「数字が苦手」だったメルカリのデータアナリストが教える、データ分析の第一歩
Web担当者にとって、データは宝の山だ。データ活用を進めたいが、何からはじめたらいいのかわからない、数字に苦手意識があるという方も多いのでは?「Web担当者Forum ミーティング2023 秋」のセッションでは、株式会社メルカリの諏訪ひと美氏が登壇し、データや数字に苦手意識がある方に向けて、データ分析のはじめの一歩を紹介した。
大学の文系学部を卒業した諏訪氏。「数字が苦手」から「数字を武器に」変えるまで
諏訪氏は大学の文系学部を卒業し、SEOコンサルティングやデータ活用支援事業のマーケティングに従事した後、現在はメルカリでデータアナリストとして働いている。新卒の頃は、数字に苦手意識があり、担当していたWebサイトの月間訪問者数も即答できなかったと言う。「Google アナリティクスを見てはいても、何を見ても右から左に流れていってしまう状況でした」と振り返る。
現在は数字を武器にメルカリのデータアナリストとして活躍する諏訪氏。自身の体験に基づいて、「数字が苦手」とはどういう構造で起こるのかと、どのように変えていけるのかを紹介していった。
まずは、「数字が苦手」の構造を説明するため、諏訪氏は以下のとあるECサイトの直近半年の売上推移のグラフを示し、このグラフを見て最初に何を考えるかを質問した。
新卒の私なら『9月がちょっと増えているな』『なぜ10月は前の水準に戻ったのか』など、グラフを漠然と眺めているだけでした(諏訪氏)
「数字が苦手」になる負のループ構造
実体験をもとに、「数字が苦手」になる構造を図式化したのが以下だ。
まず、「数字を流し読みしている。流し読みしているので、数字の実体がつかめない。実体がつかめないので、数字をみて考える習慣がない」と自身の経験を振り返る。それぞれどういうことか、説明していこう。
数字を流し読みしている:数字が並んでいると圧倒されて、数字を読まずにわかったふりをする。そのため、数字が頭の中に定着しない。なんとなく増えたか、減ったかだけに着目し、その数字がいくらなのかは見て見ぬふりをしている。
数字の実体がつかめない:数字を流し読みしていると、その数字が表している実態・規模感をつかめない。諏訪氏は「数万でも数十万でも、数百万でも、ある意味関係なく、ただそこに数字があると片付けてしまっていた」と自身の経験を振り返る。「ただ数字がある」という状態なので、数字に馴染むことができない。
数字を見て考える習慣がない:数字の実体がつかめないため、数字を活用して行動につなげることができない。数字を毎日見る必要性を感じられず、毎日見る習慣も身につかない。
以前は、SEOコンサルタントだったので、お客様のサイトを毎日見ていました。上司からは『変化に気づいたら改善していこう』と言われていたが、数字を見ても何をしたらよいかわからないので、恥ずかしながら数字を見る習慣がない時期もあった(諏訪氏)
この負のループが回り、「数字が苦手」が強化され、お客様のWebサイトの状況を聞かれても即答できないという状況に陥っていたという。諏訪氏は、過去の自分に教えたいこととして、「数字が苦手」の負のループを断ち切り、数字を活用して行動につなげる「正のループ」を作っていくことをあげた。
「数字が苦手」を断ち切る、正のループの作り方
諏訪氏は正のループの作り方を次の図で示した。以下の3ステップだ。
- 理解できる言葉にする習慣をつける
- 身近なものに置き換えて親しみを持つ
- 数字を活用して行動につなげる
それぞれのステップを詳しくみていこう。
①理解できる言葉にする習慣をつける
「いつ、何が、いくらだった」というように、数字を文章にすることで、数字の意味を捉えていくことだ。具体的には、「2023年10月の売り上げは100万円だった」と、グラフの棒や、線グラフの点が表す数字を言葉にしてみよう。負のループの「数字を流し読みしてしまう」に対して効果的だという。
②身近なものに置き換えて親しみを持つ
たとえば、売上の数字であれば、その数字は自分の貯蓄額の何倍かなど、数字を身近な数字に置き換えて考えてみると、規模感の実感がつめるようになるという。親しみを持つとはどういうことだろうか。
数字が苦手でも、自分の体重や、天気予報の気温に対して苦手意識を抱く方はいないと思います。なので、そのくらいまで数字に親しみが持てるようになることを目標にしてみてください(諏訪氏)
③数字を活用して行動につなげる
数字を理解できたり、親しみを持てたりするようになると、おのずと数字をみて考える習慣がついてくる。
健康のために体重を調整したいという目的があると、毎日体重を見て、増加気味であれば食事や運動習慣を見直すという行動に活かすことができます。同様に、Webサイトの数字を定期的に見て、行動につなげることを目指していけるとよいと思います(諏訪氏)
まずは数字を読みあげることから始めてほしいと、諏訪氏は言う。冒頭のとあるECサイトの例で言うと、「2023年10月の売上は100万円、2023年9月の売上はもう少し多くて120万円」といったイメージだ。
この正のループが作れるようになると、データ分析に必要な「計数感覚」が身につくようになるという。計数感覚とは、数字の変化を察知し、その裏で何が起きているのか、要因は何かを推測する力だ。計数感覚が身につくと、「データ分析に効いてくる」という。
データ分析の第一歩:「基礎分析」と「目的別分析」
「数字が苦手」の改善方法に続いて、諏訪氏はデータ分析の第一歩について話を進めた。数字の意味がつかめるようになって、いざデータ分析をしようとすると、何から始めたらいいかわからないという課題に直面した方は多いのではないだろうか。
データ分析のステップは「基礎分析」と「目的別分析」の2つだ。
- 基礎分析:代表的な指標を考えて、その指標の値を見て、比較するという3ステップだ。
- 目的別分析:分析の目的を考え、分析の目的に沿った指標と比較方法を考え、比較を行う。
基礎分析の最初のステップは「代表的な指標を考える」だ。指標とは、「数字として計測するもの」を指す。指標を知ることがなぜ大事なのか。なぜなら、数字には必ず何を測定しているのかを表すラベル(指標)があるからだ。たとえば、身長、体重、気温などがそのラベル(指標)である。
「何から始めたらいいかわからない」は、言い換えると「何の指標をみたらいいかわからない」状態だと言える。データ分析は、「実体をよく表している指標は何か」を知ることから始めるべきだと、諏訪氏。ここで、Webサイトの代表的な指標で考えてみよう。
- 集客状況を知りたい:ユーザー数やセッション数
- ユーザーがWebサイトをどのくらい回遊しているのかを知りたい:回遊率やユーザー数、PV数
- Webサイトがどれだけお金を稼いでいるのかを知りたい:売上やコンバージョン数
続いて、タイプ別に代表的な指標を紹介していった。
基礎分析
諏訪氏は5つのサイトタイプごとに、代表的な指標を紹介していった。
代表的な指標を考える5つのWebサイトタイプの代表的な指標を紹介
全サイト共通
どのような目的のサイトでも、集客がなければ成り立たない。集客を測る指標として重要なのが、ユーザー数とセッション数だ。
- ユーザー数:何人のユーザーがWebサイトを訪問したか(1人が複数回訪問しても1カウント)
- セッション数:ユーザーが何回Webサイトを訪問したか(1人が複数回訪問した場合、その分をカウント)
ECサイト
買ってもらうことを目的とするECサイトは、売上を中心に見る。
- 売上:どれくらい売上が上がったか(金額)
- CV数(コンバージョン数):どれくらい販売件数があったか
他にも1人当たりの売上単価や、1人当たりの購入個数といった内訳も指標としてみていけるといいと思います(諏訪氏)
メディアサイト
広告収益を主とするメディアサイトは、回遊して読まれることが重要になる。広告で収益を上げている場合は、売上も代表的な指標となるだろう。
- PV数(ページビュー数):何ページ見られたか
- 売上:どれくらい売上が上がったか(金額)
ブランド・コーポレーションサイト
コーポレートサイトやブランドサイトには、自社や自社ブランドを知りたいという人が訪れる。指名キーワードで表示したいページが1位になっているかを確認する必要がある。
- 指名キーワードの検索順位
データベースサイト(求人、不動産、旅行などのマッチングサイト)
データベースサイトとは、求人や不動産、旅行など多くの案件を載せてユーザーとマッチングさせるサイトのことだ。
- 掲載課金でマネタイズしている場合:PV数(サイトの集客・回遊率が重要)
- 成約課金の場合:CV数(申込件数がどれくらいあるかが重要)
代表的な指標の値を見る理解できる言葉にして読み上げる
「基礎分析」の第一ステップの「代表的な指標を考える」ができたら、次のステップは「代表的な指標の値を見る」だ。たとえば、以下の図のようなデータがあった場合、先ほど紹介した「正のループ」に則り、「2023年10月の売り上げは100万円、9月は120万円」という風に、理解できる言葉にして数字を読み上げれば、「指標を見る」のステップはクリアとなる。
比較してみる Webサイトの代表的な3つの比較方法とは?
データ分析の基礎分析の最後のステップは「比較をしてみる」だ。「分析の基本は比較」だと諏訪氏は言う。なぜなら、比較を通してでしか、その値の良し悪しを判断できないからだ。Webサイトの代表的な比較方法は、次の3つだ。それぞれ、詳しく解説していこう。
- 時系列比較
- ベンチマークとの比較
- グループ間の比較
①時系列比較
昨年同時期や、昨月の値と比較をしたり、年・月・時間ごとの推移を見たりする。トレンドが把握できるほか、何か急減したり、急増したりするなど異常なことが起きていないかを確認できる(例:アルゴリズムアップデートの影響など)。
たとえば、売上を時系列で比較した場合、9月までは昨年とほぼ同水準で推移しているが、10月は昨年より増えていることがわかります。昨年と比べることで、『もしかしたらトレンドかも。今年の10月が悪いわけではないかも』といったことが見えてきます(諏訪氏)
②ベンチマークとの比較
現状の値を、目標や基準としている数値、競合の値と比較をする。この比較でわかることは、ギャップだ。目標に対してどれぐらいビハインドしているのか、オーバーしているのかといったギャップや、ベンチマークに対してどの程度追いついているのかが確認できる。
このグラフの場合、8月だけ目標に対して未達でした。たとえば、その月だけ何らかの事情でキャンペーンがなかった場合には、『もしかしたら、それが要因かも』といった仮説が立てられると思います(諏訪氏)
③グループ間の比較
「流入チャネル」ごとなど、ある軸で切ったグループ間で値を比較する。この比較では、どのグループが優れているかが確認できる。たとえば、流入チャネルを軸とした場合、自然検索・SNS・ダイレクトなどでグループ分けをし、それぞれのセッション数がどれくらいかを比較する。これにより、どのグループがより優れているのか、パフォーマンスが悪いのかが確認できる。
上記の例では、ページごとに売上を見ていった場合を示しています。8月だけキャンペーンからの売上が減っているため、『キャンペーンのせいかも』といった仮説が立てられます(諏訪氏)
目的別分析:Web担当者のデータ分析の目的は5つに分けられる
基礎的な分析方法がわかると、次は「そもそも何を比較したらいいか、わからない」「比較をした結果をどう読み解けばいいか、わからない」「結果をどのように次に繋げたらいいか、わからない」といった疑問が浮かんでくるのではないだろうか。これら疑問の解決につながる「目的別分析」を解説していった。
「目的別分析」の流れは、「分析の目的を考える」「指標と比較方法を考える」「比較をしてみる」の3ステップだ。
分析の目的を考える
はじめのステップは「分析の目的を考える」だが、なぜ目的を考える必要があるのか? その理由は2つあるという。一つ目は、ビジネスに役立てるためだ。データ分析をビジネスに役立てるには、ビジネスにおける目的に合わせて分析をする必要がある。
二つ目は、有限な時間の中で有効な分析を行うためだ。指標や比較方法の組み合わせは数多くある。目的からどのような分析が必要かを逆算して、分析方法を絞ることで、効率的に分析ができるからだ。諏訪氏はこれまでの経験から、Web担当者がデータを使ってやりたいと思うことは、主に次の5つではないかと話す。
- 変化の要因を知りたい
- 目標を立てたい
- 施策を作りたい
- 施策の効果を予測したい
- 実施した施策の効果を知りたい
指標と比較方法を考える
比較してみる
目的→分析→次のアクションの検討まで、目的別分析の流れを事例で紹介
この中から「①変化の要因を知りたい」と「⑤実施した施策の効果を知りたい」について、具体的に目的から分析、次のアクションを検討する流れを事例で紹介していった。
①変化の要因を知りたい
事例:コーポレートサイトの基礎分析において、時系列での比較を行ったところ、先月のセッション数が昨年対比20%も減っていることがわかった。
- 分析の目的:昨年対比でセッション数が20%減少した理由を知りたい
- 指標:セッション数
- 比較方法:グループ間の比較
Webサイトの中で、どのページが減少しているのかを確認する。さらにそのページの流入チャネルを見て、どのチャネルからのセッション数が減少しているのかを確認する。減少しているチャネルが特定できたら、チャネルの内訳をさらに細分化していく。以下の図が、分析結果の例だ。
結果:
ページごとに比較をした結果、トップページへのセッション数が大幅に減っていた。さらにトップページの流入チャネルのうち、自然検索からのセッション数が減っていることがわかった。そこで、自然検索の中で、お客様がどのようなキーワードから流入しているかを確認した結果、指名キーワードの順位が昨年と比べると下がっているということがわかった。その要因を確認したところ、指名キーワードで上位に表示されていたページは、あまり使っていない別ドメインのページで、そちらにセッションを取られていたことが判明した。次のアクション:
あまり使っていない別ドメインを、メインのドメインと統合することを検討する。
⑤実施した施策の効果を知りたい
事例:ECサイトでの基礎分析の結果、コンバージョン数が最も多いランディングページは商品詳細ページだとわかった。商品詳細ページをもっと強化していきたい。
- 分析の目的:
商品詳細ページに「初回購入で5%オフクーポン」を表示させた場合の効果を調べる。
方法:
A/Bテストツールを使い、無作為にそのユーザーを2グループに振り分ける。Aグループが見るページは、クーポンの表示はなし。Bグループには表示といった形でA/Bテストを実施した。指標:
コンバージョン率(サイト訪問者のうち何人が購入したか)
グループAとBに対して、同じ人数が振り分けられるわけではないため、コンバージョン数で見るのは不適切だ。割合であるコンバージョン率を見ることで、人数の違いを相殺できる。結果:
コンバージョン率を比較した結果、クーポンを表示させたBグループが統計的に有意に高かったという結果が得られた。次のアクション:
全ユーザーにクーポンを表示させる。
紹介した流れで、分析の目的から結果を整理していけるとよいかなと思います。以下に、分析に目的から結果を整理するフォーマットを用意したので、このフォーマットを活用して、分析の第一歩を踏み出していただけるとうれしいです(諏訪氏)
データ分析についてもっと学びたい人におすすめのWeb担の記事と書籍
諏訪氏は本セッションのまとめとして、伝えたい3つのことをあげた。
- 数字の「いつ、何の指標がどれくらい」を言葉にして、なじみのある数字に置き換えてみよう!
- 分析したい対象・テーマの代表的な指標とその値を知ろう!
- 時系列比較やベンチマークとの比較、グループ間の比較をしてみよう!
最後にもっとデータ分析を学びたい方に向けて、Web担のおすすめの記事と書籍を紹介し、セッションを終了した。
Web担のおすすめの記事
1つ目の記事は、指標について触れられていておすすめです。2つ目は、ベンチマークの指標として、標準の値が書かれていて参考になるので、ぜひ読んでみてください(諏訪氏)
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