音声SNS「クラブハウス」に中国人が殺到、香港問題など議論 当局の検閲なく

メアリー=アン・ラッソン、BBCニュース・ビジネス記者

The Clubhouse app on an iPhone

画像提供, NurPhoto

iPhoneなどのiOSアプリのみに対応している音声SNS「クラブハウス」の新規ユーザーが先週、爆発的に増加した。その中には、政治について議論する中国人も含まれる(編注:8日夜には、中国大陸からクラブハウスにつながらなくなった)。

モバイルアプリの分析を行う調査会社「センサー・タワー」によると、「クラブハウス」は1月31日までに230万回ダウンロードされた。

この音声チャットアプリの使用は無料だが、現在は招待された人のみ参加できる。

しかし中国のユーザーは最大77ドル(約8000円)を支払い、Eコマース(電子商取引)サイトから同アプリへの招待を入手していると、英紙フィナンシャル・タイムズは伝えている。

昨年4月に立ち上げられたクラブハウスは、評価額が1億ドル(約105億円)近くに上った。ユーザーは公開あるいは非公開の音声チャットルームに参加できる。

会話は録音されないため、理論的にはプライバシーが確保されているが、セレブやインフルエンサーなどの一部インタビューが密かに録音され、ユーチューブにアップロードされている。

当初、同アプリを取り入れていた人のほとんどはシリコンバレーの技術者や投資家だった。しかし、招待制という性質が魅力的な特別感をもたらし、米司会者オプラ・ウィンフリー氏や米俳優アシュトン・カッチャー氏、カナダのラッパーのドレイク氏、米ラッパーのアジーリア・バンクス氏、米俳優ジャレッド・レト氏、米女優ティファニー・ハディッシュ氏ら多数のセレブが参加するようになった。

米電気自動車(EV)メーカー「テスラ」のイーロン・マスク最高経営責任者(CEO)や米フェイスブックのマーク・ザッカーバーグ最高経営責任者(CEO)らハイテク界の大物がインタビューやトークショーに参加するためにクラブハウスに加わったことで、同アプリのダウンロード数はここ2週間で2倍以上に増加した。

マスク氏が同アプリでライブトークを行うとツイートすると、1日のクラブハウス株は117%急騰した。

物議を醸す話題を自由に議論

現時点ではクラブハウスはiPhone上でのみ利用が可能だ。中国の大規模なファイアウォールを迂回するための仮想プライベートネットワーク(VPN)を使わずに、中国大陸からアクセスできる(編注:8日夜には、VPNなしでは中国大陸からクラブハウスにつながらなくなった)。

チャットルームの多くは非公開あるいは削除されているが、週末には何千人もの中国人ユーザーがクラブハウスのチャットルームに参加。香港での抗議活動からウイグル人の扱い、中国と台湾の緊張の高まりに至るまで、中国ではタブーとされている話題を自由に議論した。

クラブハウスでの音声会話を聞いた複数の中国人ユーザーは、自分たちが聞いた内容についてツイッター上で議論した。

クラブハウス・ユーザーのアーレント・フートン氏は、ウィグル人とジャーナリスト、中国人の間で交わされた会話を聞いたとツイート。「泣きたくなるくらいとても誠実で平和的」なやりとりだったとした。一方で別の会話では、中国大陸の若者たちが香港の若者から最新情報を聞き、同情を示していたという。

「中国人ユーザーにとってはおそらく、普通の人たちと無検閲のコミュニケーションを取ることが、クラブハウスを使う最大の意義だろう」(北京語から翻訳)

アメリカを拠点とするポッドキャスターのカイザー・クオ氏は、チャットルームでは新疆ウイグル自治区について「素晴らしく率直」なコメントが見られたとツイートした。

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クオ氏は中国大陸の人たちが、ウイグル人に対する人権侵害の証拠についてや、中国政府がしていたことが正しいかどうかを議論していたと報告した。

一部には中国を擁護したり、ウイグル問題に否定的なコメントがあったが、新疆ウイグル自治区で拘束され、パスポートを没収されたとする話に耳を傾けようとする姿勢が見られた。

ただ、中国政府がクラブハウスへのアクセスをいつまでも認め続ける可能性は低い。

クラブハウスの収益化

現在は招待制ではあるものの、DJの生演奏やセレブのトークショーのほか、スピードデートといった音声ベースの幅広いアクティビティが提供されている。

こうしたアクティビティはどれも収益化されていないが、米紙ニューヨーク・タイムズによると、クラブハウスは人気ユーザーを「インフルエンサー(影響力の高い人)」として特別待遇にする計画だという。

A screenshot of an recording of Elon Musk's Clubhouse interview on the app

画像提供, YouTube

画像説明, イーロン・マスク氏のクラブハウス・インタビューのスクリーンショット

40人以上のクラブハウス・インフルエンサーは「クリエイター・パイロット・プログラム」に招待され、アプリ創設者との定期的なミーティングに出席したり、新しいツールへの特別なアクセスを与えられたりするという。

一方で同アプリをめぐっては、内容を精査する仲介役が不在のため、批判の声も上がっている。

カルチャーサイト「Vulture」は昨年12月の記事で、チャットルームの仲裁役が注意しなければ、話題が当初の目的から簡単に脱線してしまい、議論が攻撃的なものになりかねないと指摘。セレブでさえも攻撃される可能性があるとし、クラブハウスは「インターネット上の新たな荒れ地」と化す「瀬戸際」にあると主張した。

「アプリを一般公開すれば、この若いアプリに今ある、混沌(こんとん)としてチルでクールな感じのバランスが失われるのか、まだ分からない。アプリの特権性が薄れ、誰もがログインできるようになった時、有名人の常連ユーザーたちがそのまま残るのかも分からない。さらに、90年代のチャットラインみたいに見知らぬ相手と出会える音声アプリに、いま自分たちが興味を持つのはただ単に、みんな家から出られなくて孤独だからなのか、それ以外の理由があるのか。それも今後の見通しとして大事だ」と、Vultureのクレイグ・ジェンキンス氏は書いた。