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ガザ停戦、アブラハム合意交渉再開へ

2024年12月19日   田中 宇

ドナルド・トランプの米大統領就任までにイスラエルがハマスと交渉してガザ戦争を停戦し、停戦をアブラハム合意の条件にしているサウジアラビアが米イスラエルの努力を認め、トランプ政権の開始ととともに米仲裁のサウジとイスラエルの和解(アブラハム合意)への交渉が再開する・・・。事態は、そんな話になっている。
Gaza hostage deal can be reached within a month, sources tell 'Post'

ハマスの幹部は12月18日、イスラエルとのガザ戦争の停戦合意はすでに骨格部分が決まり、今週末までに署名できると述べた。停戦は何段階かになっていて、締結から45-60日間の第一段階は、ハマスが捉えていた30人の人質(死亡した人質の遺体を含む)をイスラエルに返還する。イスラエルはパレスチナ政治犯を釈放する。
イスラエル軍(IDF)は、ガザ市街から2つの回廊(ガザの北部と南部を分断するネツァリム回廊と、ガザ南部とエジプトを分断するフィラデルファイ回廊)の基地に撤退する。女性と子供は、ガザ北部への帰還を許される。
'Imminent': Hostage deal could be signed by end of week, Hamas official says

ガザ停戦は、米国が絡んだ世界中の戦争を終わらせていくトランプの公約の具現化に、イスラエルが協力するものだ。
ガザ停戦は同時に、サウジアラビアがトランプの仲裁を受けてイスラエルと和解するための条件(の一つ?)にもなっている。サウジ高官は最近、ガザが停戦しない限りイスラエルと和解できないと言っている。
これが「ガザが停戦したらイスラエルと和解できる」という話なのか、それとも「ガザが停戦し、加えて、西岸のPAがパレスチナ国家として機能できるようイスラエルが采配すれば、和解できる」という話なのかは不明だ。後者なら永遠に具現化せず、状況は以前と同じだ。前者なら「トランプが就任したとたんにすべてが解決した」という「おとぎ話の実現」になる。
(人類が見せられる仮想現実の作成者が、諜報界の英国系からリクード系にすり替わった結果だ)
Saudi Arabia, Israel peace will only happen if Gaza war ends, sources tell 'Post'

サウジ王政は以前から、パレスチナ国家の設立を、イスラエルとの和解(アブラハム合意)の最大の条件にしてきた。だが、その条件のあり方は最近、イスラエルが軍事的・米国支配的に強くなっていく中で、しだいにイスラエルにとって甘いものに変質している。
従来(というより昔)の常識で言うと、パレスチナ国家とは、東エルサレムを首都として、ヨルダン川西岸とガザの、1967年の境界線の内側全体が領土だった。だがイスラエルのパレスチナ拒否により、西岸にユダヤ人入植地が作られて領土が蚕食され、首都も東エルサレムの郊外(アブディス村)しかダメだとイスラエルが言い出した。
West Bank Annexation 'Of Course' A Possibility, Says Trump's Israel Envoy Pick Huckabee

1期目のトランプは2020年に提案したアブラハム合意で、イスラエルが望む通りの矮小化されたパレスチナ国家を提案した。UAEはパレスチナ国家にこだわらず、2020年8月にイスラエルと国交を正常化した。翌月にはバーレーンやモロッコもイスラエルと国交を結んだ。
だが、アラブの盟主であるサウジだけは、パレスチナ国家の設立にこだわり、イスラエルと国交正常化しなかった。サウジは、アラブの子分たちであるUAEなどにイスラエルと和解させ、自国もイスラエルと非公式な関係改善を進めつつも、パレスチナ国家の設立をイスラエルに加圧するため、国交を結ばなかった。
アブラハム合意の第一弾の動きは、2020年秋の米選挙でトランプが(不正に)落選させられて終わった。後継のバイデンは、目標としてアブラハム合意の推進を掲げたが、実際は何もしなかった。
‘They came and demolished everything’: Palestinians fear more evictions in the West Bank under Trump

(バイデンの米民主党は、諜報界英国系なので反リクードで、ネタニヤフの転覆を狙って政敵たちを支援し続け、何も進まなかった。米諜報界のリクード系や隠れ多極派が2020年選挙で民主党の不正な勝利を黙認したのは、民主党や英国系をウクライナ戦争にはめ込んで自滅させ、英国系と欧米リベラルエリート支配の体制を壊すためだったと考えられる。トランプが2020年選挙で再選されていたら、プーチンと和解してしまい、米諜報が頑張ってもウクライナ開戦できなかったからだ)
イスラエルUAE外交樹立:中東和解の現実路線

サウジとイスラエルは、非公式に良好な関係を維持してきた。これを正式な外交関係にしたいと考えていたのはイスラエルの方だ。イスラエルは、サウジとの国交樹立により、孤立が緩和し、中東全域での権威が上がる。
サウジは、自分たちがイスラエルを加圧し続ければ、いずれパレスチナ国家の設立に同意するだろうと考えたが、その後の事態は逆方向に進んだ。
イスラエルは、サウジとの国交正常化よりも、英米覇権から強要されてきた「パレスチナのくびき」から脱することを優先し、パレスチナ抹消を進めている。
Sacking Gallant and preparing for Trump

イスラエルとサウジの和解は、イランの脅威に対抗するためと言われていたが、最近のイスラエルは、ヒズボラやアサドなど、イスラエルの脅威だったイラン系の勢力を次々と滅ぼし、次はトランプの米軍と一緒にイランの核施設を空爆するぞ、と息巻いている。
今ではサウジの方が、中東最強の勢力になったイスラエルとの和解を望んでいるのでないか。
Israel informs Trump it could attack Iran

なぜイスラエルは急に強くなれたのか。2020-23年にかけて、覇権を動かしてきた米諜報界の英国系(リベラル派)がウクライナ戦争や大リセットをやらされて自滅させられ、敵がいなくなったリクード系(イスラエル)が諜報界で強くなった。リクード系と結合したトランプが復権する流れが始まり、2023年秋、パレスチナ抹消の皮切りとしてガザ戦争を始めた。
そして最近、諜報界やトランプを牛耳る強さを活用して、ヒズボラやアサドを次々と潰し、中東最強の勢力にのし上がった。
‘The time is now!’ Smotrich calls for total Israeli seizure and control of Gaza Strip and West Bank

(余談だが、欧米に大リセットを強要したWEFは結局のところ、リベラルの総本山みたいな顔をしつつ、実はリクード系や多極派の別働隊だったことになる)
人類を怒らせるための大リセット

イスラエルはパレスチナ国家を具現化しないどころか消している。サウジの加圧など全く無意味だ。イスラエルは軍事力で中東の諸敵をなぎ倒し、力の政治に弱い中東の諸勢力は、イスラエルへの対抗力を失っている。
イスラエルが進めるパレスチナ抹消は黙認されている。パレスチナ国家にこだわってイスラエルを非難する欧米リベラルは、トランプ再選後に弱体化が加速している。
Middle East 'mega-deal': Trump envoy Witkoff meets MBS in Saudi visit

サウジ王政は現実主義だ。アラブの子分たちであるUAE、モロッコ、エジプト、ヨルダンなどは、すでにパレスチナの大義を無視してイスラエルと仲良くしている。
パレスチナの消滅を現実として受け入れざるを得ない中で、サウジは今後、2020年のUAEと同様、イスラエルが西岸併合を宣言しないことを最低限の条件として、イスラエルと国交正常化していくのでないか。
トランプは、大統領就任後にサウジとイスラエルの和解を推進できるよう、準備を進めているように見える。トランプはイスラエルに対し、ガザを停戦せよ、西岸併合の宣言を延期せよ、と言っている。ガザ停戦と西岸併合宣言延期だけで、サウジがイスラエルとの和解を了承する可能性がある。
Annexation in the West Bank? 'Not now,' Trump signals
Trump told Netanyahu to end Gaza war, TIME 'Person of the Year' interview reveals

前回記事に書いたように、トランプの特使マサド・ボウロスは、サウジ王政と協議し、イスラエルが努力目標としてパレスチナ国家の設立を建前的に掲げるだけ(西岸併合宣言の延期とほぼ同義)で、イスラエルと和解することに筋道をつけている(ように見える)。
今後のシリアとイスラエル

これまでパレスチナ国家の設立を支持してきたイスラエル国内の労働党系の勢力(欧米各国の左派リベラル政党と同様、諜報界の英国系)は近年、急激に弱体化している。
強大化したリクード系のネタニヤフ政権は、パレスチナ支持の国内左派言論を全く許さなくなり、露骨な弾圧を開始している。
ネタニヤフは11月末、イスラエル左派の新聞ハアレツのパレスチナ支持・ネタニヤフ非難の社説記事を「違法な利敵行為」とみなし、イスラエル政府の全機関に対し、ハアレツの取材に協力することを禁止した。
Israeli government sanctions Haaretz, severs all ties

イスラエルは「報道の自由」を捨てた・・・。いや、実のところ、世界的に何年か前から、報道の自由や人道主義を掲げて動いているマスコミやジャーナリズムは、諸分野で稚拙な歪曲やウソばかり報道するようになり、捨てられて当然の存在になっている。
(諜報界の英国系であるマスコミを歪曲させて自滅させたのはリクード系の謀略っぽい)
ニセ現実だらけになった世界



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