能登半島地震 42の工事で「入札不調」 復興遅れる懸念

能登半島地震から1年と1か月が経過し復興が急がれる中、被災地で行われる復興関連の公共工事で入札が成立しない「入札不調」が、少なくとも42の工事で起きていたことがわかりました。復興に向けた工事は今後本格化する見通しで、影響が懸念されます。

能登半島地震の復興に関係する公共工事の進捗(しんちょく)状況について、NHKは国土交通省と石川県、それに奥能登地域の4つの市と町に取材しました。

その結果、参加する業者がいなかったり入札価格が予定価格を上回ったりして入札が成立しない「入札不調」が、1月30日の時点で少なくとも42の工事で起きていて、このうち21の工事ではいまも施工業者が決まっていませんでした。

その1つ、石川県珠洲市の「みさき保育園」は、地震で建物のドアや壁などが壊れる被害が出たため1年余り休園が続いています。

現在は14人の園児が8キロほど離れた市の中心部にある保育園に通っていますが、保護者や地域の住民などからは、「みさき保育園」のできるだけ早い再開を求める声が出ているということです。

保育園の再開に向けて珠洲市は、修繕工事の入札手続きを去年の11月と12月に2回行ったものの「入札不調」が起き、施工業者は決まっていません。30日の時点でも、3回目の入札の予定のめどは立っていないということです。

市は4月の保育園の再開を目指していましたが、再開の時期は遅れる見通しだとしています。

「みさき保育園」の新川智子園長は、「子どもたちがこの保育園で元気に遊んでくれるのを地域の人たちも待っているので早く工事が進んでほしいです」と話していました。

珠洲市環境建設課の大宮準司課長は「入札不調が相次ぐことで工事の遅れにつながり、最終的には復興が進まないことで人口の流出につながると認識している。珠洲市としては必要性をよく考慮し、優先順位をつけて工事計画を作っていきたい」と話しています。

施行業者が決まっていない21の工事は

21の工事は再入札などの結果、施工業者が決まっていましたが、一方の21の工事はいまも業者が決まっておらず、中には「入札不調」が繰り返し起きたケースもあるということです。

業者が決まっていない21の工事の中には珠洲市の保育園の修繕のほか、主要な幹線道路である「のと里山海道」の道路の復旧などの工事があり、工事の完了時期が遅れるなどの影響が出ています。

被災地では、地震による被災で技術者が退職し受注できる工事の数が減少した業者が出ているほか、金沢市などから離れていて人手の確保や資材の運搬が難しいという声が多く聞かれます。

こうしたことが「入札不調」につながっているとみられ、復興に向けた工事が今後本格化する中で、影響が懸念されます。

珠洲市の担当者「技術者などが圧倒的に足りていない」

珠洲市によりますと、復興に関連した建築と設備の工事で「入札不調」が起きていて、保育園の修繕工事などまだ6つの工事で施工業者が決まっていないということです。

珠洲市では能登半島地震が発生する前は、公共工事の「入札不調」はほとんど起きていなかったといいます。

「入札不調」が起きていることについて珠洲市環境建設課の大宮準司課長は、「工事の発注が本格化する前なのにすでに入札不調が起きている。予定どおりに工事を進めていくことが課題だ」と話していました。

「入札不調」が起きている背景については、「工事を担う技術者などが圧倒的に足りていないことが一番の問題だと認識している。地元業者だけでなく、県内外の業者にも応援してもらえないと、復旧・復興にはかなりの時間がかかる」としています。

背景には地元業者の被災

石川県は「入札不調」が起きるのを防ぐため、去年4月、公共工事を発注する国と被災地の市町でつくる調整会議を設置していますが、復旧工事を担う人手の確保は難しいままになっています。

背景の1つにあるのが、能登半島でこれまで公共工事を受注してきた地元業者の地震での被災です。

業者の中には、自宅が被害を受けて住めなくなったベテランの技術者や作業員が、退職して地元を離れたケースもあります。

別の地域から人材を確保しようとしても、珠洲市など金沢市から離れている地域では人手の確保が難しいうえ、宿泊施設が少なく、受け入れることができないという声も聞かれます。

業者の中には、空き家となった住宅を寮として利用したり、技術者に片道4時間以上かけて通ってもらったりしているところもありますが、負担の増加につながっています。

さらに公共工事に加えて民間住宅の建設や修繕などの需要も増え、「入札不調」につながる業者の人手不足に拍車をかけているといいます。

珠洲市内の建設会社の社長は「求人を出しているもののまだ応募はありません。休みを週1日に減らして復興関連の公共工事などに対応していますが、作業の量が多く追いついていません」と話していました。

石川県は復興関連の公共工事はことし本格化する見通しで、「入札不調」を防ぐために工事が短期間に集中しないように調整するなど対策を進めるとしています。

石川県土木部監理課は「入札不調が起きていることは認識している。復興の公共工事がこれから増えると入札不調も増加する可能性がある。工期に大きな遅れが出ないように、国や市町と協力して対応していきたい」としています。

「入札不調」は東日本大震災でも

専門家によりますと、復興に向けた公共工事の「入札不調」は2011年に発生した東日本大震災でも起きていて、能登半島地震の被災地でも今後、大きな問題になるおそれがあるとしています。

被災地の復興に詳しい東北大学の小野田泰明教授は「東日本大震災の被災地でも、工事の需要が高まったことで建設事業者の奪い合いも起きて工事が進まなくなり、建設費の上昇にもつながった。復興が遅れたことで将来に不安を感じた子育て世帯が地域を離れ、人口減少につながった」と指摘しています。

そのうえで「能登半島地震の被災地では地震の前から人口減少が進んでいたため、建設業者や技術者の数も少ないことに加え交通の便がよくなく、ほかの地域からの調達が難しい。建設コストは上昇していて建設事業者の確保も難しく、入札不調が大きな問題になるおそれがある」と話しています。

小野田教授は、能登半島地震の被災地では復興に向けた公共工事がすでに始まり、来年度以降は建築工事の入札も始まって、復興に向けた公共工事の数がさらに増えていくことが予想されるとしています。

対策については「入札不調を防ぐためには優先順位をつけて公共事業を段階的に進めていくことや、新たにつくるだけでなくもともとある建物などを活用できないか検討することも有効だ」と話しています。