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厚顔無恥なイスラエルの成功

2024年11月2日   田中 宇

イスラエルは、ガザでの虐殺と、レバノンでのヒズボラ潰しの両方が仕上げの段階に入っている。イスラエルはガザ北部で、本当の市民はすでに全員南部に避難したはずだと考え、北部に残っている市民をハマス要員とみなし、無差別な殺害を開始している。ガザ北部の人々を全員殺し、建物を瓦礫の山にした後、ユダヤ人入植地に転換する計画も始まっている。パレスチナとしてのガザ北部は抹消されつつある。
イスラエルは、国連のパレスチナ支援機関であるUNRWAを親ハマスとみなし、パレスチナ(ガザと西岸)での活動を正式に禁止した。イスラエルはパレスチナを抹消していく計画だから、UNRWAも不必要だと考えている。
Entire northern Gaza population at risk of dying
For 75 years, UNRWA has sought to undermine Israel, perpetuate conflict

ガザは外部から閉鎖されており、UNRWAなど支援機関による物資の搬入がないと市民は生きられない。イスラエルは今年初めから、ガザでの支援機関の活動をほとんど許可していない。もともと220万人いたガザ市民の大半は、食糧がほとんどないのに、餓死や殺害の報道もない。
イスラエルは、ガザ市民をエジプトに追い出すことを望んできたので、エジプトから管理権を奪った国境線(フィラデルフィ回廊)にガザ市民が出ていける抜け穴を非公式に作り、大半の市民をエジプト(シナイ半島)に流入させたのだろうと、私は昨年から推測してきた。
この推測は、イスラエルがUNRWAを禁止しても大量餓死が報じられていないこととも合致する。ガザ南部も抹消されつつある。ハマスの指導者は、ハニヤもシンワルも殺された。
西岸は、あまり情報が出てこないので事態の変化が不透明だが、ガザを抹消するイスラエルは、西岸の抹消(パレスチナ人のヨルダンへの追放)も進めるだろう。イスラエルは、英米覇権が設定したパレスチナ分割という拘束・妨害策を、暴力的なやり方で壊していく。
イスラエルの虐殺戦略
ガザの次は西岸潰し

イスラエルはヨルダンで、ヒズボラ潰しを展開している。この10年あまりのシリア内戦の期間中、ヒズボラはシリアのアサド政権を守る重要な役割を果たしており、イランがイラク経由でシリアに兵器類を注入し、ヒズボラはその兵器を使っていた。
強くなったヒズボラは、シリア内戦が下火になるとともに、昔からの仇敵であるイスラエルを標的にする傾向を強めた。
イスラエルは米国と戦略協調してきた。米国は、涵養したISアルカイダを動かしてシリア内戦を誘発したが、イランがイラク経由でシリア政府軍やヒズボラを軍事支援することをおおむね黙認した。イラクを支配してきた米国は、この支援・兵器類の移動を阻止できたはずなのに怠っていた。
シリア内戦の再燃?
ヒズボラやイランの負け

米国は(親イスラエルのふりをした反イスラエルなので)ヒズボラの強化を黙認し、隠然とイスラエルに脅威を与えていた。イスラエルは、米国の戦略に沿っている限り、これから米国の覇権が衰退する中で、強大化するヒズボラとの対決を強いられる。これは自滅だ。
そのためイスラエルは今回、米国との戦略協調を(事実上)振りほどき、米国から兵器や資金や諜報だけふんだくり、独自の安保戦略に沿ってヒズボラを徹底攻撃してかなり無力化した。
ヒズボラが無力化された後、米欧などがテコ入れするレバノン政府は、イスラエルと交渉して停戦しようとしている。レバノン政府は、数日内に停戦できるかも、と言っている。停戦は、イスラエルによるヒズボラ無力化が一段落したことを示す。
Israel-Hezbollah Ceasefire Possible Within 'Days': Lebanese PM
イスラエルのレバノン攻撃し放題

イスラエルはヒズボラの無力化に加え、イランがシリア経由でヒズボラに軍事支援してきた動きも止めようとしている。
イスラエルは、イランやヒズボラがシリア国内に持っている兵器庫などの位置を徹底調査(米諜報を入手)し、空爆して破壊した。そしてイスラエルはシリア(アサド政権)に対し、イランがヒズボラに兵器を流す動きに加担し続けるなら、ヒズボラを猛攻撃したようにシリアも猛攻撃して瓦礫の山にしてやると脅した。
アサドは、自国を壊されるのを避けることを優先し、イスラエルの脅しに従ったようだ。イスラエルはシリアに対し、ヒズボラやイラン系の拠点を破壊することを大幅に超える攻撃をしていない。
Israel Threatens Syria's Bashar al-Assad: You Might Be Next
GEOINT Data Shows Israel Hit Iran's Former Nuke Weapons Test Building, Missile Production Facility

イスラエルはイランに対しても同様に、ヒズボラを建て直す努力を本格化するなら、報復としてイスラエルがイラン本土を徹底攻撃するぞと脅し続けた。
イスラエルとイランは、今年4月と10月に、相互に報復攻撃の応酬を繰り返す展開をやった。これらの時に、イスラエルはイランに対し、徹底的な敵対を続けるか(その場合イスラエルはイランを猛攻撃する)、イスラエルの存在を黙認して冷たい和平の関係になるかという二者択一を、非公式関係の中で提案したと推測される。
イランは、イスラエルと冷たい和平の関係になることを望んだ。その結果、2回とも、報復攻撃の応酬は2往復程度で下火になった。
Is the ‘axis of resistance’ to Israel cracking?
No Foreign Warplanes Have Entered The Skies Over Tehran

イスラエルは、パレスチナ抹消を進め、ヒズボラを無力化し、シリアやイランと冷たい和平の関係を非公式に結んだ。今後、これらの関係性について、ヒズボラの復活などの揺れ返しがあるかもしれないが、長期的には、いずれも達成・維持されると予測される。
Israel seeking peace deals with Arab countries - Netanyahu
イランとイスラエルの冷たい和平

昨秋のガザ開戦からの1年間で、イスラエルにとっての脅威はかなり減った。イスラエルは、市街破壊の人道犯罪や虐殺を公然と続け、国際社会からの批判を無視し、国連を敵視する厚顔無恥を重ねつつも、自国に対する脅威を減らし、安全保障の面で成功している。
イスラエルは、サウジやUAE、エジプトなどアラブ諸国と公式・非公式な和平関係を維持している。アラブ諸国は、アラブ人の一部であるパレスチナ人を虐殺され、世界から支持されてきたパレスチナ国家を抹消されているのに、イスラエルとの和平を維持している。アラブは、口でイスラエルを非難するだけだ。トルコも同様。
Israeli War Crimes Documented by the Israeli Defense Forces
こっそりイスラエルを助けるアラブやトルコ

ロシアが議長国を務めて先日開かれたBRICSサミットは、共同声明にイスラエル非難を盛り込んだ。だがBRICSも、口だけ、表向きだけだ。BRICS加盟諸国の中で、最も反イスラエルなのはイラン、最も親イスラエルなのは反イスラムなヒンドゥ主義の印度だ。イランがイスラエルと冷たい和平関係なのだから、他の諸国の反イスラエルはそれ以下だ。ロシアは親イスラエル、中国は中立表明だ。
Why Do False Perceptions About Russian Policy Towards Israel Continue To Proliferate?
イランの失敗

アラブやイスラムを中心に非米側諸国の多くは、パレスチナ国家創設・2国式パレスチナ問題解決を支持しており、パレスチナ国家が安定的に完成しないとイスラエルと和解しないと言っている。イスラエルはパレスチナを抹消しつつあり、パレスチナ国家の完成はもう不可能だ。
エジプト、ヨルダン、UAEといった、すでにイスラエルと正式な国交を結んでいるアラブ諸国は、パレスチナが抹消されてもイスラエルとの外交を維持している。だが、他のアラブ諸国やイランやトルコは、イスラエルと国交を結べない。
Netanyahu rows with Macron over creation of Israel

イスラエルは、中東諸国との非公式な和平・冷たい和平を、公式な和平に転換できない。軍事的な安保が改善しても、政治的な安保を改善できない。ダメじゃん。
そうなのか??。イスラエルは、公式な和平にならなくても、ずっと冷たい和平・非公式な和平で良いと考えているのでないか?。
もともとユダヤ人が持つ力量は、非公然のネットワーク、秘密の諜報力、隠然関係などに依拠してきた。ユダヤのパワーは非公式だ。イスラエルという国家は公式な存在だが、イスラエルと他の諸国・世界との関係は非公式なものが中心でかまわない。
冷たい和平、非公式な和平でかまわないなら、すでにイスラエルの国際関係は必要十分なものになっている。
パレスチナ国家(分割案)の発案者はアラブでなく英米だ。アラブ人は現実的だから、英米覇権が崩壊し、パレスチナ国家も抹消されてしばらくしたら、パレスチナ問題を盾にイスラエルとの和解を拒否する姿勢自体を忘れていくだろう。
ずっと続くガザ戦争



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