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『シブカル祭。』常連の愛☆まどんなが考える、渋谷の街の空気感

2011年の初開催から2016年まで毎年、『シブカル祭。』に参加してきた「女流美術家」愛☆まどんな。1980年代の漫画に登場するような美少女をモチーフにした作品の数々を発表している彼女は、渋谷PARCOの外壁をキャンバスに、巨大な壁画を描いたり、ペインターの「Ly」や現代美術家でアイドルの「マコ・プリンシパル」など、さまざまなクリエイターとのコラボレーションを行ったりと、『シブカル祭。』において中心的な活躍をしてきた。

残念ながら今年は不参加となってしまったものの、『シブカル祭。』の草創期から携わってきた彼女は、多数の女性クリエイターたちが集うこのイベントをどのような目で見てきたのだろうか? そして、『シブカル祭。』を通じて、どのようなアートの可能性が広がっていくと考えているのだろうか? OGとなる彼女に、今年も開催される『シブカル祭。』語ってもらった。まずは、彼女が2次元美少女を描く理由から、話を伺っていこう。

女の子なら誰しもが経験してきたけれども、絶対に取り戻せない、少女という時代

―愛☆まどんなさんは、2次元美少女をモチーフにさまざまな作品を手がけられていますね。近年は、2次元美少女がオタクだけのものではなく一般的になりつつありますね。

:オタクカルチャーが、一般的な文化として認知されつつあるのを感じています。自分の作品も、活動を始めた当初は秋葉原にいる、いわゆるオタクの方々が買ってくれることが多かったんです。けれども、社会的にもオタクカルチャーに対する違和感が少なくなり、私自身も「でんぱ組.inc」「バンドじゃないもん!」などのアイドルとの仕事で徐々にいろいろな人に知ってもらうようになってきました。

その結果、今ではサラリーマンや女子大生、OLさんなどが普通に作品を購入してくれたり、渋谷にいるような女子高生たちがグッズを持ってくれるようになったり、状況が変わってきているのを実感しています。

愛☆まどんな
愛☆まどんな

―愛さんのファン層も、オタクから普通の女子たちに広がっているんですね。

:ただ、同じような「2次元」というジャンルで見られがちですが、実は私自身はオタクの人々が好きな今のアニメやマンガは、あまり知らないんです……。なぜ、自分が2次元のモチーフを描き続けているのかは、いまだに手探りで理由を探しているんですよね。

―元々、どのような作家から影響を受けてこのような作風になっていったのでしょうか?

:1980年代の青年マンガが大好きです。特に大友克洋先生の『AKIRA』(講談社)の壊れている街の風景や世界観がとても好きですね。直接的に絵柄として影響を受けたのは、『あんどろトリオ』(秋田書店)などのロリコンマンガで有名な内山亜紀先生や、鳥山明先生など。鳥山先生の描く初期のブルマなんて、めちゃめちゃかわいいですよね。きっと、あの人もロリコンなんじゃないかな……?

愛☆まどんな

―(笑)。愛さんが美少女を好きになったきっかけって、何だったんでしょう?

:理由はわからないのですが、自分が幼女の頃からずっと幼女が好きでした(笑)。小学生の頃から中学生のお姉さんが好きだったし、中学生くらいの頃には12歳前後の女の子が好きだったんです。その年代特有の、中途半端で発育途上な感じや、不安定で壊れそうな感じに惹かれてしまう。体型的には、完全に脂肪がついて女性らしくなる前の痩せた身体の少女が好きなんですよね。

―大人になるかならないかの、微妙な年代ですね。

:描いている美少女たちには、自分の理想を重ねている部分が大きいと思います。2次元の少女は、現実の少女とは違い、触れないし抱きしめることもできません。一方的に好きになることしかできない「女神」のような存在であり、永遠に汚れることもない。女の子なら誰しもが経験してきたけれども、絶対に取り戻せないのが、少女という時代なんです。

ただ、その一方で、その年代だった頃の自分を、描いている少女たちに重ね合わせている部分もあるのかな、と最近思っています。私自身その頃は、さまざまなコンプレックスを抱えていたし、家庭も不安定だった。理想的な美少女を描いている部分と、自分を重ね合わせている部分との両方があるんだと思います。

愛☆まどんな『BLUE WALL』(2015)
愛☆まどんな『BLUE WALL』(2015)

愛☆まどんな『君はくちびるを寄せつけない』(2017)
愛☆まどんな『君はくちびるを寄せつけない』(2017)

―理想であり自分自身でもある。そんなバランスの上で、愛さんの描く美少女たちは成り立っているんですね。

:例えば、単純に「絵がうまくなりたい」みたいなことはあまり思わないのですが、自分の内側にある、不安定で壊れそうな感じを表現するような線を描きたいとはいつも思っています。だから、私の作品を好きという人には繊細な人が多いかもしれませんね。

―一方で「エロい」と評されることもしばしばです。男性から見ても、愛さんの描く美少女たちには独特のエロさが感じられます。

:自分の絵に対して、男性が女性に感じるような性的な魅力も感じているんです。私自身、性的に興奮をしている部分も少なくないですね。ただ、狙ってエロさを描いているわけではなく、描き終わったら「今回の作品はけっこうエロいな……」と実感するくらい。

グッズも展開していて、Tシャツにプリントして販売したりもしているので、「こんなエロいプリントの服を着て、女の子たちが歩いてくれるんだ」というドキドキ感も楽しんでいますね(笑)。

『くさってもロリコン!2017 T』
『くさってもロリコン!2017 T』(サイトで見る

渋谷の真ん中で描いている自分を少し俯瞰した目で見ながら、「渋谷の空気感」を描く

―愛さんの活動は、秋葉原の路上でライブペインティングをすることからスタートしました。『シブカル祭。』も渋谷という街にフォーカスをしているイベントですが、街によって、作品も変わっていくのでしょうか?

:ライブペインティングを行うときは、その場で湧き出したイメージや気持ちを線や色で表現しているので、街というよりも、見に来てくれる人や描いている場所の空気感を大切にしています。ただ、『シブカル祭。』で描くときは、渋谷の真ん中で描いている自分を少し俯瞰した目で見ながら、「渋谷の空気感」を描いていることが多いですね。

愛☆まどんな

―「渋谷の空気感」とは?

:言葉にするのが難しいんですが、私には渋谷の「不良っぽさ」や「自由さ」に対する憧れがあって。2013年の『シブカル祭。』で、マコ・プリンシパルさんやナマコラブさん、ひさつねあゆみさんなど14人の作家さんたちと一緒に、ギャルのコスプレをしながら、ピカソのゲルニカをオマージュした『ギャルニカ!~Don't Cry~』を描いたことがあって、「ようやく不良になれた!」という喜びでいっぱいでした(笑)。

2013年の『シブカル祭。』で開催した『ギャルニカ!~Don't Cry~』の作品
2013年の『シブカル祭。』で開催した『ギャルニカ!~Don't Cry~』の作品

―今は、外国人観光客も多くなり、街の雰囲気は変わりましたが、1990年代の渋谷にはもっと不良っぽいイメージがありましたね。

:ルーズソックスやコギャル文化などが全盛だった当時、私は中学生だったんですが、校則から外れることもなく真面目に生きていました。だから、渋谷の、校則から外れた自由さに対する憧れが強いんです。最初は、集まってくる人種が違うから、私の漫画的な絵柄は嫌がられてしまうのかな……という危惧がありましたが、全然そんなこともなく安心しました。

その一方で秋葉原は、引きこもりがちな自分とリンクすることもあり、ホッとする部分は多いですね。秋葉原でライブペインティングをしていたとき、「いつもは引きこもりで家から出れないけど、このパフォーマンスのときだけ、家から出ることができます」と、話しかけてくれたお客さんがいました。秋葉原には、渋谷とは異なり、そういう意味での不健康さや危うさがあるように感じます。

渋谷PARCO工事現場前にて
渋谷PARCO工事現場前にて

露出の高い女の子が多いので、外に描くドキドキ感は、高いんです。

―これまで、6年にわたって『シブカル祭。』に参加されてきていますが、印象に残っていることは何でしょう?

:やっぱり、第一回目の開催の時に壁画を描いたのは印象深いですね。渋谷PARCO の壁に絵を描いたんですが、いちばん小さな壁でも高さは3メートルくらいあって。集中して絵を描いている間は大丈夫なんですが、それが途切れた瞬間に恐怖心が湧き上がってきました(笑)。降りられなくなったら、どうしよう……と肝を冷やしましたね。

2011年『シブカル祭。』で描いた壁画の様子
2011年『シブカル祭。』で描いた壁画の様子

―(笑)。初回から数えて、これまで3回にわたって壁画を描いていますね。

:巨大な壁を使って絵を描かせてもらうことは滅多にない貴重な経験です。それに、『シブカル祭。』の会場は、渋谷のど真ん中。2日くらいかけて創作しているところを通行人に見られ、時折その反応も聞こえてくるので、普段の制作とは感じる雰囲気が違いましたね。

それに、外だとたくさんの人に見てもらうことができる。私の描くモチーフは露出の高い女の子が多いので、外に描くドキドキ感は、室内での展示に比べるとはるかに高いんです。

ディズニーランドに行くノリで美術館を訪れてほしいし、ディズニーグッズのノリで作品を置いてほしい。

―『シブカル祭。』は、普段は見られないコラボレーションも数多く展開されています。愛☆まどんなさんも、毎年さまざまなアーティストとコラボレーションを行ってきましたね。

:作家同士って、基本的にシャイなので、喋るきっかけや出会うきっかけってあまりないんです。私の場合は、『シブカル祭。』での出会いをきっかけに、ペインターのLyちゃんと『愛まとLyのウォールペイント』を行ったり、ファッションデザイナーのヌケメさんと『「血の気も匂いも恋と化す」ヌケメとあいまの2人展』、アイドルユニットのめろでぃーリアンさんとのパフォーマンスといったコラボを行うことができました。コラボ以外にも、いろんな作家さんと知り合ったことで、好きになった作品も数多くあります。

『愛まとLyのウォールペイント』の様子
『愛まとLyのウォールペイント』の様子

―観客にとっても、未知のクリエイターに出会える魅力がありますが、アーティストも『シブカル祭。』を通じて出会っているんですね。

:そういう意味では、『シブカル祭。』は、作家同士がつながってアートを広めていくきっかけとなっている側面があるんじゃないかな? 普通の美術展やアートフェスティバルよりも、もっと学園祭に近い雰囲気があり、まるで女子高の文化祭のような一致団結みたいなのを感じます。

愛☆まどんな

―これまで参加してきた中で、シーンの変化などは感じられるんでしょうか?

:やっぱり、自分の作品をグッズにするというアーティストが増えていった印象がありますね。私がグッズの制作を始めた時には、そんなことをするアーティストって珍しかったんですが、今ではもう当たり前になりつつありますよね。

―たしかにそうですね。愛さんが、作品をグッズ展開するようになったきっかけは何だったのでしょう?

:もともと、自分の描いた作品を自分で身に着けたいと思って洋服を制作し始めたのがきっかけでした。その後、女子高生や学生のファンから「絵はほしいけど高くて買えない」という声を多くいただくようになって。気軽に持ってもらえるようにと、ステッカーや缶バッジを作ったんです。そうしたら、たくさんの人が身につけてくれるようになって、口コミで作品が広がるようになって。だから、私の作品を知ってもらうきっかけの一つにもなっています。

缶バッジ
缶バッジ

―グッズとして普段使いされるからこその広がりですね。

:はい。グッズのような形でもいいから、いろいろな人に作品が広まってほしいし、所有してほしい。

というのも、昔、コレクターの人の家に遊びに行った時に、収集された作品が倉庫に眠っている光景を見て「寂しいな……」と感じてしまったんです。倉庫の中に眠らせておくよりも、作品を好きな人に飾ってじっくりと見てほしいし、抱いて寝るくらいに使い倒してほしい。その人の生活の中に、作品が入ってほしいんです。

愛☆まどんな

―その一方で、アートをそんなに気軽に扱ってもいいの? という疑問も湧き起こるのですが……。

:私は、絵画が「特別なもの」と思ってほしくないんです。その人の生活と一緒にあるものであり、一部にあるものであってほしい。アートは、いまだにまだお金持ちが買う「特別なもの」とされています。老舗の画廊をのぞくと、コレクターの方々ばかりが足を運んでいます。

でも、若い人たちにも、ディズニーランドに行くノリで画廊や美術館を訪れてほしいし、ディズニーグッズのノリで家に作品を置いてほしい。日常的にアートがあったら、この世界はもっと素敵になるはずなんです。

愛☆まどんな

―なるほど。日常の中にアートが入っていくことによって、どのような変化が起きると思いますか?

:美味しい食べ物を食べて気持ちが少しハッピーになるように、好きなアート作品に触れることによって、嫌なことを少し忘れられたり、癒される効果が絶対にあると思っています。

そんなささやかな喜びだけでなく、家から出れなかった秋葉原の子が私の絵に救われたように、時に人を救う力をも秘めているのがアートの魅力です。日常の小さな喜びから、人生の困難を救うことまで、アートが持っている可能性は幅広いんです。

―愛☆まどんなさんが今後の『シブカル祭。』に期待することはどのようなことでしょうか?

:『シブカル祭。』には、渋谷PARCOが立て替え工事中の今、ぜひ積極的に海外に出てほしいですね。15年に『SHIBUKARU MATSURI goes to BANGKOK』として、タイのバンコクで展示をさせてもらったのですが、とても楽しかった。参加しているクリエイターたちからも、海外で展示をしてみたい、外国人の反応を知りたいという声をよく聞きます。私自身、海外で展示をすると、言葉の微妙なニュアンスが伝わらなくて歯がゆさを感じたり、逆に「この色は感動する」と言ってもらったりと、さまざまな発見がありました。シブカルのよさは、個人の作家ではできない規模を展開できること。ぜひ、クリエイターに向けてそういうチャンスをつくってほしいですね。

―海外で展示を行うことによって、クリエイターとしても刺激を受けることができますね。そのような取り組みを行えば、2019年に渋谷PARCOがリニューアルオープンした際には、さらに盛り上がる『シブカル祭。』が、期待できそうです。

:去年渋谷PARCOが一時休業に入って一区切りついた感じがあって、現在は不参加となっているのですが、2019年に渋谷PARCOがリニューアルオープンしたら、私もまた参加して、ぜひ巨大な壁画を描かせてもらいたいですね。

愛☆まどんな

イベント情報
『シブカル祭。2017~この胸騒ぎは渋谷のせいだ。~』

2017年10月20日(金)~10月29日(日)

展示
2017年10月20日(金)~10月29日(日)
会場:東京都 渋谷 GALLERY X BY PARCO
料金:入場無料

オープニングパーティー
2017年10月20日(金)
会場:東京都 渋谷CLUB QUATTRO
料金:入場無料

『シブカルファッションショー。2017“UNDER CONSTRUCTION”』

2017年10月22日(日)
会場:東京都 渋谷パルコ工事現場

『シブカル音楽祭。2017』

2017年10月27日(金)OPEN 18:30 / START 19:00
会場:東京都 渋谷 WWW
出演:
禁断の多数決
CHAI
小林うてな
AAAMYYY
Akiko Nakayama
伊波英里
大島智子
HATEGRAPHICS
and more
料金:前売2,500円 当日3,000円(共にドリンク別)

プロフィール
愛☆まどんな (あい まどんな)

嫌われない程度に愛されたい、昭和生まれの美術家です。オリジナルの二次元美少女とナンセンスなコピーで日本人らしい作品を作り続けてきたいと思います。最近はデザインとフィギュア原型に力をいれてます。



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