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地方遊園地のリアルを『オズランド』にみる

コラム

遊園地といえば、やっぱりジェットコースター!
遊園地といえば、やっぱりジェットコースター! - Yamaguchi Haruyoshi / Corbis via Getty Images

 大手企業に就職した新卒女子が思いがけず配属された地方の遊園地で、様々な苦労や挫折を乗り越え成長する物語『オズランド 笑顔の魔法おしえます。』(10月26日公開)。本作の舞台となった遊園地は、九州の中心に位置する熊本県荒尾市のグリーンランド。遊園地のほかにゴルフ場、ホテル、温泉、アミューズメント、ショッピング施設などが併設された九州最大級のこの遊園地は、バブル崩壊も乗り切り50年以上も続いている老舗です。なぜこの地方遊園地が人気なのか。映画の見どころと共に探ってみましょう。(文:此花さくや)

【動画】『オズランド 笑顔の魔法おしえます。』予告編

リカちゃん人形が子供の遊び場を変えた!?

 日本最古の遊園地については諸説がありますが、ペリー来航と同じ年、1853年に開園した「浅草花やしき」を近代的な遊園地のルーツとしてあげる人もいます。それ以来、時代の流れに伴い、遊園地はプラネタリウムなどの文化施設を併設したり、デパートの屋上に建設されたり、郊外の巨大な複合施設となったりなど、姿形を変えて家族連れの健全娯楽施設の定番となりました。グリーンランドも時代とともに変貌を遂げています。1966年、三井鉱山(現日本コークス工業)が観光果樹園として、「三井グリーンランド」を開園。ところが1960年代から1970年代には日本の遊園地の人気に陰りが見えてきたのです。

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リカちゃん人形 マジンガーZ
(左)1967年に誕生したリカちゃん人形(50周年イベントより) - 写真:つのだよしお/アフロ、(右)超合金マジンガーZ - Photo by Zangl/ullstein bild via Getty Images

 それは、この頃に売り出されたリカちゃん人形、レーシングカーセット、超合金マジンガーZなどの高級玩具による影響。この時代、高度経済成長期だった日本には、「国民全員中流意識」が生まれ、子供たちの玩具にまで消費競争が始まっていました(※)。もはや、子供たちにとってのご褒美は遊園地ではなく、高級玩具になっていったのです。さらに、1970年代後半には、大型スーパーマーケットの店内に子供向けのゲームセンターが出現。インベーダーゲームの大流行も手伝って、子供の遊び場が外から屋内へと変化しました。これによって日本の遊園地は斜陽産業になってしまったのです。

“非日常世界”を打ち出した東京ディズニーランド

 ところが、1983年に東京ディズニーランド(以下、TDL)が出現し、日本のレジャー業界を一変させます。TDLは遊園地に徹底的な“非日常世界”を展開しました。「徹底したエンターテイメント性と妥協しないサービス」が、成功した最も大きな理由と言われています。つまり、単なるレジャー施設ではなく、そこでしか味わえないディズニーの世界で、「大人も子供も時を忘れて楽しめる、世界で一番幸せな場所」という物語性をもたせたテーマパークなのです。

東京ディズニーシー
ランドの成功を受けディズニーシーもオープン! - Photo by Yamaguchi Haruyoshi/Corbis via Getty Images

 客に非日常世界を味あわせるために、遊園地につきものの、迷子の放送をせず、園内のゴミは1分以内に清掃スタッフが片付けます。加えて、木や機械も決して枯れたり色あせたりしないよう、毎晩閉園後に200人の清掃スタッフが園内をぴかぴかに磨き上げているのだとか。開園当時と同じ新しさを保つために、TDLは24時間動き続けているのです。(※)

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 本作に登場するグリーンランドも決して“現実感”を出しません。例えば、劇中に見る<五か条の鉄則>のうちの一つは、「何があっても緊急車両は入れない」こと。映画の冒頭では、ある事件が起こり、主人公の“なみへい”こと波平久瑠美(波瑠)は110番しようとしますが、先輩たちに「警察を園内に入れてはいけない」と言われ、大混乱に陥るシーンがあります。客を現実に引き戻さないために、徹底的に掃除をし、迷子のアナウンスもしない遊園地は、スタッフの見えない苦労によって支えられている夢の国なのです。

続々と現れて消えていった「テーマパーク」

オズランド
緊急事態発生!? - (C) 小森陽一/集英社(C)2018 映画「オズランド」製作委員会

 TDLに触発された「テーマパーク」という新しい形の遊園地は、バブル期に日本中に乱立しました。とはいえ、2000年代に入り、閉園となったテーマパークはなんと30以上もあるのだとか。TDLよりもずっと前に開園されたグリーンランドが生き残った理由は、映画で描かれているように、経営者とスタッフが協力し、常に向上心をもって“夢の国”を運営しているからでしょう。

 白土健・青井なつき編著の書籍「なぜ、こどもたちは遊園地に行かなくなったのか」によると、人気のない遊園地の特徴は、施設を育てようという運営側の意識が低く、人件費削減でスタッフの数が少なかったり、壊れたマシンを放置していたり、ゴミが散乱しスタッフのサービスの質が低かったりするそうです。

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経営陣とスタッフの高い意識

 映画では、なみへいは早稲田大学卒、そして彼女の同期の吉村(岡山天音)にいたっては東京大学卒の新入社員という設定です。なみへいが「ゴミを拾うために大学を出たわけじゃない!」と掃除をサボる傍ら、吉村は真面目に取り組みます。実際のグリーンランドの総合職(大卒)の研修でも、新卒は遊園地・ホテル・ゴルフ場すべてを回り、ごみ拾いからペンキ塗りまで様々な業務を行います。そうすることで、客と直に触れ合い、サービスについて自ら考え行動するようになるからなのだそう。

オズランド
広大な敷地をゴミ拾い……過酷! - (C) 小森陽一/集英社(C)2018 映画「オズランド」製作委員会

 また、入社初日のなみへいがあまりのダサさに驚く、遊園地の制服もグリーンランドの本物の制服。どこかレトロで、おもちゃっぽい“ダサかわ”な制服は、客にすぐに見つけてもらうために目立ちやすい色にしながらも、夢の国である遊園地に溶け込むように計算された、配色とデザインなのだとか。一年の中で最も繁忙期である3月中旬に開催される春催事のオープニングセレモニーでは、約2,000人が見守る中、ヒーローとともに怪獣と戦うというのがグリーンランドの入社式だったりと、夢の国の住人である自覚をもつようにという会社側の願いが、細部にまで込められているのです。

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オズランド
リクルートスーツでヒーローショー! - (C) 小森陽一/集英社(C)2018 映画「オズランド」製作委員会

 遊園地が提供する非日常の美しさの裏側で繰り広げられるリアル。TDLやユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)のように莫大な資本力とブランド力をもたない遊園地は、フレキシブルに方向転換することで、バブルの崩壊、レジャーの多様化や少子化など時代の変化を生き抜いてきました。未来の遊園地はどこへ向かうのか……。映画『オズランド 笑顔の魔法おしえます。』にはそんな裏テーマもあるかもしれません。

【参考】
※…創成社新書「なぜ、子どもたちは遊園地に行かなくなったのか?」白土健・青井なつき[編著]

【取材協力】
グリーンランドリゾート

映画『オズランド 笑顔の魔法おしえます。』予告編 » 動画の詳細
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