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元ゆらゆら帝国・坂本慎太郎さん「何でこんなこと言っちゃったのか」から生まれる日本語ロックの魅力

2024年8月16日 16時00分 (10月14日 21時32分更新)

写真・布藤哲矢

 日本語が持つ響きの良さを生かした「日本語ロック」の可能性を追求するミュージシャンの坂本慎太郎さん(56)。ロックバンド「ゆらゆら帝国」のボーカル、ギターとして活動し、解散後はソロで創作を続ける。「マヌケだね」「義務のように」「恋の行方」といった言葉が曲の流れに乗ると、心地よい音として響く。その音楽は言語の壁を越え、欧米やアジアなど海外のロック愛好家の心も捉えている。 
 -普段はどんな生活をしていますか。
 起きるのは午前11時から11時半くらい。明け方の午前4時くらいに寝る生活を規則正しく続けています。
 -曲は期間を決めて集中的に制作するのですか。
 デモテープみたいなものをちょっとずつ作り進めています。MTR(マルチ・トラック・レコーダー、多重録音機)という機械に録音して、修正していったりする。集中して作業するというよりは、ちょっとずつ思いついたときに進めるという感じですね。
 -曲作りの手順は。
 最初はギターで普通にコード進行とメロディーを作るんですけど、その段階でだいたいリズムのイメージが浮かんでいる。ローランドのTR-606というリズムマシンなどを使って、メロディーと一番合うドラムのパターンを考える。そこにベースラインがはまれば、できるかなあってめどが付くんです。
 今までのアルバム制作では、7曲くらい合格の曲ができたら、バンドのメンバー(ベースAYAさん、ドラム菅沼雄太さん、サックス、フルート西内徹さん)に渡して、スタジオで練習する。同時進行で歌詞を考えながら、レコーディングをするというパターンですね。
 -歌詞はどう考えますか。
 曲の一節が浮かぶまではなるべく無理やり考えないようにしています。ひらめくまで寝かせておくというか。ギターでその曲を鼻歌で歌っているときにぽろっとフレーズが出たり、デモを聞いているときにパチッとはまる言葉が浮かんだり、散歩しているときに浮かんだり。そこで面白くなりそうだと思ったら、本格的に考え出す。
 何か言いたいことがあって曲にして伝えようと思って考え始めると、そこから飛躍できない。「何でこんなこと言っちゃったのか自分でも分からない」みたいなフレーズがはまって、そこから発想して作ると面白くなるパターンがある。
 -曲の冒頭の歌詞から思い浮かぶのですか。
 冒頭が多いですね。メロディーとリズムは決まっていて、イメージが広がるようなフレーズがピタッとはまると、そこから発想がいろいろと浮かんでくる。メロディーだけだったものに言葉が入ると急に、曲が全然、違った感じになる。曲のイメージがはっきりとして電球がピカッとつくような感じがあれば、その先は歌詞も浮かんでくる。
 -お気に入りの曲は。
 どうってことない、さりげない印象の仕上がりになればいいと思っていて、その意味では「マヌケだね」(3作目アルバム「できれば愛を」収録)という曲。簡単に作ってあるような歌詞なんだけど、力の抜けた感じと切実な感じのバランス、おかしみと悲しみのさじ加減と言いますか、好みの感じがありまして、自分では気に入っている。
 あと、パズルや言葉遊びみたいな感じで作った「おぼろげナイトクラブ」(7インチレコード「好きっていう気持ち」収録)という曲。(歌詞の「シンセ」「コンガ」など)真ん中が「ん」の言葉でリズムを出しているんですけど、それでちゃんと内容があって面白い感じが気に入っています。
 -「おぼろげナイトクラブ」を発表した2020年はコロナ禍の真っただ中でした。社会事象は創作に影響しますか。
 普段感じていることから歌詞を書くので、いろいろなニュースや、身の回りで起こったことは関係あると思う。ただそれに対して何か意見をしてやろうとして曲を作るというよりは、そうした社会情勢や身の回りの環境の中で、自分が歌ったときにしっくりくるかどうかということで言葉を選んでいる。その部分で、周りの環境に影響されていると思います。
 -近年は「夏休みの最初の日の朝」のような音楽を目指しているそうですね。
 夏休みの最初の日の朝というのは「今日から学校に行かなくていいんだ」という瞬間の気持ちのこと。例えば病気が治ったとか、借金がなくなったとか、ずっと心配だったことを考えなくてもよくなったときの晴れやかな気持ち。ストーリーではなくて、晴れやかになった瞬間だけを切り抜いたような、そこを引き伸ばしたような音楽ってできないかなというところから始まっています。
 自分が好きな音楽は全部そういうのに近い。明るいといってもただ明るい曲は聴いていて暗くなっちゃうんですけど、素朴な感じと切なさ、はかなさを含んだ明るい感じ、ほの明るさみたいなのが好みだったりします。
 -4作目のアルバム「物語のように」(22年)は明るい曲が多い印象です。
 (収録曲の)「君には時間がある」という曲ができたときに、何となく作りたいアルバムに入る曲ができたなという感じがあった。その時点で歌詞ができていなかったので、サウンドにふさわしくて自分が歌える歌詞がなかなか見つからず、苦労しました。
 -アルバム最後の曲「恋の行方」も思い入れがありますか。
 自分が普段、探している曲というか、レコードを買うときにああいう曲があったら絶対買うという感じの曲。具体的に言うとミドルテンポで、バラードじゃなくて、リズムが結構はっきりしていてゆるく乗れる感じがありつつ、悲しみを内包した笑いみたいなイメージ。一番好きな感じの曲です。
 -ゆらゆら帝国結成から現在まで35年間にわたり、日本語ロックの可能性を追求してきました。
 自分が英語のネーティブではないので、英語だと細かなニュアンスが分からない。日本語だと例えば、語尾を一文字変えるだけでニュアンスが変わって、こっちの方がぐっとくるという調整ができる。あと、どうっていうことのない言葉なんだけどこんな効果が出るとか、微妙なところまで、隅々まで分かる。
 -欧州や北米、中国、韓国など多くの海外公演も成功させてきました。
 自分の音楽に限らず、日本語の曲が海外で聴かれる機会がすごく増えたと感じます。昔はマニアしか知らなかった。今は普通に日本の音楽を聴いている人たちが多い。ユーチューブやサブスク(定額音楽配信サービス)のおかげですね。今まで僕たちが英語や海外の違う言葉の曲を音として楽しんでいたのと、逆のことが起こるようになってきたと思います。
 -今後の活動は。
 取りあえずは決まっているライブを無事にやる。新しいのも作りたいんですけど、ライブがいっぱい入ると集中する時間がなかなか取れなくて。今はライブを無事に終わらせるということですね。

 さかもと・しんたろう 1967年、大阪府生まれ。多摩美術大グラフィックデザイン学科卒。89年にロックバンド「ゆらゆら帝国」を結成し、2010年に解散。11年に自身のレーベル「zelone records」を設立し、ソロ活動を始めた。これまでにアルバム「幻とのつきあい方」(11年)、「ナマで踊ろう」(14年)、「できれば愛を」(16年)、「物語のように」(22年)、シングル「まともがわからない」(13年)などをリリースし、各定額音楽配信サービスでも配信。17年にドイツ・ケルンでライブ活動を再開し、国内外で演奏を続ける。この10月にカリフォルニア、シカゴ、ニューヨークなど5カ所を巡る米国ツアーを予定する。

あなたに伝えたい

 「何でこんなこと言っちゃったのか自分でも分からない」みたいなフレーズがはまって、そこから発想して作ると面白くなる。

インタビューを終えて

 仕事を終えて一息つく夜、坂本さんの音楽を聴くのが記者(40)のささやかな楽しみだ。部屋で体を揺らしながら歌詞を口ずさむと、音に乗った日本語のリズム感、響きの良さを体感できる。
 代表曲「君はそう決めた」はこれまで何回聴いたか分からない。朝が来て夜が来て、そしてまた繰り返してといった内容が淡々と歌われる。聴く人を鼓舞したり応援したりする歌詞ではないが、聴くと前向きになれる。
 ゆったりとした口調で一つ一つ言葉を選ぶように話す坂本さんは、会話の中にも小気味よい間やリズム感がある。音と言葉を扱うプロの一端を垣間見た気がした。
 (西山輝一)

西山記者が、坂本さんと交流のある漫画家大橋裕之さんとのエピソードも絡めて取材の裏話をつづったウェブ限定記事【「好きっていう気持ち」はとめられない 坂本慎太郎さんと大橋裕之さんと音楽と私 】はこちら

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