南日本新聞「こちら373」が国際男性デーに合わせ実施したアンケートは、男性の2人に1人が「男ならできる」など「らしさ」に基づく差別や偏見を感じた経験があると答えた。男性優位な社会構造でなぜ男性が生きづらいのか。ジェンダー平等推進への課題は何か。男性学が専門の四国学院大学の大山治彦教授に聞いた。
-今も男性優位社会か。
「弱者を守る、力を発揮するなど男らしさは成功やリーダーの印象が強く、女らしさは家事、介護などといった『ケア』の印象と結びつきやすい。男性同士でもケアの役割は下の立場の者に任される傾向がある。これらは男性上位、女性下位という、いまだ根強い社会構造を反映している」
-優位な立場にあるはずの男性が生きづらいのはなぜか。
「優位を保つために、女性以上に競争や無理を強いられる『男らしさのコスト(代償)』に関係する。近年、男性も子育てや介護などケアの役割を求められるが、同時に従来の男らしさも期待され葛藤している」
「男らしさへの過剰な執着は暴力やハラスメントにつながり、孤立や社会的地位を失う原因になる。時代の変化に対応するためにも男性も幼少期から家事や育児に親しみ、泣いたり弱音を吐いたりするのを周囲が許容することも必要だ」
-男らしさはいけないのか。
「男らしくしてはいけないということではない。性別による『らしさ』を一律に求められることで、ありのままの自分を受け入れられず、自他を傷つけたり、生き方を自由に選べなかったりするのが問題だ」
-男性学がジェンダー平等の推進に果たす役割は。
「男性はジェンダー問題に関わるのを避けがち。男性学は男性ゆえの苦悩や葛藤を共感的に取り上げることで、問題を自分事として捉える契機になる」
「男性問題は、女性を苦しめている加害者の側面と、男性自身が困っている被害者の側面がある。女性が男性に考えてほしいのは前者で、男性が解決を望んでいるのは後者だ。どちらの生きづらさも、女性が抑圧されてきた男性優位な社会構造から生じている。女性問題への理解なしに男性問題は解決できない」
-どうすればいいのか。
「少子高齢化が加速する現状で、ジェンダー平等は全ての人にとって喫緊の課題。性別に関わりなく仕事と家庭を両立させ、社会を維持するには、男女格差を生み出している男性側の生き方や考え方を見直す必要がある」
◇おおやま・はるひこ 1966年、埼玉県生まれ。専門はジェンダー論(男性学)、家族社会学、市民活動論。龍谷大学大学院社会学研究科単位取得満期退学。日本ジェンダー学会理事、メンズセンター運営委員長を務める。