THE BIG INTERVIEW

ティム・クック、アップルとAIの未来を語る

Apple Intelligenceは「AI」の語呂合わせではないとティム・クックは言う。それはメールのオートコンプリートから命を救うアプリまで、あらゆる分野での可能性を追求するクックの戦略なのだ。『WIRED』のスティーヴン・レヴィによる独占インタビューを世界同時配信。
ティム・クック、アップルとAIの未来を語る
PHOTOGRAPH: Joe Pugliese
※雑誌『WIRED』日本版 VOL.55 特集「THE WORLD IN 2025」の詳細はこちら。

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アップル・パークを訪れるたび、完成の数カ月前に参加したツアーを思い出す。人造大理石の床には砂埃が積もり、植え込みも土がむき出しだった。ガイドしてくれたのはアップルのCEO、ティム・クックその人だった。経営者らしい誇らしげな様子で50億ドルの大建築を案内しながら、この新社屋の建造は「百年の計」なのだと語ってくれた。

いまわたしは、オープンから7年たった活気溢れる「リング」に再び足を踏み入れている。クックにまた会うためだ。テック業界はいま大きな転換期にある。ここに来たのは、このハイリスクな状況下でクックが下した大きな決断、つまりApple Intelligenceについて訊くためだ。生成AIの分野でアップルがついに見せたこの重要な動きについて、遅過ぎたという声もある。この1年、競合他社のチャットボットはどれも話題を集め、投資家を魅了し、連日ニュースに取り上げられたが、そのあいだ、時価総額世界トップのアップルが発表したのは、ひどく高価でかさばる拡張現実(AR)ヘッドセットだった。アップルはなんとしてもAIを成功させなければならない。建築物と違って、企業が100年ものあいだ誇り高く存在し続けるのは難しいのだ。

クックは焦らなかった。前任者のスティーブ・ジョブズと同じく、クックもいちばん乗りが最善だとは考えていない。先行者たちを尻目に、斬新さと実用性との兼ね合いを見極め、話題でもち切りとなるような、セクシーともいえる製品にして世に送り出す、それが「アップル流」なのだとクックは言う。iPodがデジタル音楽をどのように変えたかを思い出してほしい。iPodは世界最初のMP3プレイヤーではなかったが、そのコンパクトさ、使いやすさ、オンラインストアとの統合は、新しい音楽消費の様式を示し、ユーザーを熱狂させたではないか。

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Photograph: Joe Pugliese

それに、アップルは常に人工知能(AI)革命に備えてきたとクックは主張する。2018年に、彼は異例の上級副社長ポストの拡大を行ない、グーグルのトップAIマネージャー、ジョン・ジャナンドレアを引き抜いた。そして、かねて進行中だったスマートカー開発計画(アップルは公式には認めていないが、公然の秘密だった)を凍結させ、ソフトウェアへのAI導入に社内の機械学習の才能を結集させたのだ。

24年6月にアップルはその成果を披露した。全製品にAIが搭載されると発表したのだ。さらに、チャットボットで圧倒的な支持を得ていたOpenAIと提携して、アップルユーザーがChatGPTを利用できるようにもした。わたしは事前にデモを入手していたが、そこには音声プロンプトで自分だけの絵文字を作成するツールや、簡単に画像を生成できるAI画像ジェネレーターImage Playgroundなどが含まれていた(いまいち使えなかったAIアシスタントのSiriも大幅に改良されたが、わたしはその時点でまだテストできていなかった)。

アップル製AIの最大のセールスポイントは、クック就任後のアップルがアピールするプライバシー保護の強化だろう。少なくともアップルはそう強調している最新のiPhone最近リリースされたMacでは、ソフトウェアアップデートでさまざまなAIツールが実装されるが、その大部分がデバイス内で動作し、データがクラウドに送られることはない。より複雑なAIタスクの処理はアップルのデータセンター内の厳重に保護された領域で行なわれるとクックは保証している。

「リング」を再訪してもうひとつ思い出したことがある。Apple Watchを製品化に導いたことから、シリコンチップの独自開発に踏み切ってiPhoneMacBookの刷新をもたらしたことまで、クックは自分の決断の正しさをアピールするのがとてもうまかった、ということだ(一方で、数十億ドルを投入したスマートカー開発計画のようにポシャった決断については言及を避ける)。きっと、クックはインタビューが行なわれる会議室にふらっと入ってきて、アラバマ仕込みの礼儀正しさを崩すことなく、努めてにこやかに、アップル製品の美点を穏やかに強調しつつ、自らが率いる巨大企業への批判をやんわりとかわすだろう。スティーブ・ジョブズなら、まるで中米ブエナヴェントゥーラ名物の大雨のごとくアグレッシブにまくしたてるところだが、クックは穏やかな霧で相手を包みながら、アップルの努力の成果を感激に満ちた声で語るのだ。

もちろん、最終的な評価を下すのはユーザーだ。だが、40年にわたってアップルを取材してきて学んだことがあるとすれば、それはこういうことだ。もしこのAIの初回バージョンの評判がいまひとつ振るわなかったとしても、そのうちまたクックはビデオ録画の基調講演で、澄ました顔で新バージョンを「過去最高のApple Intelligenceです」と称賛するだろう。どんな逆境にあっても、ティム・クックは絶対にそれをわたしたちに感じさせないのだ。

スティーヴン・レヴィ:これからは生成AIの時代だと思い始めたのはいつですか?

ティム・クック:これというきっかけはありません。波が寄せるように、あるいは雷が近づくように、次第にその思いが高まってきたのです。ニューラルエンジンを製品に組み込んだのは2017年のことです。AIと機械学習が今後極めて重要な意味をもつだろうということはそのころからすでに明らかでした。そうして、AIをたくさんの人に使ってもらいたい、それがアップルの新しい時代の幕開けとなるだろうと確信するようになっていきました。

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Photograph: Joe Pugliese

── AIでこんなものをつくろうというアイデアはどのように浮かんだのですか?

一人ひとりのユーザーに寄り添うものをつくりたい、そのようなかたちで革新を起こしたいというのがわたしたちの望みでした。そのためにはどんなことができるか、さまざまなアイデアを「アップル流」に、つまり、このテクノロジーがどう人々の役に立つか、どのように生活を豊かにできるかという発想で、ひとつのかたちにしていったのです。

── プレゼンテーションを聞くと、Apple IntelligenceとAIはほぼ同義語のように思えます。人々のあいだにAIへの恐怖感はあると思いますか?

あると思います。ネーミングについては、あらゆる名称を検討した結果、Apple Intelligenceに落ち着きました。Artificial Intelligence(人工知能)との語呂合わせをしたわけではありません。いま思うと、とても明快な名前だと思います。

── AIサービスを有料化している企業もありますね。それは検討しましたか?

有料化の話は一度も出ませんでした。マルチタッチ技術が発明されたおかげで、スマートフォン革命やいまのタブレットの開発が可能になりましたが、AIもそれと同じようなものだとわたしたちは考えています。

── ご自身でもApple Intelligenceを使っているとのことですが、何がいちばん便利でしたか?

アップルは電子メールベースの会社で、ユーザーの方や従業員やパートナー企業などから膨大な数のメールが届きます。内容を要約する機能は画期的ですね。それに、やることに優先順位を付けてくれるので、従来行なっていた作業の選別が必要なくなりました。もちろん、Image Playgroundのような楽しい機能もありますよ。

──「Apple Intelligenceであなたがもっとおもしろくなる」と言っていましたね。本当かな、と思うのですが。

Apple Intelligenceがあれば人はますますフレンドリーになれるでしょう。それはいろいろな意味で、おもしろい人にもなれるということではないでしょうか。

── AIが人の代わりに話すようになると、コミュニケーションの質が低下するのではないかと考えてしまいます。もしApple Intelligenceが何かおもしろいものを書いたとして、それは誰がおもしろいということでしょうか? 入力者でしょうか、AIでしょうか?

それはやっぱりその人がおもしろいのです。その人のアイデアや視点があったからこそですから。パーソナルコンピューターの出現でどれほどの生産性がもたらされたか覚えているでしょう? 電卓を叩く代わりにスプレッドシートで作業するようになりました。タイプライターの代わりにワードプロセッサーで文章を書くようになりましたよね。Logic Proはミュージシャンの作曲を支援しますが、その曲が誰のものかといえばミュージシャンのものです。

── デモには架空の新卒者の就職活動というのもありました。志望動機書は日常的な言葉遣いで、ちょっと子どもっぽいところもありましたが、Apple Intelligenceを使うと、ワンクリックで、知識のある聡明な人物が書いたような文面に変わりました。もしわたしが採用担当者でその人を採用したとして、本人が志望動機書から期待した業務の水準に達していなかったら、騙されたと感じるかもしれません。

わたしはそうは思いませんね。ツールを使うことで、その人がより洗練された文章を書けるようになるということですから。ツールを使うかどうかはその人が決めることです。共同作業のようなものです。1+1が2以上になることもありますよね。

── ウェブ検索ができたばかりのころ、もう歴史の年代なんて誰も暗記しなくなると嘆いた人がいました。「検索すればいいんだから」ってね。もう誰も歴史を学ぶ必要がない──いまや、誰がビジネスレターの書き方を知っているでしょうか。

かなり前からそういうことは言われています。電卓ができたころは、電卓のせいで数学の能力が失われてしまうと言われていました。でもそうなりましたか? あるいは作業の効率を上げたのでは?

── 子どものころ割り算の筆算を習ったんですが、もう忘れました。

わたしはまだできますよ。

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── 恐れ入りました(笑)。ところでもうひとつApple Intelligenceで印象に残っているのは、メールやカレンダー、その他さまざまなアップル製品が、ユーザーの情報をすでに無数に収集しているということです。そういったあらゆる情報をつなぎ合わせるからこそApple Intelligenceが便利になるのですが、そこで不可欠なのがプライバシー保護ですね。それができる企業はそうありません。アップルのようなエコシステムがないですから。

アップルのエコシステムの価値がそこにあるとは思っていません。アップルのエコシステムは、人々を助け、生活をよりよくするためのものです。そして、確かにそうなっています。

── 今後、メールやメッセージなどのアップルアプリをほかの企業の製品に開放して、他社のAIシステムでも使用できるようにすることはありますか? その場合、プライバシー保護についてはどうお考えでしょう。

プライバシー保護は常に考慮しています。個人情報を詳細に収集しなければ優れたAIができないとは考えません。Apple Intelligenceの大部分はデバイス上で処理されますが、さらに強力なモデルを必要とするユーザーもいます。ですから、デバイス上と基本的に同じプライバシー保護とセキュリティ機能を備えたプライべート・クラウドコンピューティングも用意しました。目的にふさわしいものができるまで試行錯誤を重ねましたよ。

── なるほど。ところで少し話は変わりますが、アップルではデバイスをさらに強力に効率よく動かすために、独自のシリコンチップを開発しましたね。ここ10年のアップルの成功を語るうえで、そのことは過小評価されているように思えるのですが。

あれこそが計画実現の鍵でした。製品開発にあたってはその基礎となるテクノロジーを手に入れなければならないというのがわたしたちの長年の信念です。スティーブも同じ意見でした。常にそれを成し遂げてきたとは言えないかもしれませんが、わたしたちはそう信じてきましたし、そのためにいくつも長い道のりを越えてきました。

── ですが、テクノロジーのひとつはOpenAIにアウトソーシングしていますね。つまり世界規模の大規模言語モデル(LLM)のことですが、提携を発表したとき、それは暫定的なものに過ぎないような印象を受けました。いずれは独自の強力なLLMを構築する必要があるとお考えですか?

未来のことは何も言えません。OpenAIはパイオニアで先見の明をもっていました。アップルユーザーのなかにはApple Intelligenceが提供しない世界規模の情報へのアクセスを望む方もいることを感じました。それで、効率的にそれを補おうとしたのです。もちろん、使うかどうかの判断は尊重しています。

── ChatGPT導入の前に両者の関係に変化があったのではないかと感じています。当初、アップルはOpenAIの取締役会にオブザーバーを置くという発表でしたが、いまのところまだ取締役会には参加していませんね。またOpenAIの大規模な投資ラウンドに参加するという報道もありましたが、それも実現しませんでした。一方でOpenAIでは主力社員が何人か退職し、FTC(米連邦取引委員会)はAIが力をもち過ぎることがないよう目を光らせています。OpenAIとの関係が悪化したということはありませんか?

そのようなことはまったくありません。それに、わたしたちの経営目標はあちこちの企業に出向いて投資することではありません。他企業に投資したことはめったにありません。するとしても、あくまで例外といえるでしょう。

── では、OpenAIへの投資は考えていなかった?

検討していなかったとは言いません。ただ、実際にそういったことをするケースはそう多くないと言っているだけです。ARMには出資しました。ほかにもあるかと言われれば、ごくわずかですがありますよ。

── ARMへの投資は賢明な判断でしたね。

はい、ARMへの投資は正解でした(1990年、アップルはARMに300万ドルを出資し株式の30%を取得した。時価評価額は数億ドルに上ると見られる。だがそれより重要なのは、ARMは当時もいまもマイクロプロセッサーの大手サプライヤーであり、とりわけそのチップがiPhoneの頭脳として使われているということだ)。

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── OpenAIとアップルの大きく違う点は、OpenAIはAGI(汎用人工知能)の実現を目標に掲げていることです。アップルからはそのような話は聞こえてきません。AGIは実現すると思いますか?

現在のテクノロジーはAGIの実現が十分可能なところまで来ています。生活は大きく変わるでしょう。わたしたちも注目しています。手綱をしっかり握って、これからAGIが人間をどこに導くかを見守ろうと思っています。

── AGIが実現したらアップルにどんな影響があるでしょうか?

それは今後も議論していかなければならない問題です。

── コンピューターの知能が人間を超えたらどうなるだろうかと、夜中にふと思ったりすることはありませんか?

もちろんあります。アップルにとってだけでなく、世界にとってもね。それは人類にとって非常に大きな利益となるでしょう。道を外れないようガードレールを設ける必要があるかといえば、もちろん必要です。何をするか、何をしないか、わたしたちは深く配慮しています。ほかの企業もそうであることを願っています。とはいえ、AGIが実際に実用化されるのは控えめに言ってまだかなり先のことです。そういう状況ですから、どんなガードレールが必要になるかは今後の過程で考えていくことになるでしょう。

── 生成AIを実装すると、必要な電力やデータセンターが大幅に増えてインフラに大きな負担がかかります。これは2030年までにカーボンニュートラルを実現するというアップルの目標にとってさらなる課題となりますか?

確かに課題は増えます。しかし、目標から遠ざかっているかといえば、決してそんなことはありません。データセンターが増えれば、それだけ多くの再生可能エネルギーを使用することになります。アップルはすでにそれができる力を付けています。15年以降、アップルはカーボンフットプリントを半分以下に減らし、なおかつ純売上高は50%以上増加しました。2030年の目標に向けて、とても順調に進んでいると思っています。

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Photograph: Joe Pugliese

── すると、古い原子力発電所の再稼働は必要ないとお考えですか?

それについてはなんとも言えません。

── iPhoneがわたしたちの生活をがらりと変えてしまったことは疑いようがありません。わたしたちはiPhoneに夢中で、片時も目を離せないほどです。メーカーとしては、iPhoneが原因でユーザーの注意力が散漫になるとか、集中力が落ちるといった心配はしていますか? 最近の非公式の調査では、エリート校でも生徒たちの読書離れが問題となっているという結果が出ていますが。

片時も休まず画面をスクロールしているのは考えものですね。iPhoneにスクリーンタイムなどの機能を実装したのもそれが理由で、ユーザーに指針を示すためです。通知の数など、ユーザーが自分で自分を律することができるようサポートしています。ペアレンタルコントロールについてもさまざまな試みをしています。ほかの人の目より電話を見つめているのはよいことではありません。その考えはいつも変わりません。

── スティーブ・ジョブズは「わたしがどんな製品を採用したがっているかではなく、何がベストなのかを考えろ」と指示していましたね。それでも、iPhoneにボタンを付けるのをあんなに嫌がっていたことを思うと、iPhone 16にボタンを付けたことを天に向かって謝りたくなりませんでしたか?

スティーブがどう思うかはわかりません。もちろん、わたしは長い間彼と一緒に仕事をしていましたし、わたしなりの考えもあります。ですが、iPhoneで写真や動画を撮る機会は非常に多いということは事実で、それを踏まえてiPhoneをシンプルでエレガントなものにすることが重要だったのです。カメラコントロールボタンを付けるに値するくらいにね。

── アップル製ウェアラブルディスプレイ、Vision Proについて話しましょう。やや期待外れな売り上げだと言われていますが、いかがですか?

Vision Proは明日のテクノロジーを今日手に入れたいという人のためのアーリーアダプター製品です。そうしたユーザーが購入してくださるおかげでエコシステムが豊かになるのです。わたしたちにとってエコシステムこそが究極のテストです。Vision Proはそれほど普及していないかもしれませんが、わたしはいつも関心を寄せていますし、新しいアプリをチェックしています。

──メタ・プラットフォームズとSnapは常用可能なMR(複合現実)グラスの提供を目指しています。いまは重くてかさばるVision Proも、ゆくゆくはそちらの方向に向かうのでしょうか?

そうですね。フォームファクター(形状や寸法などの物理的規格)に関しては、時間をかけて改良しています。ARは偉大なテクノロジーです。アップルはVision Proの開発とともに、かつてないほど技術の最先端まで前進しました。エレクトロニクス関係では世界最先端のテクノロジーでしょうね。今後それがどこに向かうかを見守っていきたいと考えています。

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──アップルには医療技術関連でも一般消費者向け製品が数多くありますね。生体指標や人工装具に関してはどのような戦略をもっていますか?

はるか未来まで視野を拡げて、そこから過去を振り返れば、アップルの最大の貢献は健康関連の製品だったということになるでしょう。それがわたしの偽らざる気持ちです。きっかけはApple Watchの開発でした。初めは心拍数のモニタリングのような単純なことでしたが、やがて心臓からのシグナルを心電図や心房細動の判定に役立てられることがわかりました。現行機種では睡眠時無呼吸のモニタリングもできます。手首のアラートがなかったら生き延びられなかったであろう人々から、感謝のメッセージをたくさんいただいています。

──AirPods難聴補正機能を加える予定だそうですね。高価な補聴器のメーカーは気が気じゃないと思いますよ。

補聴器と市場で競合するつもりはありません。難聴に悩む人たちにもAirPodsを使ってもらいたいということです。聴覚に問題を抱えながら診断を受けていない方は大勢います。補聴器を恥ずかしいと嫌がる人もいます。AirPodsはその解決策になるでしょう。自分で診断を下すことができるようにもなります。いわば健康の民主化です。

──アップルのデバイスがAIで生体認証データをリアルタイムで分析し始めたら、医師よりもずっと短時間で病気を診断できるかもしれません。そういう実験はしていますか? 医学的に危険な状態になったら警告が出るとか。

それについては今日は何も言いません。ですが研究を続けています。長年のあいだ全力を注いで取り組んでいることです。聴覚障害に対応したデバイスの開発には時間がかかりましたが、ようやく安心して出荷できるレべルのものができました。

──iPhone 16が発表されましたね。このシリーズはいつまで続きますか? いつかiPhone 30が出る日が来るでしょうか。そのうち何かほかのAIデバイスが取って代わるのではないですか?

スマートフォンはこれからもずっと残るでしょう。改良はずっと続きます。最初のiPhoneとiPhone 16を比べてください。まったく別物でしょう?

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──24年に米司法省と19州およびコロンビア特別区が独占禁止法違反でアップルを訴えましたね。アップルを「利己的な独占企業」だと非難した司法次官補もいます。ほかにもいくつかの巨大テック企業が政府に訴訟を起こされていますが、アップルやほかの巨大テック企業に対して、政府だけでなく世間の目も変わったと思いますか?

何かの主張や訴えについて話すなら、どの企業の話をしているかを明確にするべきです。一概には言えません。

──おっしゃる通りです。訴訟はそれぞれ別ですからね。では、アップルに対する訴訟にはどうお答えになりますか?

あの訴えは、わたしたちがしてきたことに対してまったくの見当外れです。ユーザーの方々もそのことはわかっています。わたしたちは常にユーザーの立場に立って、ユーザーや、ユーザーのプライバシーや、ユーザーのセキュリティに最善なことは何かを考え続けています。これが答えです。裁判でもそう主張します。あとは成り行きを見守るだけです。

──自分のレガシーは自分ではなくほかの人たちが決めると語っていました。ではアップルのレガシーについてはどうでしょうか?

それもほかの人たちが決めることです。ですが、アップルは世界を変え、生活を真に改善した偉大な製品の企業として記憶されるとわたしは思います。Apple Storeにアクセスするとき、製品を使うとき、アップルユーザーは日々そのことを実感しています。ノースカロライナ州がハリケーンに襲われたときにも数多くのメッセージを受け取りました。電話回線がダウンしてもSOSを発信したりメッセージを送ったりできることが知れ渡ったのです。わたしたちが何をしているのか、どういう理由でそうしているのか、そのことをどれだけ真剣に考えているか、そういうことが人々の記憶に残ります。それがアップルのレガシーとなるでしょう。

ティム・クック、アップルとAIの未来を語る
PHOTOGRAPH: Joe Pugliese

スティーヴン・レヴィ|Steven Levy
ジャーナリスト、『WIRED』エディター・アット・ラージ。30年以上にわたってテクノロジーに関する記事を執筆しており、1993年の創刊時から『WIRED』に寄稿している。著書に『ハッカーズ』『暗号化』『人工生命』『マッキントッシュ物語』『グーグル ネット覇者の真実』など多数。

(Originally published on wired.com, translated by Eiju Tsujimura, edited by Michiaki Matsushima)

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