も承認し、併合への準備を進めていた。東部ドネツク州とルハンスク州は2月に「独立」を一方的に承認していた。
ドネツク要衝ではロシア軍が包囲され
プーチン氏がモスクワで演説していた最中、モスクワから750キロ離れたウクライナ東部の要衝リマンでは、ロシア軍が包囲されていた。
リマンは、プーチン氏が併合を宣言したドネツク州内にあり、ロシア軍が補給拠点としてきた。3000~5000人がの兵士がウクライナ軍に包囲されているという。
ウクライナ内務省のアントン・ヘラシュチェンコ顧問はソーシャルメディアで、「ウクライナ軍は占領者を三方から攻撃している。占領者の状況は『きわめて複雑』だ」と書いた。
ロシア編入を決めた自称「ドネツク人民共和国」を率いるデニス・プシリン氏は、リマンが「部分的に包囲」されていることを認め、その近郊に2カ所の村も「我々が完全に統治できていない」と述べた。
ウクライナ軍はこれまで、ドネツク州で進軍する様子を明かさないようにしたきたものの、ソーシャルメディアに投稿された動画では、リマンから南東16キロにあるヤンピル市の中心部にウクライナの部隊がいる様子が映っていた。
ウクライナ国防省は30日夜、リマンから北西8キロにあるドロビシェヴェの町を掌握したと発表した。