「なぜいじめられた側が逃げなきゃいけないの」 転校後も続く恐怖の日々、加害生徒へのペナルティーいまだ「ゼロ」の実態 #令和の子 #令和の親

「なぜいじめられた側が逃げないといけないのか分からない」と語る女子中学生
「なぜいじめられた側が逃げないといけないのか分からない」と語る女子中学生

 「まるで犯罪者のように暮らさなければいけない。悔しい…」。千葉県内の公立中学校でいじめに遭い、転校を決断した女子生徒。新しい学校に通う今も「なんでいじめられた側が転校しなきゃいけなかったのか分からない」と訴える。不登校や転校などで学校に通えなくなるいじめ被害者は後を絶たないが、転校先の学校を知られないように細心の注意を払ったり、加害者と接する恐れから希望する進路を諦めたりと、その後も不安におびえ続ける子どもは多い。一方、加害者側の子どもは「出席停止」などのペナルティーを科せられることなく学校に通い続けるケースがほとんどだ。「転校していじめは終わりじゃない」。卑劣ないじめによって日常を奪われた2人の女子中学生と、彼女らを支えた母親らの言葉から、転校後も続く被害者の苦しみと課題を伝えたい。(デジタル編集部・山崎恵)

スマホに「死にたい」と書き込む日々

スマートフォン
リナさんのスマートフォンには「死にたい」と繰り返し書かれていた(写真はイメージ)

 リナさん(仮名)が中学1年生の時、同級生からのいじめが突然始まった。休み時間、いつものグループの輪に入ろうとすると、皆が黙り、そのまま解散。初めは「勘違いかと思った」が、何度も同じことが続き、無視に繫がった。トイレでわざとぶつかられることもあった。「学校に行きたくない、お腹が痛い」。そう言って学校を休んだが、自分がいじめられているということは親には言えなかった。

 そんな娘の異変に気付いた母親が、学校に調査を依頼。学校はいじめを把握し加害生徒に謝罪をさせたが、その後「チクった」と言われ、リナさんへの無視や暴言はますますエスカレートした。

 やがてリナさんは、心の内をスマートフォンのメモ機能に書き込むようになった。「死にたい死にたい死にたい」―。偶然その画面を目にした母親は、強いショックを受けた。しかし必死に平静を装い、娘の命を守るために言葉を投げかけた。「自分の命は自分だけのものじゃないんだよ。死にたくなっても、他にたくさんできることあるからね」。リナさんは黙って聞いていた。

 一向に解決しないいじめに限界を感じ、母親はリナさんを転校させる決断をした。「無理してここにいる必要ない」。母親の言葉にリナさんは「もうあそこに行かなくていいんだ」と心底ほっとした表情をみせたという。

 学校からは「放課後登校はどうか」「つらくなったら保健室に行って帰ってもいい」などと引き留められたが、母親は「娘には、普通の中学生らしい生活を送らせてやりたいんです」と意志を変えなかった。

ターゲットを変え、繰り返されるいじめ

ターゲットを変え繰り返されたいじめ。被害生徒には「保健室登校」などが勧められた(写真はイメージ)
ターゲットを変え繰り返されたいじめ。被害生徒には「保健室登校」などが勧められた(写真はイメージ)

 リナさんが転校して数カ月後、同じグループのいじめのターゲットはアカリさん(仮名)に移った。陰口を言われ、上級生に「私がかわいいから嫉妬してくる」などと嘘の告げ口をされた。学校に行くと先輩たちからの白い目が突き刺さる。「言葉では言い表せない感じ。周りを巻き込んでひとりぼっちにさせる」。そんないじめだった。

 ある日、アカリさんは自宅で自傷行為を行った。テストの裏に殴り書きで「死ねばいいんでしょ」と書いた手紙もあった。「ごみ箱から血の付いたティッシュを見つけたときは、本当につらかった」。アカリさんの母親は涙を浮かべて振り返る。

 「アカリが学校に通えなくなり、いじめについて相談できるSOSダイヤルにも電話をしたんです。でもそこでフリースクールを薦められて。なんでうちの子が?いじめた子たちをそこに行かせればいいじゃないですか、と言ってしまいました」。

 母親がアカリさんに転校の選択肢を打診すると、アカリさんは間髪入れずこう答えたという。「うん!明日から!?」 

転校後も続く「不安」、奪われる「未来」

アカリさん
「同じ進学先になってしまったらまた同じ事をされないか」と不安を口にするアカリさん

 転校後、リナさんとアカリさんはそれぞれ新しい環境での学校生活を始めた。しかし、いじめの影響は完全に消えるわけではなかった。

 引っ越した訳ではないため、家の周りには登下校をする元の学校の生徒がいる。転校先が知られると、またあらぬうわさを立てられるかもしれない。何をされるか分からない。被害者の彼女らには、常にそんな恐怖が付きまとう。

 アカリさんは駅で加害生徒の姿を見掛け、過呼吸になったこともある。元の学校の前を通ると吐き気を催してしまうほどだ。そのため学校への送迎は必ず車。家の前に人がいないのを見計らい、急いで車に乗り込む。制服で街を歩くこともできない。「まるで犯罪者のような生活です」(アカリさんの母)。

 家族もまた、転校後の不安を抱えていた。「元気でいてくれるのが一番と思うが、不登校で休んだ分、勉強の遅れも出てきている」とリナさんの母。中学3年生の2人は、高校への進学で加害生徒と同じ学校にならないよう希望の進学先を諦める可能性もある。高校が別でも、大学や就職先で出会ったらと不安は尽きない。アカリさんは「なんで私が諦めなきゃいけないの。でも、もし同じ進学先になってしまったらまた同じ事をされないか、不安しかない」と吐露する。

加害者が「普通の生活」を続ける理不尽さ 「出席停止措置」は全国0件

グラフ
全国の公立中学校における「出席停止」件数の推移。2023年度も0件となった

 被害者家族が転校という大きな負担を強いられた一方で、いじめを行った加害生徒たちはそのまま学校生活を続けている。リナさんとアカリさんをいじめた生徒へも学校からは口頭での指導のみで、出席停止といった厳しいペナルティーはなかった。

 義務教育の小中学校においても、いじめ加害者への措置として「出席停止」の制度は存在する。学校の秩序を維持し、他の児童生徒の教育を受ける権利を保障するためだ。しかし文部科学省の「児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査」によると、2023年度に出席停止となった小中学生は全国で12人。そのうちいじめを理由とした事例はゼロだった。一方、いじめが原因で不登校になった児童生徒は同年度で4463人。半数近くが前年度からの継続で、影響が長期化している。いじめの加害者は学校に通い続け、被害者が学校から去っている実情が浮き彫りになっている。 

内田教授
被害者の権利を守るには、出席停止措置や警察の介入といった厳しい対応が必要と指摘する内田教授

 子どもの教育問題に詳しい名古屋大学大学院の内田良教授(教育社会学)は、不登校の児童生徒に対してはフリースクールや不登校特例校などの制度が整備されてきたが「加害者のケアについては長らく考えられてこなかった」と指摘する。「別室登校という簡易な対応はできるが、せいぜい2、3日。それで何が変わるのか」とし、公立校にも出席停止措置や警察の介入といった厳しい対応が必要だと強調。さらに加害生徒へのケアとして「一定期間カウンセラーの元で過ごす、加害者のみのフリースクールに通うなどの選択肢があってもいい」と一歩踏み込んだ対応の重要性にも言及した。

 内田教授が2019年に行ったウェブ調査では「いじめ加害者を出席停止にするべきだと思うか」という問いに対し、中学校教員の半数近くが「そう思う」と回答。管理職への調査では「そう思う」の割合がさらに高くなり、「学校だけではいじめを抱え込めないと言っているのと同じ。それにも関わらず学校組織として行った出席停止措置はゼロ件。ここにずれがある」と着目する。

 現代のいじめは目に見える暴力だけでなく、投稿から一定期間がたつと消えるSNSの機能を使った中傷など、証拠が残らず学校が実際に加害を把握できないケースも多い。内田教授は「出席停止は非常に厳しい措置。学校が加害の実態を把握できないままこれを行うことは危うく、組織としてハードルが高くなっている」と指摘する。その上で必要とするのが、警察など第三者機関の介入だ。

 「学校が警察の手を借りることを『学校の力量不足』とみる社会にも問題がある。学校だけではいじめの調査は非常に難しく、対処できない事態に陥ってしまう。世間がそれを認識しないと、学校が第三者の手を借りることができない」。

 加害者側がこれまでと変わらず学校に通っていることについて、アカリさんはこう語る。「私たちを転校させて、よく普通に登校できるなと不思議に思う。加害者側の生徒、親がカウンセリングを受けた方がいい。学校はなぜ、あった事をきちんと皆に話さないのか。隠すばかりだから、イジメはなくならない」。

※この記事は千葉日報とYahoo!ニュースによる共同連携企画です


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