【12月21日 AFP】米実業家イーロン・マスク氏は20日、自身が所有するX(旧ツイッター)への投稿で、「ドイツを救える」のは同国の極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」だけだと主張した。これを受け、マスク氏がドイツで来年2月に実施される連邦議会(下院)選挙に介入しようとしているとの批判が巻き起こった。

マスク氏は、ドイツの中道右派政党「キリスト教民主同盟(CDU)」のフリードリヒ・メルツ党首に関する解説動画に問題のコメントを投稿した。

下院選の世論調査では現在、CDUが1位、反移民政策を掲げているAfDが2位となっており、CDU党首のメルツ氏は次期首相になる見込み。動画は、メルツ氏がAfDとの協力を拒んだことを批判する内容だった。

ドイツ東部マクデブルクで20日夜に発生し、サウジアラビア人の男が容疑者として逮捕されたクリスマスマーケットへの車突入事件を受け、マスク氏はこの事件を「無計画に大量の移民を受け入れた直接の結果」と評した。

マスク氏のコメントをめぐり、AfDとの協力を否定している主要政党の議員らは強い反発を示している。

マスク氏は同日その後、AfDは「明らかに『極右』ではない! 常識的な政策にすぎない」とも主張した。

これに対し、CDUのデニス・ラドケ欧州議会議員は猛反論。

主要日刊紙ハンデルスブラットに対し、「次期米政権の要人がドイツの選挙戦に介入するのは、脅迫的でいら立たしい。容認できない」と語った。

世界一の大富豪であるマスク氏は「西側世界の民主主義に対する脅威」だとし、Xを「偽情報の発射装置」に変えたと批判した。

オラフ・ショルツ首相が所属する中道左派、社会民主党(SPD)のアレックス・シェーファー議員も、マスク氏の投稿は「一切容認できない」と主張。

「わが国と米国は非常に親密だが、今は友人にあえて言わなければならない。われわれは自国の選挙戦への介入に抗議する」と表明した。

自由主義市場経済の推進を掲げる中道政党、自由民主党(FDP)所属のクリスティアン・リントナー前財務相は、マスク氏のアイデアの一部には「刺激を受けた」とする一方、「遠方から結論を急がないように」とたしなめ、「移民の管理はドイツにとって極めて重要だが、AfDは自由や企業に反対している極右過激派政党だ」とXに投稿した。リントナー氏とショルツ氏との対立が政権崩壊の引き金となった。

ショルツ氏自身はマスク氏のコメントについて問われると、「われわれには表現の自由がある。それは億万長者にも適用される」「正しくないことや、適切な政治的助言を含まないことを言っても構わないということだ」と発言するにとどめた。

一方、AfDはマスク氏の賛辞を歓迎。アリス・ワイデル共同代表はビデオメッセージでマスク氏に謝意を表し、AfDは「わが国にとって唯一無二の選択肢だ」と強調した。

政府の報道官は首都ベルリンでの定例会見で、マスク氏の発言に対する直接のコメントは避け、ドイツは表現の自由を尊重しているとのショルツ氏の見解を繰り返した。

だが、政府としては「特にイーロン・マスク氏に買収されて以降の近年のXの変化」を懸念していると補足。

こうした懸念はあるものの、Xは依然、人々に働き掛ける重要なチャンネルであるため、政府の公式アカウントは維持する決定を下したと述べた。(c)AFP