カスタマーレビュー

  • 2025年1月28日に日本でレビュー済み
    数多ある物語の型の隙間にわずかに残されたスペースを、この作品が取った。
    そんな感覚を覚えてしまうほど、この物語に心を掴まれてしまった。
    いったい何回見ただろう。
    未だ見飽きることのないのは、この物語と私との間に感じる真実の様な何かがあるように思えてならないからだろう。
    だから小説も読んだのだが、この作品は映画の方がずっとよかった。
    さて、
    思春期になれば誰もが異性を気にしてしまうもの。
    どんなに自分の世界に閉じこもっていても、クラスでの些細な出来事につい注目してしまう。
    最近では草食男子という言葉があったように、女性の方がリードするというのが、女性にリードされるというのが、男子諸君の夢なのだろうか?
    奥手とか、消極的とか、基本的にそんな男子の方が格段に増えているようだ。
    山内桜良
    この物語の原動力のすべてが彼女によって行われている。
    その彼女との出来事を思い出すのが、志賀春樹の役割となっている。
    桜良が春樹に興味を持ったのは、病院で置き忘れた「共病文庫」を志賀が拾い読みしたことだった。
    その彼がそのことを隠し持つように黙っていることが、彼女には信じられず彼に興味を持ったという設定になっている。
    しかし、同じシチュエーションが起きたとしても、果たしてそんなことはあり得るだろうかという疑問は残る。
    また、彼女は以前委員長と付き合っていた。
    しつこい彼が好きではなくなり、その後別れた。
    時を同じくして彼女は自身の病気のことを知ったのだろう。
    すい臓がんという病気は、発見されればすでに手遅れとイコールだ。
    調子が悪くなって入院してしまえば、1ヶ月程度で亡くなってしまう。
    調子が悪くならない限り、本人がそれを聞かされても実感がないというのが通常だ。
    つまり
    この物語そのものは、意外に矛盾があるのだ。
    ではなぜこの作品にこれほど引き寄せられるのだろうか?
    まずは、女子に言い寄られるという男子の夢がある。
    知らない街へ遊びに出掛けるのも夢だし、まさかそこで一泊するというのもまた夢。
    そうしていつの間にかペースを握られたころでにわかに実感する「死」というもの。
    彼女にとっても、自分が認めた誰かを好きになるというか、少しでも想ってもらえるという感覚が欲しかったという点は納得できる。
    具合の悪さと入院は、死というものの存在をダイレクトに実感させるのだろう。
    その恐怖と戦っている彼女の存在は、彼にとっても次第に現実のこととして共有されていくことになる。
    さて、、
    作家は桜良の死を病気で終わらせなかった。
    もっと残酷に、通り魔に命を奪わせた。
    覚悟する間もなかった。
    あのビルのTVモニターですべてのことを知る。
    春樹にとって、彼女の死に対するショックは井上尚弥チャンプのカウンターのように炸裂したのだろう。
    このKOされたショックはしばらく続く。
    共病文庫を読みに行ったのも、葬儀からずっと後になってのことだった。
    しかし彼はそれで立ち直ったわけではなかった。
    そのままの状態で大人になって、ボーっとしたまま教師になって、やがて母校へと異動になった。
    この作品は、そんな彼の再生の物語になっている。
    ここが原作との違い。
    図書館の改築と図書委員の補助
    もう教師なんて辞めてしまえと思っていたところに起きた過去を思い出す旅。
    聞きそびれた桜良の言葉
    そしてその手紙を見つけた時、悶々としていた気持ちにケリをつけることができた。
    死別では誰もが似たように、思いを伝えることができなかったという経験があると思う。
    純粋であればそれだけ、その思いをいつまでも引きずってしまうのかもしれない。
    そしてまた、最後の「僕と友達になってください」という一風変わった着地点。
    パートパートをチェックすると、この物語のプロットには多少歪さが伺える。
    でもなぜか、その不完全さと主人公の不完全さ、そして純粋な当時の想いが、まるで灰の中に隠れていた宝石のように浮かび上がってくる。
    登場人物も、視聴者も、みんな不完全だ。
    その不完全さを知り、自分の不完全さと重ね合わせて、そしてそれを赦すように涙があふれてくる。
    いつか気が付くときがある。
    それだけで十分なのだろう。
    そんなことが人生に起きれば、それだけで勝利したことになるはずだ。
    だから、どんな時も、いつでも桜は満開なのだろう。
    その満開さに気づけばいいだけだ。
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5つ星のうち4.4
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