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『源氏物語千年紀 Genji』放送直前インタビュー

「人間を甘く見ている」巨匠・出崎統が”萌え”を斬る!(前編)

dezakimain.jpgアニメ『源氏物語千年紀 Genji』で監督を務める出崎統氏。

 『誰もが魅入ってしまう「源氏物語」は魔物である。自分自身の手で新しい表現の境地に挑んでみたい。』

 1月15日よりフジテレビ”ノイタミナ”ほかにて放送が始まるアニメ『源氏物語千年紀 Genji』で監督を務める出崎統は、原典「源氏物語」への想いをそう表現している。昨年11月、『あさきゆめみし』からの企画変更を経て急ピッチで制作が進む中、アフレコ現場に巨匠を訪ねた。語っていただいたのは、「源氏物語」という文学作品への考察、『あさきゆめみし』から企画変更の顛末、さらには自作『CLANNAD』に覚えた違和感や現在のアニメ制作現場の労働環境についてまで……。65歳の出崎統は爛々と瞳に光を湛え、満面の笑顔で取材班を迎えてくれた。

──抽象的な質問で申し訳ないのですが、出崎さんにとって『源氏物語』とはなんなのでしょうか。

【出崎統】素材としては旧約聖書のような広がりを持っていますよね。聖書も「人間がここまでやるのか」みたいな話ですから。『源氏物語』は人間の何かを捉えようとしている。特に女の人。作者も女なんだけど「イヤだね、女ってここまでやるのかよ」ということがわかる。

──学校のお勉強で習う『源氏物語』だと、テキスト化された形骸しか見えてこない。

【出崎】それと古文のあり方、文法の見本として使われてしまうけど、そんなもんじゃないよね。当時ものすごくはやった、流行小説だと思うんですよ。みんなが応援するものだから調子に乗って、どんどんどんどんお話を作っていった。そんなイキオイがありますよね。ここまでやるの、という。源氏は原典を読むとイヤになるくらいしつこいものね。すべては女性に対して必死であるが故の行動だと思っていますけど、紫の上(「源氏物語」のヒロイン)とのことだけを言えば、これは現代では通用しないな、と思う。子供を攫(さら)い、好みに育て、最後は自分の女にするなんて、どこに自由と民主主義があるんだよ、という気がするじゃないですか(笑)。でも当時の人は、それをおもしろがって読んだんだろうね。

dezakigenji.jpg(c)Genji製作委員会

──それにしても光源氏は対象年齢が幅広いですよね。

【出崎】お父さんの愛人で、いまで言えば義理の母親を取っちゃったりするわけだからね。男の子にも手を出しているとか。生きる力だと思うんだよね。人と人が心をぶつけあうという意味では、いまよりもっと積極的な時代だったんじゃないかな。いまはメールだけ、とかね。連絡は頻繁にするけど、実際は会いたくない(笑)。

──それだけ、人と触れ合わないと埋められない何かが、『源氏物語』の時代にはあったんでしょうか?

【出崎】あったと思う。人と触れ合っているから余計温かさもあるし、辛いことももちろんあるんだろうけど。生き生きと生きられる。人の生き方に触れることになるわけだからね。いまはほとんど触れないもんね。どこかのサイトで遠くから、名前を隠して石を投げてくるようなことばかりやってるんでしょ? おまえら出てこいよ、と思うけど、出てこないよね。

──『Genji』についてひとつ訊いておかなければならないことがあります。『あさきゆめみし』から企画が変更された件(記事参照)について。

【出崎】あれオレがイヤって言ったのでも、なんでもないんだよ。いろいろ意見の相違があって、一度は「じゃあオレ辞めます」って言ったんだから。時間はどんどんなくなっていくし、作業として大変なことになることはわかっていた。2カ月か3カ月関係者で調整してたみたいで、きっと制作ペースが週1(1週間で1本を作る)になるぞと思っていたら、実際いま週1になっている。週1で絵コンテ描くのはけっこう大変で。

──その時点でもう制作は始まっていたんですよね?

【出崎】もちろん。シナリオは6、7話まで進んでいた。原作の『あさきゆめみし』のいいところを選りすぐって作っているわけだから。いまはあらためて、まったく別個の『源氏物語』として作り直しています。内容がそのままで看板を架け替えたのではなく。

──何が問題だったのでしょうか。

【出崎】要するに、OKをもらっていた脚本とオレの絵コンテの内容がちがっていたんですよ。最終的な映像を作るために、シナリオはある種のロケハンだと、思っているんです。文字で書いてみる。映像にするためには、あらゆる可能性を考えて、7稿も8稿も書く。ホンがそこへの道しるべをある程度つけてくれている。でもシナリオで一所懸命論理を追ってもらって、その論理を越えたところに何かがあるぞとぼくは思ってるから、絵コンテを書くときに結局はシナリオを使わないかたちになってしまう。

──テキストをアニメーションというメディアに変換するときに、変わらずにはいられない。原作を移植するだけなら、それはもう、ただの作業でしかない、ということですね。

【出崎】そう。原作から映像に変わっていくときに「ええ、こんなものができるの?」という驚きがあるのは、すごくいいことだと思うんですよね。それは原作が持っているキャパシティ、すごさだと思うし。深みへ入っていくこと、広げていくこと、それがぼくらの仕事だと思うから。ぼくはそれをマジメにやっただけなんだけど、マジメすぎたのかなぁ。原作がこうだからアニメ的な面白さを捨てて原作通りにします、とは言いたくなかった。

──そこに目を瞑る不誠実はできなかった。

【出崎】できないですよね。そういう作り方は、少なくともぼくはできないから。

後編につづく/取材・文=後藤勝【ヘッドルーム】)

genjiPOSTERs.jpg●『源氏物語千年紀 Genji』
フジテレビ”ノイタミナ”ほかにて1月15日深夜24時45分より放送開始
30分×全11話(予定)
原作:紫式部「源氏物語」
監督・脚本:出崎統
シリーズ構成・脚本:金春智子
キャラクターデザイン・総作画監督:杉野昭夫
音楽監督:鈴木清司
美術監督:河野次郎
アニメーション制作:トムス・エンタテインメント /手塚プロダクション
放送局: フジテレビ/関西テレビ/東海テレビ/テレビ西日本/新潟総合テレビ/高知さんさんテレビ/テレビ熊本
『源氏物語千年紀 Genji』公式サイト http://genji-anime.com/

●でざき・おさむ
1943年11月18日生、東京都出身。アニメ監督、脚本家、演出家。
63年に虫プロダクション入社。以降、『あしたのジョー』『エースをねらえ!』『ベルサイユのばら』『元祖天才バカボン』『ガンバの冒険』など数多くの名作を手がけ、日本アニメ界の第一人者となる。「止め絵」や「繰り返しショット」など出崎によって生み出された独特の演出法は、アニメ演出の分野に今なお多大な影響を与え続けている。

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大傑作。

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最終更新:2009/01/14 11:31
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