作家アトウッドさん、「MeToo」運動に懸念 「悪いフェミニスト」と反発され
カナダ出身の作家、マーガレット・アトウッドさんが、性暴力の被害を告発する「MeToo(私も)」運動の行き過ぎを懸念する論説をカナダの新聞に寄稿し、ソーシャルメディアで論争が起きている。アトウッドさんは自分が今や、「女性に対する戦争」を扇動する「悪いフェミニスト」と攻撃されていると書いた。女性を「産む機械」として扱う近未来の独裁国家を描いたアトウッドさんの小説「侍女の物語」は、ドラマ化が米国で大ヒットして社会現象となっている。
米エミー賞やゴールデングローブ賞を多数受賞しているドラマ「ハンドメイズ・テイル/侍女の物語」の原作者、アトウッドさんは2016年秋、ブリティッシュ・コロンビア大学(UBC)の教授だったカナダ人作家がいじめやセクハラで非難された際、同大学が適切な事実確認の手続きをとらず解雇したのは問題だと、他の作家などと共に抗議の公開書簡に署名した。問題の作家、スティーブン・ガロウェイさんは疑惑を否定。刑事事件の訴追もされていない。
13日付のカナダ紙グローブ・アンド・メールに寄稿したアトウッドさんは、セクハラ疑惑をかけられた作家に対する一方的な処罰に抗議したことで、自分は批判されており、「今や私は『女性への戦争』を展開しているらしい。女性を嫌悪する、強姦に協力する『悪いフェミニスト』として」と書いた。
アトウッドさんは論説で、「そもそも女性は人間で(中略)犯罪行為も可能だ」、「(女性は)間違った行為のできない天使ではない」と前置き。その上で、性暴力被害を告発し連帯する「MeToo」運動を、「破綻した司法制度の症状」だと呼び、「女性やその他の人による性的虐待の苦情は、既存の制度・組織(企業を含む)を通じて公平な審判を受けられなかった。だから被害者は、インターネットという新しい道具を使った。空から星が落ちてきた。とても効果的で、大勢の目を一気に覚ました警鐘と受け止められている。けれども、では次は?」と、運動の行き過ぎに懸念を示した。
「自警団的な司法、裁判なき非難は、司法の不在に対する反応として始まる。革命前のフランスのように制度が腐敗しているか、あるいは米国の西部開拓時代のように司法そのものが存在しないか。そして人は、自分で何とかしようとする」とアトウッドさんは書き、さらにこうした「司法」による「正義」は、集団リンチや犯罪組織の出現につながると警告した。
「もし司法制度が効果的でないからと、司法制度を迂回するなら、何がその代わりになるのか。誰が新しい権力ブローカーになるのか。私のような『悪いフェミニスト』ではない。私のような者は、右派にも左派にも受け入れられない」
「極端で過激な時代には過激派が勝つ。過激派のイデオロギーは宗教となり、自分たちの考えをそっくりそのまま真似しない者は誰だろうと、背教徒や異端や裏切り者とみられる。中間にいる穏健派は、抹殺されるのだ」とアトウッドさんは書き、「女性に対する戦争とは異なり、女性同士の戦争は常に、女性のためを思わない連中を喜ばせる。今はとても大事な時だ。無駄遣いされないよう願っている」と結んだ。
ソーシャルメディアでは、この論説に対して賛否両論が続いている。
アトウッドさんの支持者は、思慮深い論考によって、広く受け入れられている通説に異論を唱えたと賞賛している。
しかし強く反発する声も多く、アトウッドさんがUBCでの問題を17世紀末の米マサチューセッツ州セイレムで相次いだ魔女裁判と比べたことや、力のある立場にいる男性友人を支援したことなどを、大勢が批判している。
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Twitterでさらに見るBBCは外部サイトの内容に責任を負いません。ツイッター利用者のエレーン・コーデンさんは、「UBCの責任問題に彼女が関わったことで、どれほど苦痛と恐ろしい影響を与えたか、大勢が何度も直接、思いやりをこめて、そして悪意なしに、マーガレット・アトウッドに伝えてきた。具体的にどういう辛い状況があったのか、問題について詳細な情報を与えてきた。何があったのか彼女は知っている。なのに彼女はどうでもいいと思っている」と批判した。
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Twitterでさらに見るBBCは外部サイトの内容に責任を負いません。トロント在住というエマ・ヒーリーさんは、「『私は悪いフェミニストなのか?』という題のマーガレット・アトウッドの文章を読むくらいなら、まず自分のコンピューターを、次に自分の顔を食べたほうがまし」と反発した。
昨年秋に米ハリウッドの大物プロデューサーによる常習的な性的加害行動の疑惑が表面化して以来、米国を中心に大勢の性暴力被害者が声を上げ、それに連帯する運動が続いている。一方で、最近では仏女優カトリーヌ・ドヌーブさんをはじめとするフランスの女性100人が公開書簡で、告発の行き過ぎに警鐘を鳴らしたが、ドヌーブさんは後に、性的暴力の被害者を不快にしたなら謝罪すると発言した。