中国のCO2排出量、2060年までに実質ゼロに 習主席が表明
マット・マグラス、BBC環境担当編集委員
中国の習近平国家主席は22日、二酸化炭素(CO2)排出量を2030年までに減少に転じさせ、2060年までにCO2排出量と除去量を差し引きゼロにするカーボンニュートラルを目指すと表明した。
習主席はこの日、国連総会の一般討論でビデオ演説を行った。
中国は世界最大のCO2排出国で、世界全体の排出量の28%を占めている。
今回の発表は、気候変動との闘いにおける重要な一歩とみられている。
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気候変動をめぐっては、国際交渉が行き詰まり、新型コロナウイルスの影響で第26回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP26)の開催が2021年に延期される中、国連総会での進展もほとんど期待されていなかった。
しかし習氏は中国のCO2排出量削減計画について大胆な発言をし、各国を驚かせた。
習氏は各国に対し、新型ウイルスのパンデミック(世界的流行)後の世界経済回復を達成するよう呼びかけた。
CO2排出量、2060年までに実質ゼロに
国連総会の公式翻訳によると、習氏は「我々はCO2排出量を2030年までに減少に転じさせ、2060年までにカーボンニュートラルを目指す」と述べた。
中国はこれまで、CO2排出量を遅くとも2030年までに減少に転じさせるつもりだとしつつ、長期的な目標に取り組むことは避けてきた。
世界の多くの国が化石燃料から環境負荷の低いエネルギー源への移行を始めたにも関わらず、中国のCO2排出量は2018年と2019年に増え続けた。
新型ウイルスによる感染症COVID-19危機の影響で、中国のCO2排出量は一時25%激減したが、石炭火力発電所やその他の重工業が再び稼動したことで、6月までに排出量は元に戻った。
「大胆かつ入念に計算された」発表
このタイミングでの中国の発表をめぐり、気候変動問題に取り組むことに消極的なアメリカの姿勢を習氏が利用しているのではとの観測が上がっている。
環境保護団体グリーンピース・アジアの中国の気候政策専門家の李碩氏は、「ドナルド・トランプ氏の演説の数分後に発表された、国連での習近平氏の気候変動に関する公約は、大胆かつ入念に計算されたものであることは明らかだ」と述べた。
「習氏が、地政学的な目的のために気候変動を利用することに、一貫した関心を持っていることがうかがえる」
2014年に習氏と当時のバラク・オバマ米大統領が気候変動対策でサプライズ合意し、翌2015年12月に195カ国が署名したパリ協定の重要な構成要素となった。
習氏は再びサプライズ的な表明を行ったと、李氏は言う。
「少し違ったかたちで気候変動というカードを切ることで、習氏は国際的な気候変動政策に大いに必要とされる勢いを加えただけでなく、興味を引きつける地政学的な問題を世界に提示した。世界共通の問題について、中国はアメリカに関係なく前進している。米政府はこれに追随するだろうか」
「重大で重要なニュース」
習氏の発表をめぐっては、カーボンニュートラルが正確には何を意味するのかや、中国が目標達成のために具体的にどんな対策を取るのかなど、多くの疑問が残されている。
米国務省の気候変動担当特使だったトッド・スターン氏は、「中国が2060年までにカーボンニュートラルの実現を目指すという、習近平国家主席の今日の発表は重大で重要なニュースだ。目標が2050年に近づけば近づくほどいい」と述べた。
「中国が精力的な政策を導入し、CO2排出量削減に向けた取り組みを直ちに開始するという習氏の発表も歓迎する。中国がカーボンニュートラルに必要な素早い道のりを進むには、『2030年までに』CO2排出量を減少に転じさせるだけでは不十分だろう。しかし、総体的には非常に励みになる一歩だ」
中国と化石燃料
今回の中国による発表は、気候変動対策において重要な一歩だとする声がほとんどだ。その理由は、世界中の化石燃料開発への資金調達における中国の役割にある。
「中国は世界最大のCO2排出国であるだけでなく、エネルギー資源への最大の拠出国でもあり、最大のエネルギー資源市場でもある。そのため中国の決定は、世界のほかの国々が気候変動の要因となる化石燃料からの移行をどのように進めるのかという点で、大きな役割を果たしている」と、イギリスに拠点を置くシンクタンク「エネルギー・気候インテリジェンス・ユニット」(ECIU)のリチャード・ブラック氏は指摘する。
「今日の発表は、欧州連合(EU)にとっても大きな後押しだ。EU加盟国首脳は最近、習主席に対して、CO2排出量削減に向けた共同推進の一環として、まさにこの対策を講じるよう求めていたので。(気候変動対策に後ろ向きな)ドナルド・トランプ氏や(ブラジル大統領の)ジャイル・ボルソナロ氏の最大限の努力にも関わらず、気候変動を抑制しようという国際的な動きは、来年に英グラスゴーで開かれるCOP26に向けて今も健在だ」