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「偶然の出会い」が私にもたらしたもの。バイク川崎バイク、最果タヒ、アオイヤマダに聞く

この数年で私たちの生活がリアルからオンラインへと移り変わっていくとともに、まったく知らない誰かとの「偶然の出会い」の機会は大きく減少しているように感じる。けれども「出会い」はエネルギーであり、自分の可能性を開いてくれるガイドのようなもの。それでは、偶然の出会いはどのように訪れ、私たちに何をもたらしてくれるのだろうか?

駅型商業施設「ルクア大阪」はいま、そんな問いかけに応えようとしているのかもしれない。2023年3月1日(水)~4月2日(日)の期間、オープン8周年を祝う『ルクア大阪8周年 話をしよう』で、新たな出会いを創出するさまざまなイベントを催している。

なかでも『Letter ~エールの虹を掛けよう~』では、「エール」をテーマに、まだ見ぬ誰か宛に手紙を書いたり、またそんな誰かが書いた手紙を読んだりする企画を実施。さらにアーティスト、イラストレーター、小説家など、さまざまなゲストからのエールの手紙も展示している。

今回はそんなゲストのなかから、お笑い芸人のバイク川崎バイクさん、詩人の最果タヒさん、ダンサーのアオイヤマダさんの3人に話を聞くことにした。テーマはそう、「偶然の出会い」について。

電車のなかから飛び出してきた男性が差し出したもの|バイク川崎バイクさん

ー「偶然の出会い」から、バイク川崎バイク(以下、BKB)さんが思い出すエピソードはありますか?

BKB:芸人はなにしろ人と絡む仕事なので、偶然の出会いの連続と言ってしまってよいかもしれないですね。

最近あった偶然の出会いは、電車に乗ってたときです。ある日の仕事場への移動中、乗り換えのややこしい駅でけっこう焦って降りたんです。そうしたら自分よりちょっと年上っぽい男性の人が、ぼくが降りた瞬間にバーンと立ち上がって、同じ駅で降りてきたんです。

「あの人も焦ってたんかな?」と思っていると、まっすぐぼくの方に近づいてきて「BKBさんですよね!」と声をかけてきて。おいおい俺を追いかけてきたのか、ちょっと怖いぞと。さらに二言目が「渡したいものがあるんです」と。

ーそれも少し怖いですね(笑)。

BKB:そうしたらですね。バイクメーカーのKAWASAKIのシールを差し出して「ぼく、じつはKAWASAKIの社員なんです。BKBさんにいつかこのシール渡したいと思ってました。これからも応援してます!」って言って、去っていったんです。

ーその内容、たしかツイートしてましたよね?

BKBさんが当時投稿したツイート

BKB:自分としては面白い出来事としてつぶやいたつもりなんですけど、一瞬でネットニュースになって「素敵な出会い」みたいな内容になってました(笑)。読む人によってはKAWASAKIの社員さんの熱い想いが伝わるみたいで。でもたしかにこれもすごい一期一会だよなあ、と。

ーいつかBKBさんに会う! という気持ちで毎日持ち歩いていたかもしれないですし、とんでもない偶然ですね。

BKB:あの時間のあの車両に乗ってなかったら起こりえなかった出来事。でも結局のところ、偶然の出会いって意識していてはなかなかつくれないことだから面白いと思うんですよ。「何か面白いことあるかも?」なんて下心もちょっとはあって飲み会には行くけれど、日常の通常運転中の出会いがやっぱり面白い。このあいだ乗ったタクシーでも、いきなりバナナもらいましたもん。

ーなぜバナナを?

BKB:めちゃくちゃ喋りかけてくる運転手さんっているじゃないですか。こちらの気分はそんな話したいわけじゃないときもまあありますけど、どうせ10分か15分くらいだし、ぼくは「ちょっと話聞いたろ」って思うようにしてるんです。話のキャッチボールが意外と面白くなったりもするから。

そのときの運転手さんは、自分の可愛がってる犬の話をめっちゃしてきて、正直全然興味なかった(笑)。でも「うわあ、かわいいっすね!」とか「この子は何歳ですか?」「散歩はどんなタイミングで?」とか聞き返してたら、運転手さんもすごく楽しそうになってきて。

それで家に着いて、降りるときに「こんなに話を聞いてもらって本当ありがとうございました。これどうぞ!」って差し出されたのがバナナ。

ーそれは面白い(笑)。

BKB:なんてことない話。でも笑っちゃいますよね。夜食用だったらしいです(笑)。こういう話ができるのも一期一会のおかげかなと。ただ、これは結果論で、絶対に見過ごしてる一期一会のほうが多いんですよ。

今回の『Letter』で書いた手紙では、「はじまりは半分」という韓国のことわざを紹介してるじゃないですか。

ー何かをするときに、始めるだけで全体の半分はもう完了してる、だからすでに先は見えているぞって内容ですね。

BKB:それに近い意味合いで「無理はしない」というのがぼくのモットー。そうやって無理せず待っていると、偶然の出会いはちゃんとやってくる。このクリエイティブな企画やインタビューだって、コロナ禍のあいだに時間がありすぎて書いた小説がきっかけで生まれた機会。だからどんなことも全方向的につながっていく。無駄なことはありそうでないんです。

……って、何か格好つけちゃいましたね。バリ(B)企画は(K)ブラボーでした(B)! BKB! ヒィーア!

資生堂の美容部員が、私のなかの化粧の概念を変えた|最果タヒさん

ー最果さん、これまでの出会いのなかで忘れがたい言葉や人はありますか?

最果:言葉で忘れられないのは、思潮社が発行している現代詩文庫の吉増剛造さんの詩です。ネットに詩を書いていた頃に、『現代詩手帖』っていう専門誌への投稿を勧められて。現代詩ってなんだろうと思って行った本屋で出会いました。

現代詩がなんなのかを知りたくて読んだのに、その答えは少しもわからなくて、ただその詩をすごくかっこいい! と思えました。この感覚がすべてなのかもしれないなって、そのとき思えたんです。

ーでは、人との出会いはどうですか?

最果:だいぶ前ですが、資生堂のお化粧コーナーにいた美容部員の方との出会いが印象に残っています。

それまでの私のなかのお化粧って、自分のコンプレックスになっているものを隠すもの、世の中にある一般的な「きれい」という概念に自分を合わせるものというイメージでした。だからお化粧ってあんまり好きじゃなかったんです。

でもその美容部員の方は、自分のなかにあるきれいな部分や、好きなところをより好きになれるようなお化粧を当たり前に勧めてくれる人で。

その人がもともと持っている「きれい」なものを、ポンと背中を押してあげるのがお化粧なんだ、そういう考えでお化粧してもいいんだって、その美容部員の方と出会ってから思うようになりました。「きれい」ってとても主観的で、人によって何がきれいに見えるのかもバラバラなので、そうやって自分が「きれい」と思えるものを信じるのは大切なのかもって。もしかしたら、さっきの吉増さんの詩と出会ったときの感覚とかなり近いかもしれません。

ー今回の『Letter』の手紙とも通じるような、出会いのエピソードですね。

最果:ある一つの転機みたいなのが今回のテーマですけど、手紙でも小説でも、何か一つの言葉がふいに自分を動かしてくれるってことが、これまでもたまにあったんです。

そういう言葉って誰かが自分の事情を全部知って自分のために準備してくれた言葉であることよりも、誰かの何気ない言葉から自分自身で答えを見つけ出すことが多かったように思います。時には、その言葉を話した人の意図とは全然違う受け取り方をしていることもありますし。その言葉を希望だと思えるのって、受け取った側にある力みたいなものがかなり大きく関係するのかなって。

だから今回も、そういう読み手の力にできるだけ委ねる言葉を書いて、ポジティブなことをこちらから一方通行的に伝える必要はないかなと思って書きました。

最果タヒさんの最新詩集『不死身のつもりの流れ星』(パルコ出版)

ー詩の言葉とはちょっと違う感触で書かれたのでしょうか?

最果:先ほど話した読み手に委ねる感覚はかなり詩と同じです。ただ、手紙ですから語りかけることが前提とされていますし、詩よりは読む人の気配を意識している気がします。

詩はその言葉がそこにあること自体とてもささやかで、読む人が気づくのを待っているような言葉だと思います。そんな言葉に不意に惹きつけられるとき、その言葉を見つけたその人自身の存在がかなり際立つ気がしていて。そうやって、詩は読み手によって完成していくんだと思うんです。

その人の事情とかいつも考えてることだとか、そういうものと重ねて詩が読まれていく。その詩に何か美しいものを感じたなら、たぶんそれは詩が何かを渡せたというよりも、その人のなかにあった、感情の美しい部分、その人自身が心を動かされる感覚によるものだと思うんです。

ー会場に手紙が展示されるというのは、この企画のちょっと変わったところです。手紙を届けたい人が広く設定されているというか。

最果:たしかにちょっと不思議な距離がありますね。手紙ってわりと一方通行的で、喋るときの言葉とは違う。直接話さないし目を見て話すわけでもないですから。このことは、詩とか文章を書いて世に出すときも思うことなんですけど。

でも一方通行的なぶんだけ、もっと向こう側に委ねられるのかなと思っていて。目の前にいると完全に心を開いて打ち明けるのは無理かもな、とも思うんですけど、その代わりに、手紙や文章という一方通行の表現では、その人自身が自分の本当に言いたいことや、考えたいことをなんとかたぐりよせようとする猶予が残されているように思って。それが他の人に伝わっていくのがとても美しいと思います。

好きなものを追いかけて連鎖する出会い|アオイヤマダさん

ー今回の『Letter』の手紙で、アオイさんは自分のおばあちゃんについて書いていますね。

アオイ:うちのおばあちゃんは何を食べても、すごくきれいな景色を見ても「わー初めて!」って喜ぶ人なんです。おじいちゃんからは「初めてじゃないよ」って指摘されるんですけど、たぶんおばあちゃんにとっての「初めて」は、つねに新しい感覚に出会ったことを言ってるんですよね。

たしかにそれが本当に新しい感覚かは、本人以外はわからないけど、それを言うことによって、おばあちゃんのなかの幸せ度が増しているし、それを聞いてる私もなんか幸せな気持ちになれる。それを感じると「世の中の物事ってすごい考え方次第だな」と思います。

ーアオイさんにとって思い出深い出会いはなんですか?

アオイ:何よりも自分の夫との出会いです。教習所で出会って、紙の裏に電話番号書かれて渡されたんですよ。そこからいまの結婚までつながっていくんですけど。

高校を卒業して仕事もあまりやってなかった頃で、自分はこれから何をしたいんだろうと、すごく迷っている時期でした。でも、彼との出会いがあってから、彼が好きな映画を見てみよう、音楽も聴いてみよう、ってところから外の世界を知るようになり。そうやって次第に自分が本当に好きなものがわかってくるというか、宝物を集めるみたいに自分の旅が始まった感じです。

コロナ禍のときに、外出ができない祖母を楽しませたくて、昭和歌謡曲に合わせて、その日の晩ごはんで使う野菜と踊る「野菜ダンス」を始めました。

それをSNSに出してみたら意外な反響があって。ファッションブランドの人がそれを見つけて面白がってくれて、じゃあコラボレーションしてみようと言ってくれた。そしてその仕事で出会った人とまた別のお仕事をして……みたいな。自分は好きなことをやって好きなことを集めてただけなのに、気づいたらそれによって支えられていた。そうやって、いまにつながってきたんですね。

ー偶然の出会いが、自然と連鎖していった?

アオイ:でも自分の直感みたいなものはすごく大事です。その人に本当に惹かれたか、ピンと来たか。言ってしまうと、それしかないんじゃないかなあ。

具体的な例で言えば『First Love 初恋』というNetflixのドラマに出演させていただいたのも、偶然の出会いでした。食について勉強したいと思い、ある料理研究家の方の家に住まわせてもらっていたのですが、そこによく満島ひかりさんがご飯を食べに来ていたんです。

ある日、私が帰宅すると、ひかりさんが「あなた探してたのよ!」と。ダンスをしている女の子を探していて「ちょうどあなたを見つけた。お芝居興味ない?」ってところから『First Love 初恋』の出演につながって。

ー初恋というか、一目惚れというか(笑)。

アオイ:料理のお手伝いをしたかっただけなのに、どんどんつながっていって自分の表現の幅が広がっていったんです。何がきっかけになるかわからないから、本当に直感と自分の好きなものを追いかけるだけで、きっと大丈夫なんだなって。

よくSNSで「私もアオイさんみたいな表現者になりたいです。どうしたらなれますか?」って質問をいただくんですね。そこでやっぱり思うのは、どうしたらいいかっていうのは人それぞれだし、これをやったらいいよとかは具体的には言えないです。

まず本当に好きなものを追いかけて、そして迷いすぎたら誰のために生きたいのかを考えて、いろんな思考の角度で自分を見つめてみることが大事なんじゃないかなって思うんです。自分自身も、いまもすごい悩むし(笑)。もう悩んで悩んで寝込んじゃうこともあるから、あんまり人を物差しとして考えない方がいいのかも、って思ってます。

イベント情報
「ルクア大阪」は、2023年3月1日(水)~4月2日(日)の期間、8周年を記念したスペシャルイベントを開催いたします。

8周年のテーマである「話をしよう。」をコンセプトに、"見知らぬ誰かと""気になるあの人と""自分の心のうちと"話をはじめるきっかけとなるような、さまざまな催しが登場!

ルクア大阪から感謝の思いを込めて、新しい春にぴったりな、トキメキや発見をみなさまにお届けできればと思います。


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