イギリスの法廷弁護士、かつらと法服姿でストライキ 報酬「低すぎる」

Barristers in wigs picket outside the Old Bailey in central London

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画像説明, イギリス中央刑事裁判所(オールド・ベイリー)前には法服と巻き髪のかつら姿の法廷弁護士が集まった

英イングランドとウェールズ各地で27日、刑事事件を担当する法廷弁護士が、報酬への不満を理由にストライキに入った。

法廷弁護士たちは、法律扶助業務の報酬の15%引き上げ案に反発している。刑事弁護士協会(CBA)のメンバーは、引き上げ率が低すぎるとして、最低25%の上げ幅を要求している。

ストライキは4週間にわたる予定。1週目は27日と28日に、2週目は3日間、3週目は4日間、4週目は5日間、法廷弁護士は出廷しない。

英ロンドンの中央刑事裁判所(オールド・ベイリー)では10件の裁判のうち8件がストライキによって中断されたと、裁判所の外に集まった法廷弁護士は話した。

同裁判所前には、法服と巻き髪のかつら姿の法廷弁護士数十人が結集。この日予定されていた2件の殺人事件裁判(そのうち1件の容疑者は10代)は開かれなかった。

バーミンガムやマンチェスター、カーディフ、ブリストルの刑事法院など、よく知られた裁判所の前でもストライキが行われている。

ドミニク・ラーブ法相は、複数の裁判所ですでに5万8000件が滞っており、今回のストライキは「正義を遅らせる」ことになると述べた。

ストライキの参加者たちは、イングランドとウェールズの裁判官トップにあたる、高等法院の首席裁判官バーネット卿から、出廷しなければ不当行為として懲戒手続きを受ける可能性があると警告を受けている。

賃上げを要求、昨年には300人が離職

CBA会長のジョー・シドゥ勅選弁護士によると、過去5年間で刑事専門の法廷弁護士が4分の1減ったという。昨年の離職者は300人だった。

Criminal barristers strike action

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画像説明, イングランド中部バーミンガム刑事法院前で声明を読み上げるCBA元会長のリチャード・アトキンス勅選弁護士

CBA副会長のカースティ・ブライメロウ勅選弁護士は、法律扶助の報酬の引き上げは来年末まで導入されないだろうと指摘。若手弁護士の離職を食い止めるには手遅れだと、BBCに語った。

法律扶助制度では、弁護士を雇う余裕のない被疑者に適切なアドバイスと弁護を提供するため、英政府が法廷弁護士費用を負担している。

法律扶助を担う法廷弁護士の報酬は政府が設定する。

Criminal Bar Association chair Jo Sidhu with a megaphone surrounded by barristers outside the Old Bailey

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画像説明, CBA会長のジョー・シドゥ勅選弁護士は中央刑事裁判所前で、ストライキを起こした同僚たちが「壮大なスケールの危機に飲み込まれている」と訴えた

首相官邸は、一般的な法廷弁護士で年収が約7000ポンド(約116万円)アップとなる、15%の賃上げ案に同意するよう法廷弁護士に求めた。

しかし、ブライメロウ勅選弁護士はマンチェスター刑事法院前でBBCに対し、このシステムは新型コロナウイルスのパンデミック中を含め、長い間「善意」のもとで成り立ってきたと説明。下級法廷弁護士は「ばかばかしいほど長時間」働いていると語った。

そして、この問題は「法廷弁護士ではなく政府が引き起こしたものだ」と述べた。

法廷弁護士で作家のクリス・ドー氏はBBCニュースに対し、下級法廷弁護士は「はした金」で働いていて、裁判が延期になると全く何ももらえないこともあると話した。

また、政府が提案した15%の賃上げはとうてい「満足できる」ものではなく、施行される頃には「インフレで帳消しになる」だろうと指摘した。

その上で、政府が方針を変更しなければ、ストライキは8月か「それ以降」まで続くだろうと述べた。

刑事司法に携わる弁護士(実際に出廷する法廷弁護士と、指導する側の事務弁護士)の数はこの10年で減少傾向にある。法律扶助制度の対象となる事件を担当すると生活が成り立たなくなるとの声が多くあがっている。

法廷弁護士の収入は?

イギリスの法廷弁護士は個人事業主であり、多くの場合は高収入だと思われている。

ある独立調査によると、2019~2020年の刑事事件を扱う法廷弁護士の年収の中間値は7万9800ポンド(約1330万円)だった。

しかし経費などを差し引くと、その額は5万5900~6万2900ポンド(880万~1050万円)に落ち込むという。

新人の法廷弁護士であれば、交通費などの経費を差し引いた年収が9000ポンド(150万円)まで下がる場合もある。さらに、裁判の準備に時間がかかるため、時給が最低賃金を下回るという声もある。

経験年数が0~2年の法廷弁護士の年収の中間値は2万5100ポンド(約400万円)、経費を差し引くと1万8800ポンド(約310万円)だ。

一方、会社法などを取り扱っている別分野の弁護士は、キャリアの初期から10万ポンド(約1700万円)の年収を見込めるという。

「生活費には足りない」

Claire Stevenson
画像説明, 下級法廷弁護士のクレア・スティーヴィンソン氏

下級法廷弁護士のクレア・スティーヴィンソン氏は、自分がどの裁判に出廷するのかは前日に決まり、どの裁判も何百ページもの資料を伴っていると話した。

BBCの取材でスティーヴィンソン氏は、「確実に被疑者の利益になるよう行動するため(中略)一晩中、資料を読み続けなければならないかもしれない」と述べた。

刑事弁護士の報酬は、準備や裁判について支払われるほか、勤務した日数に応じた追加報酬もある。

しかし、そうした報酬の対象外の仕事が大量にあるため、十分な報酬を得ていないとスティーヴィンソン氏は語った。

「裁判の当日に行けば大丈夫と思われがちだが、そうではない」

スティーヴィンソン氏は、数年前にキャリアをスタートさせた時には年間約1万2000ポンドの報酬を得ていたが、それ以降は「単純に生活費が支払えなくなった」ため、他の法律分野の仕事をするようになったという。

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Infographic showing key numbers from the barristers' strike

ブライメロウ勅選弁護士によると、昨年は60件の性犯罪事件を含む567件の刑事裁判が、起訴や弁護を担当する法廷弁護士がいなかったために、進行不能に陥ったという。

また、王立裁判所・審判所サービス(HMCTS)によると、4月末までに5万8271件の裁判が滞っている。

ラーブ法相は、ストライキを「遺憾に思う」と述べると共に、この「最も妨害的な選択肢」には、CBA会員の43.5%しか賛成していないと述べた。

ストライキをめぐる投票では、参加したCBA会員で2055人の81%以上がストライキに賛成した。また、53.4%は新たな裁判の取り扱いや「仕事に戻る」こと、つまりこの事態において、他の同僚のために審理を肩代わりすることを拒否している。