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Beauty
2024.09.17

齋藤薫の美しい歳の重ね方
褒められるより、褒める。恨むより、許すが、幸せとキレイの元

昔から「人は褒められるとキレイになる」といわれてきた。科学的な根拠がつかめないうちから、誰もがそう感じていた。やがてそれは、"幸せホルモン"の一つであるドーパミンという神経伝達物質が高まり、多幸感を感じつつも、集中力が高まり、やる気が起きるため、であるのが分かってくる。つまり、もっと褒められようという意欲が生まれ、本当にキレイになれるという仕組み。毎日でも褒められようとするのは、一つの美容なのだ。

ただ最近は、こんな説が語られるようになっている。人を褒めることでもキレイになれる……。実は最近話題の「オキシトシン」という別の"幸せホルモン"が人を褒めることでも増えていくというのだ。オキシトシンとは、例えば母親と赤ちゃん、飼い主とペットが触れ合うことで、どちらにも生まれることから、「愛情ホルモン」とも「接触ホルモン」とも呼ばれるもの。ペットの犬を撫(な)でているだけで心が落ち着き癒やされるが、その時、副交感神経が優位になるのでイライラが収まり、ストレスも溜(た)まりにくくなるというメカニズム。

奇しくも今、オキシトシン自体を高める働きを持つ化粧品が次世代コスメとして支持を集めている。それも、毎日のスキンケアで、自分の肌を丁寧に慈しむことでも生まれるホルモンだから。そんな重要ホルモンが、人を褒めることでも生まれるなんて。しかし、あくまで正直に、まっすぐに、心を込めて褒めることが絶対条件。褒められた方にはその真偽がきっと分かってしまうから。ホルモンばかりは、ごまかしが利かないから。

同じように、何らかの諍(いさか)いが起きた時、相手を許したり、和解を求めたり、また謝ったり、自ら下手に出ることによってもオキシトシンは生まれる。怒りが収まらなかったり相手をいつまでも恨んでいると、たちまち心にダメージが広がり、時間とともに腫れ物のように大きくなっていく。そんな自分を感じたらぜひ試してみてほしい。自分から下手に出ること。するとまさに毒が抜けるようにすっと楽になる。それこそがオキシトシンの効果。

敗者が勝者を讃(たた)えるようなシーンは、見ている方も感動するが、実は讃えている本人もオキシトシンによって心が癒やされ、感動に近い精神状態になるということを知っておきたいのだ。つまりオキシトシンは、相手のある苦しい感情から自らを救ってくれるのだ。もともと善人はオキシトシンの量が多いという。だから「無理にいい人にならなくていい」という提案があるけれど、半分は間違いのような気がする。いい人になってしまった方が自分が楽になり、幸せが体の中に巡り、そしてきっとキレイな表情になる。そのことをどうか忘れないでほしい。本当の意味で穏やかな、幸せな人生を送るため。

齋藤 薫 さん
美容ジャーナリスト/エッセイスト

さいとう・かおる 多数の連載エッセーを持つ他、美容記事の企画、化粧品開発・アドバイザーなど幅広く活躍中。『“一生美人”力セカンドステージ──63の気づき』(朝日新聞出版)ほか著書多数。