【3月20日 AFP】共産党が政権を運営し、貧困にあえぐネパールは、大金をかせぐ場所として最もふさわしいとは言えない。だが、同国初の億万長者、ビノド・チャウダリ(Binod Chaudhary)氏(57)は、自分の切り開いた道が新たなサクセスストーリーを触発するに違いないと考えている。

「私は、ここでも何かを達成できるということを若い世代に証明した。ネパールでは極めて短期間に大躍進することが可能だ」と、チャウダリ氏はカトマンズ(Kathmandu)の自宅でAFPの取材に語った。

 チャウダリ氏は一度も大学に行くことなく、18歳で一族の仕事を手伝うようになり、貿易業を受け継いで世界的なコングロマリット、チャウダリ・グループ(Chaudhary Group)へ成長させた。家族経営の同グループはシンガポールを拠点に不動産、金融、セメント業などを手がけるシノベーション(Cinnovation)など、複数の国々の多様な企業の株式を保有している。

 チャウダリ氏が最も知られるのは、1980年代半ばにネパールで創設されたインスタント麺ブランド「ワイワイ(Wai Wai)ヌードル」だ。同ブランドは2005年にインドに製造拠点を拡大し、現在はアジア30か国で販売されている。

 チャウダリ氏は今月、ネパール人として初めて米誌フォーブス(Forbes)の世界長者番付に掲載された。「現代の経済はアイデアの経済だ。そして裕福な国々ではアイデアの独占は存在しない。だからネパールからアイデアが発信されても良いのだ」と、インド人宗教指導者シュリ・シュリ・ラビ・シャンカール(Sri Sri Ravi Shankar)氏を手本として尊敬するチャウダリ氏は語った。

■中国とインドにはさまれた世界最貧級国

 アジア開発銀行(Asian Development BankADB)によると、ネパールは平均年収が600ドル(約5万7000円)以下で、世界最貧国の下位1割の常連だ。ネパール共産党毛沢東主義派が王制を転覆してからまだ5年。ネパールは現在、総選挙に向けて暫定政権の統治下にあるものの、毛派の権勢は今もなお強い。

 過去20年、隣の大国の中国とインドが急成長を遂げる中、ネパールの開発は立ち往生したままだった。10年におよぶ内戦が大きな原因だが、チャウダリ氏は、ネパールの地理的な位置が富を生み出すことに対する警戒心を育ててきたと指摘する。

 ネパールは近隣諸国の急速な発展に伴って成長するはずだったが、そのためにはネパールの人々が「われわれがあまりに裕福になると誰かが奪いに来るという根拠のない考え」を捨てる必要があると、チャウダリ氏は提言した。

■発展途上国における起業家

 ネパールでは民間の国外投資は禁止されているものの、チャウダリ氏は富の大半を外国への投資や外国での操業で獲得した。

「チャウダリ氏は抜け穴を使った」と、ネパール経済紙の編集者、プラティーク・プラダン(Prateek Pradhan)氏は語る。「彼は経済的に閉鎖された国で億万長者になった。とても興味深い」

 一方、専門家らは、チャウダリ氏のような富の築き方は発展途上国の起業家の典型例だと指摘する。

 ハーバードビジネススクール(Harvard Business School)の南アジア研究所(South Asia Institute)のタルン・カンナ(Tarun Khanna)所長は「資本と拡大を求めて国外に出ることは、国内の難問への対応策として効果的だ」と話している。(c)AFP/Kyle Knight