英首相の上級顧問、ロックダウン中の長距離移動「後悔していない」
ボリス・ジョンソン英首相の上級顧問を務めるドミニク・カミングス氏は25日、新型コロナウイルス対策でイギリス政府が3月下旬から実施している厳しいロックダウン(都市封鎖)の最中に国内を移動していた問題について、メディアの取材に応じた。カミングス氏は自身の行動を「後悔していない」と述べ、辞任の意向はないと強調した。
カミングス氏は、自分と妻が新型ウイルスに感染したことが判明した後、幼い息子の世話をしてもらおうと、自動車に妻子を乗せ両親や姉妹のいる北東部ダラムまで400キロ以上を運転。滞在中に観光地に立ち寄っていたことも明らかになっている。
また今回の取材でカミングス氏は、ロンドンを離れる際にジョンソン首相に報告していなかったことを明らかにした。また自身の行動は「理に適っていて」合法だったと述べた。
ジョンソン首相はカミングス氏を擁護している一方、国民の「混乱や怒り、痛み」も理解できると発言。カミングス氏自身から「話を聞く必要があった」と話した。
しかし野党だけでなく一部の与党議員からも、首相とカミングス氏は二重規範になっていると批判の声が上がっている。
イギリスでは25日、新たに121人が新型ウイルスによる感染症(COVID-19)で死亡。全体では3万6914人が亡くなっている。
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カミングス氏はこの日、ジョンソン首相の要請を受けて、首相官邸のバラ園で記者会見を開いた。
「混乱と誤りを正したい」と話したカミングス氏は、連日の批判を受けても辞任は考えておらず、「やったことを後悔していない」と述べた。
カミングス氏は当時の行動を以下のように説明した。
- 3月27日、妻でジャーナリストのメアリー・ウェイクフィールド氏の体調が悪くなったため、ウェストミンスターから自宅へいったん帰宅。その後、仕事に戻った
- この日の夜、妻と息子を連れて、ロンドンからダラムまで自動車を運転し、両親の所有する農場のコテージに滞在
- 3月28日、カミングス氏自身もCOVID-19の症状を発症
- 4月2日に息子が「嘔吐(おうと)と高熱」を出して入院。翌3日に病院に息子と妻を迎えに行く
- COVID-19の症状が出た15日後の4月12日(イースターの日曜日)、農場から車で30分ほどのバーナード城を訪問。ロンドンまで車で戻れるかを試すためだったという
- 4月13日、家族を連れてロンドンに戻る
イギリスでは3月24日からロックダウンが始まり、同居していない家族との面会や、車での移動が制限されていた。カミングス氏がロックダウン開始からわずか4日で一連の制限を破ったことに対し、野党だけでなく与党議員からも辞任を求める声が上がっている。
しかしカミングス氏は、「私は特別だとか、私のためのルールと他の人のためのルールがあるとは考えていない」と話した。
3月27日にダラムへ向かったのは、自分と妻が病気になれば4歳の息子の世話してくれる人がいなくなると考えたためだと説明。両親の所有地に住んでいる姉妹とめいが息子の面倒を見てくれると話したという。
カミングス氏自身も、ダラムに到着した翌日に頭痛や熱といった症状を発症。70代の両親の家から約50メートル離れたコテージで自主隔離を行い、両親とは接触しなかったと説明した。
城に行ったのは「観光ではない」
また、ダラムへ行く前にジョンソン首相に報告しなかったことを認めた一方、「その後にジョンソン首相と話したが、2人とも(COVID-19の症状が)ひどい状態だったため、何を話したかは覚えていない」と話した。
観光地であるバーナード城への訪問については、「車から10~15メートルほど歩いて川べりまで」は行ったものの「観光はしていない」と述べた。
「私はCOVID-19の影響で視力が悪くなっており、妻がとても心配していた。妻は私の病状を見て、息子を連れて400キロ以上運転するリスクをおかしたくないと思っていた。それで、短めのドライブで安全に運転ができるかを確かめようということになった」
これについて、イングランド・ウェールズ警察連盟のジョン・アプター会長はツイッターで、視界が悪くなっている人は運転能力を「試す」ために運転すべきではないとし、「賢い行動ではない」と懸念を表明した。
カミングス氏は会見で、COVID-19の症状がある人に自宅にとどまるよう求めている政府のガイドラインは、「極端な」状況には自由裁量の余地を与えているとして、自分はガイドラインを守ったと思っていると話した。
一方、人々が自分の行動に怒りを覚えていることには驚かないと話した上で、「あれは複雑で難しい状況だった」と説明した。
ジョンソン首相はこの会見について、「カミングス氏は、家族を非常に大事にし、家族のために最善を尽くす人物だと私には思えた」とコメントした。
野党からはさらに批判
最大野党・労働党のアンジェラ・ライナー副党首は、1時間にわたるカミングス氏の会見は「見るに堪えないものだった」と批判した。
「カミングス氏は明らかにルールを破った。首相は国家の利益のために行動できなかった。自分のスタッフにこのような状況を許してはならなかった」
野党・自由民主党のサー・エド・デイヴィー党首代行は、ジョンソン首相にカミングス氏の解任を要求。「カミングス氏は良識ある謝罪を拒み、私たちを侮辱した。彼のエリート意識からくる傲慢(ごうまん)さの中での最低の行為だ」と述べた。
スコットランド国民党(SNP)のイアン・ブラックフォード議員もこれに呼応し、首相にはカミングス氏を解任する「以外の選択肢がない」と述べた。その上で、それができなければ「リーダーシップの大きな失敗だ」と話した。