リトル・マーメイドのアリエル役に批判 潜む「プリンセス=白人」像

有料記事

今泉奏 細見卓司
[PR]

 人魚姫アリエルを描いた1989年のディズニーアニメ映画を実写化した映画「リトル・マーメイド」が米国や日本などでヒットしている。白い肌に赤髪という外見だったアニメ版のアリエルと異なり、今回はアフリカ系の俳優を起用。この点が公開前から注目を集め、米国のみならず日本でも「黒人差別ではなく、アリエルはアリエルらしい人にやってほしい」などの声があがった。ヒットと論争から見えてくるものとは。

 ストーリーの骨格はアニメ版と変わらない。美しい歌声を持ち、人間の世界に憧れるアリエルが、エリック王子と運命の出会いを果たす。海の魔女アースラがアリエルに近づき、人間の姿になれるという取引に応じたアリエルは声を失ってしまう。

日本でもキャスティングに批判

 アリエルを演じたのは、米アトランタ出身のR&B歌手で俳優のハリー・ベイリー。作中では、褐色の肌に腰まで伸びる地毛のドレッドヘアで登場する。アニメ版とは見た目が異なるが、今作の公式の解説資料でロブ・マーシャル監督は「単にベストな人材を探していただけ。あらゆる人種の候補者に会ったが、そこに(特定の)意図はまったくなかった」と述べている。

 しかし、見た目の「違い」に米国では異論が巻き起こった。ベイリーの配役をめぐり「#NotMyAriel(私のアリエルじゃない)」というハッシュタグが拡散。人種差別的なコメントも相次いだ。日本でもSNSを中心に「アニメで親しんだアリエルのビジュアルが完全に無視されている」「黒人の輝かしい未来のために、ファンがないがしろにされた」などの批判が相次いだ。

「アニメ版のアリエルを重視したいだけで、人種差別ではない」。SNSを中心に、「アリエルらしさ」を差別と切り離す言説もありましたが、これをどう捉えればいいのでしょうか。日本で暮らすアフリカにルーツを持つ子どもたちや、識者の見解を交え、考えました。

 作品をめぐる論争に、日本で…

この記事は有料記事です。残り2148文字有料会員になると続きをお読みいただけます。

【初トクキャンペーン】有料記事読み放題!スタンダードコースが今なら2カ月間月額100円!詳しくはこちら

この記事を書いた人
今泉奏
ヨハネスブルク支局長|サハラ以南アフリカ担当
専門・関心分野
アフリカ、植民地主義、グローバルサウス
  • commentatorHeader
    小熊英二
    (歴史社会学者)
    2023年6月28日13時34分 投稿
    【視点】

    コメントに「人魚は白人だというのは誰が決めたのでしょうか」とあるが、「人魚は英語を話すというのは誰が決めたのでしょうか」という問いもあり得るだろう。 記事の最後には「さらに時が経てば、多様性を重視したと思っていても、どこか欠けていたと

    …続きを読む
  • commentatorHeader
    藤田結子
    (社会学者)
    2023年7月1日15時27分 投稿
    【視点】

    米国では黒人女性のステレオタイプが流布してきました。黒人の女の子たちは、自分が将来何にでもなれるということを想像しにくいのです。プリンセスだけではありません。 黒人女性は、たとえば社長や重役、大統領や政治家としてメディアに表象されるこ

    …続きを読む