再掲
メディカルミステリーと言う範疇らしい。
読む限りにおいてはドキュメンタリーなのだが評者が無教養なためにフィクションの部分があるかどうか分からない。
しかしである、原著者のプリオン病に対する思いいれの凄さは、情報収集として巻末の引用文献等の専門的科学論文や日記あるいは報告書の数としても分かる。
話は致死性家族性不眠症(FFI)と言うやがてプリオン病の一種と同定されるイタリアのある家系に現在なお起こっている悲劇の病からはじまる。
プリオン病はスクレーピー(1820年代から羊)、BSE(いわゆる狂牛病、1980年代より社会問題化)、クロイツフェルト・ヤコブ病(Creutzfeldt-Jakob disease:CJD)、クールー病(パプアニューギニアにおける食人習慣による疾病)等が知られている。またBSEから人への感染による変異型クロイツフェルト・ヤコブ病が昨今大きな話題にもなっている。
本書では本疾患等に関連してノーベル賞を受賞いた二人の生き様も描いている。ガイジュシュック(業界ではガジュセックと書くが訳者は発音を確認してこれが正しいようだ。1976受賞)とプルジナー(1997受賞)である。
ガイジュシュックはクールの研究に従事したパプアニューギニアから多くの少年を連れ帰り(56人)、その内の一人から性的虐待で訴えられ有罪となり服役した。本書の中ではその背景となる現地での儀礼的同性愛にガイジュシュック自身も参加したいたと日記などを元に記載している。
プルジナーに関しても紳士的でない科学者の態度を多くの証言から得て「プリオン研究のゼネコン」と揶揄されていると書いている。
ドロドロとした研究業界の舞台裏をこれでもかと言うほど見せつけてくれる。
また日本人の遺伝子型がプリオン病に罹り易いホモ接合体であることが何気に書かれているのが気になった。(欧米はヘテロ接合体が多い)
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眠れない一族―食人の痕跡と殺人タンパクの謎 単行本 – 2007/12/12
ダニエル T.マックス
(著),
柴田 裕之
(翻訳)
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購入オプションとあわせ買い
1765年11月、水の都ヴェネツィアで評判の高い医師が謎の死をとげた。この医師の子孫の多くが、同じような病で命を落としていく。呪い、疫病、脳炎、性病、奇病と、さまざまなレッテルを貼られながら・・・共通しているのは死の数ヶ月前から眠れなくなること。
数世紀を経て20世紀も終わりかけた頃、この致死性不眠症の原因が、羊たちに流行した震え病であるスクレイピー、パプアニューギニアの部族を襲ったクールー病、そして世界を震撼させた狂牛病と同じく、殺人タンパク、プリオンとわかったが、治療の目処はつかない。
そうこうするうちに、アメリカの野生の鹿に似た病気が蔓延、新型クロイツフェルト・ヤコブ病の
拡大が噂される中、殺人タンパクの起源を辿るうちに、80万年前の人類の「食人習慣」の事実にたどりつく・・・「事実は小説よりも奇なり」を地でゆく、驚きのストーリー
数世紀を経て20世紀も終わりかけた頃、この致死性不眠症の原因が、羊たちに流行した震え病であるスクレイピー、パプアニューギニアの部族を襲ったクールー病、そして世界を震撼させた狂牛病と同じく、殺人タンパク、プリオンとわかったが、治療の目処はつかない。
そうこうするうちに、アメリカの野生の鹿に似た病気が蔓延、新型クロイツフェルト・ヤコブ病の
拡大が噂される中、殺人タンパクの起源を辿るうちに、80万年前の人類の「食人習慣」の事実にたどりつく・・・「事実は小説よりも奇なり」を地でゆく、驚きのストーリー
- 本の長さ358ページ
- 言語日本語
- 出版社紀伊國屋書店
- 発売日2007/12/12
- ISBN-104314010347
- ISBN-13978-4314010344
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商品の説明
著者について
ニューヨーク生まれ。1948年ハーヴァード大学卒業。ワシントン・スクエア・プレス社、ホートン・ミフリン社、「ニューヨーク・オブザーバー」誌の編集者を経て、現在、作家・ジャーナリストとして活躍。「ニューヨーク・タイムス・マガジン」をはじめ、「ニューヨーカー」「ロサンジェルス・タイムス」「ウォール・ストリート・ジャーナル」「サンフランシスコ・クロニクル」「シカゴ・トリビューン」などに記事を書いている。
登録情報
- 出版社 : 紀伊國屋書店 (2007/12/12)
- 発売日 : 2007/12/12
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 358ページ
- ISBN-10 : 4314010347
- ISBN-13 : 978-4314010344
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上位レビュー、対象国: 日本
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- 2024年5月31日に日本でレビュー済みダニエル・T・マックスは、ニューヨーク生まれ、ハーバード大卒。ワシントン・スクエア・プレス社等の編集者を経て、フリーの作家、ジャーナリストとして、「ニューヨーク・タイムス・マガジン」、「ロサンゼルス・タイムス」、「ウォールストリート・ジャーナル」等に寄稿している。
本書は、21世紀初頭に世界を震撼させた「狂牛病」をはじめとする、いわゆる「プリオン病」について、その病気自体の歴史と、その病気の謎を解明する医科学界の取り組みの歴史を描いたノンフィクションである。原書は2006年、日本語訳は2007年に出版された。
科学の謎を解明するプロセスを描いたノンフィクションというのは、DNAの二重らせん構造を解明したワトソンとクリックらを描いた、福岡伸一のベストセラー『生物と無生物のあいだ』をはじめ、面白い作品が多く、私も好きなジャンルだが、本書も、書評家としても有名な成毛眞氏が絶賛しており、今般読んでみた。
プリオン病というのは、正式には伝達性海綿状脳症といい、異常プリオン・タンパクの増加による中枢神経疾患の総称である。一般的に潜伏期間が非常に長いが、一度、不随意運動、認知症、運動失調、行動変化、人格変化等の症状が現れると急速に進行し、死へ至るという。プリオンによって破壊された脳は、スポンジ状の穴が現れ、かつ収縮するのが特徴である。
本書では、米国の医師ガイジュシェックと米国の生化学者プルジナーという二人のノーベル賞学者をはじめとする登場人物が、もともとは別ものと考えられていた、18世紀にヨーロッパ各地で大発生した羊の病気「スクレイピー」、20世紀前半に発見されたクロイツフェルト・ヤコブ病やゲルストマン・ストロイスラー・シャインカー病、20世紀後半にパプアニューギニアのフォレ族に猛威を振るった「クール―」、1980年代後半にイギリスで発生した狂牛病(牛海綿状脳症)、更に、18世紀以来、あるヴェネツィアの一族を苦しめて来た致死性家族性不眠症(FFI)が、全て、非生物であるプリオン・タンパク質の折り畳まれ方の異常という単一の原因によるものであることを明らかにして行く。
その事実の過程と、それを的確に描写・展開していく著者の筆力で十分に面白いのだが、本書の白眉は、題名ともなっている「眠れない一族」に関する記述であろう。というのは、著者が一族に会う以前には、彼らについて書かれたものはほとんどなく、一族の中でも、この病気について正面から話すことはタブー視されており、そうした中で、本人たちの話や日記や医療記録、書簡、新聞報道、公文書、協力者へのインタビューにより事実を再構築したのだ。尚、FFIを患っている家族は、全世界でも40家族しか知られていないのだという。
プリオン病について、病理的な原因は解明されたものの、それはなぜ引き起こされるのか(クール―をはじめ、カニバリズムと考えられるものが多いが)、また、治療の方法は明らかにはなっていない。
読み物としては十分に面白いが、昨今の科学の目覚ましい進歩があっても、まだまだ分からないことが存在することを知らしめてくれる、少々複雑な読後感の一冊である。
(2024年5月了)
- 2015年8月23日に日本でレビュー済みAmazonで購入先に断っておくと、副題の「食人の痕跡と~」は、いくらなんでも誇張が過ぎやしないかと。
これではまるで、「眠れない一族」がかつて食人をしていたのでは、と勘違いしてしまう人がいますよ、絶対に。
そう、自分のように。 (^Д^)
本書の内容については、本のカバーに上手くまとめてあったので、一部抜粋すると、以下のようなものです。
「ヴェネツィアのある高貴な貴族出身の一族は、謎の不眠症に苦しんでいた。この病気は中年期に発病し、(中略)
やがて患者は不眠状態に陥って死んでしまう。この一族の数世紀に及ぶ物語を軸に話は展開。やがてこの病が
クールー病、狂牛病と同じプリオン病だとわかる。プリオン病の起源を探るうちに、80万年前の食人習慣へとたどり着く。」
種を越え、場所を越え、果ては時までもを越えて、この「恐怖」の病の歴史を辿ってゆく構成は大変面白かったのですが、
本書のもうひとつの楽しみ方として、「恐怖」の病気の謎を解明するために奮闘する医師・学者たちの、「栄冠は我のみに!!」
と言わんばかりのドス黒く醜い暗闘がムチャクチャ面白かったです。読んでいて「こいつらクズだなぁ」と何度も首を傾げたものです。
以下に目次を列記しつつ、各章の感想を少し。購入の参考になれば。
「眠れない一族」家系図
血縁関係の流れがよくわかるので、何度も読み返した。こういうのは、地味ながらも良い。
序章
第一部 闇の中の孤独
医師たちの苦悩・1765年、ヴェネツィア メリノ熱・1772年、ヴェネツィア ピエトロ・1943年、ヴェネト州
1765年11月、ヴェネツィアの医師が死亡したところから全てが始まります。「眠れない一族」の「恐怖」が
始まるとともに、時を同じくして、イギリスの羊たちの様子がおかしくなっていきます。そして時は1943年に飛び、
「ヴェネツィアの医師」の子孫であるピエトロにまで、謎の病気は受け継がれていました。
第二部 闇を跳ね返す
強力な呪術・1947年、パプアニューギニア 「ドクタ・アメリカ」・1957年、パプアニューギニア
動物実験・1965年、メリーランド州ベセスダ 「ボウ(お手上げだ)!」・1973年、ヴェネト州
化学者にうってつけの問題・1970年代後半~80年代前半、サンフランシスコ 収束・1983年、ヴェネト州
1947年、パプアニューギニアの未開部族のフォレ族は、「クールー病」という謎の病気に苦しんでいました。
多くの医師・学者が解明に挑むも「皆目わからない」ありさまでしたが、そこに現れたのが、若き青年医師(そして
ド変態の)カールトン・ガイジュシェックでした。
天賦の才に恵まれたガイジュシェックは、必死に(そして愉しく)クールー病の解明に奮闘しますが、彼をしても
全く解明できず、いつの間にか話は彼とフォレ族との下半身のエロネタに(しかも男同士の)。その後、クールー病の
背後に「食人」の影がちらつき始めたところで、ガイジュシェックは新たな職を得てアメリカへ。そして1976年には、
ノーベル賞を受賞します。果たして「食人」と一連の病気の因果関係は・・・?
一方その頃、「眠れない一族」の血は70年代に入ってもしっかりと受け継がれていて、彼ら彼女らを殺してゆきます。
アメリカでは、ガイジュシェックの生涯のライバルとなる、スタンリー・プルジナー(お金大好き人間)が台頭。ガイジュシェックを
はじめとする多くの医師・学者と丁々発止と斬り結びながらも、遂にプルジナーは、既にガイジュシェックが名付けていた
「スローウィルス」を「プリオン」と大々的に発表。その後、ノーベル賞を獲得。かたやガイジュシェックはと言うと、「小児性愛」で
臭い飯を喰うハメに。ノーベル賞受賞者なのに!
第三部 自然の反撃
地獄の默牛録・1986年、イギリス おいしい食品製品「オインキー」・1996年、イギリス
プリオンで説明できる世界・70年代から今日まで、アメリカとイギリス ヒトはヒトを食べていたか・紀元前80万年前、全世界
ついにアメリカにも?・現在、アメリカ
80年代後半、ついに「プリオン病(狂牛病)」がイギリスを襲います。プルジナーが大嫌いなイギリスは、「プルジナーに
主役の座を譲るつもりは」まったくなく、「アメリカ人に頼らないというイギリスの方針は高くついた」と、著者は時の宰相
サッチャーを強く非難します。サッチャー云々は置いておくとしても、たしかに当時のイギリスの官僚機構はやることなすこと
どこかの国にそっくりで、デジャヴ感出まくり。ついでに被害はどんどん拡大します。
一方、ガイジュシェックは98年に釈放。この時74歳。自らの「性的関心について、今はあけすけ」になった彼は、毎日
淫らなことを考えながら「核生成アミロイド(「プリオン」は怨敵プルジナーが名付けたので、死んでも使いたくない)」の
研究に没頭中。
ここで話は唐突に80万年前へ。古代の遺跡で発見された「食人」の痕跡を解説しながら、なぜ食べたのか、どうして
食べなくなったのか、そして一連の「プリオン病」との関係性をを著者が推測。面白かったのですが、「かもしれない」
「かもしれない」ばかりでは事の真偽が判然としないのですが。そして唐突に始まった「食人」の話は唐突に終わり、
時代は一気に「プリオン病(狂牛病)」の嵐が吹き荒れる現代のアメリカへ。ガイジュシェックの教え子たちが必死に戦うも、
治療法は未だに見つからず。
第四部 目覚めの時は来るのか?
致死性家族性不眠症の犠牲者たちのために・現在、ヴェネト州
90年代以降も、「眠れない一族」はバタバタと犠牲者を輩出してゆきます。そして21世紀になってもその「恐怖」は
変わらず、またも一族から発病者が出てしまいます・・・。
・・・以上です。本書は専門的な用語が頻繁に出ますが、易しい文体なので読みやすいです。
と言うか、そんなものは消し飛んでしまうほどに、怖くて面白かったです。「眠れない一族」については
同情しきりですが、それを研究している医師・学者先生たちの腐臭が漂うほどのドス黒さも知ることができて、
二重に怖くて面白かったです。絶対にオススメ!
このレビューが参考になれば幸いです。 (*^ω^*)
- 2020年11月28日に日本でレビュー済みAmazonで購入イタリアのある一族は奇妙なそして恐ろしい病に憑りつかれていた。中高年を迎えるころに突然発症する不眠である。眠れないなら寝なければいい、などという不眠ではない。この致死性家族性不眠症(FFI)と呼ばれる病気を発症すると、まともな睡眠をとれないまま疲労困憊の末死を迎える。一般にFFIに罹る確率は3000万人に1人とされるが、この一族に限っては2人に1人なのだという。この一族に何があったのか。そしてこの病気の原因はいったい何なのか。
ところでこの本の原題は「The family that couldn't sleep(A medical mystery)」といいます。一方日本語版の題名は「眠れない一族(食人の痕跡と殺人タンパクの謎)」。私は翻訳出版のことは何にもわかりませんが、原題にないことを勝手に書いていいんですかねえ。しかも若干ネタバレぎみになっているし。
まあ題名には若干の問題を含んでいると思われますが、本の内容は掛け値なしで面白いです。原因不明の病気の解明に奮闘する学者たち(けっして聖人君子でないところもいい)の姿は難事件を解決しようとする探偵のそれと重なります。まさに"A medical mystery"呼ぶにふさわしいものです。だからさあ、原題どおり「医学ミステリー」とするか、少しひねるなら「恐るべき病の正体」ぐらいが妥当なのではと思うんですが、どう思われますか。
- 2021年6月13日に日本でレビュー済みAmazonで購入状態が綺麗で良かったです
- 2018年5月28日に日本でレビュー済みAmazonで購入おもしろかったです。
物語の進み方も良いですが、論理だって考えることが好きな人向けの本だと思います。
- 2019年6月16日に日本でレビュー済みAmazonで購入お勧め本だったので購入しましたが、病気の解明を歴史的地域的視座から検討し、全く飽きさせない文章力を見せる。人間の素晴らしい側面を教えてくれました。
- 2009年3月22日に日本でレビュー済みプリオンが催すBSEやそれにまつわる脳の病気を描いた作品。
世界各地のそれぞれの地域で発生した脳の病気の事例を紹介し、それについて専門家や学者が分析している。
作品自体の焦点のあて方は悪くはなく、現代でも確固たる治療法が確立されておらず、不治の病として難病に指定されているこれらの病気にスポットを当てて描いたことは興味深い。
私はこれらの病の専門家でもなければ、医療の知識の断片すら持ち合わせていないが、事例を中心に描かれているので知識がなくても読み進めていくことができた。
ただ、訳者はスキルの高い翻訳者であろうが、読んでいて訳本特融の機械的な感じは拝めず、読んでいて苦しいと思う事があった。
その点で★3つとした。