耳、鼻、または唇などに外傷を受け、その部分を補いたいという人たちは現在、アーティストたちが制作し彩色した人工部位(補装具)を得るために、5,000ドル以上を支払う必要がある。これは、損傷を受けた身体部分から型をつくり、数カ月に及ぶ複数回の調整セッションが必要とされる、苦痛を伴うプロセスだ。
英国シェフィールドにあるデザインコンサルティング企業Fripp Design社は、3Dプリンターとスキャナー技術を採用することで、このプロセスを現代化している。
同社のシステムでは、3Dデータは写真測量法によって苦痛なく獲得される。写真測量法とは、複数のカメラで撮影された画像を使用し、それらを編集可能なCADモデルへとつなぎ合わせる技術だ。完璧にフィットする補装具を実現するために、これらのファイルに対し、MRIデータおよびCTスキャンとの相互参照が行われる。
その後デジタル彫刻家たちが、年齢に合った自然な印象をもたらすために、このデータと、損傷を修正する身体部分の一連の3Dモデルを使用しながら、毛穴、母斑、シワ等を仮想モデルに加える。ほかの組織に完璧に適合するよう、写真によって捉えられた肌の色がシミュレーションでオーヴァーレイされる。例えば耳の装具の場合は、残っている耳を参照したり、親族の耳を参照したりして、できるだけリアルな出来上がりを目指す。
デジタル作業によるワークフローを活用しながら、数時間内に成形が完了し、数日内に3Dプリントが出来上がる(以下の動画では成形プロセスが紹介されている)。
完成した補装具を患者に装着するのは、「Macbook」に電源プラグを差し込むように簡単だ。3Dプリント内部には磁石が内蔵される。顔の再形成プロセスにおいては通常、患者の頭蓋骨にスチール製の棒が埋め込まれているので、これにより、装具を楽々と取り付けることができるのだ。
欠点もある。従来型のほうがリアルさではすぐれているし、3Dプリントではつくりにくい部位もある。乳腺切除など、大きな補装具の場合、装着感はあまり優れていない。けれどもFripp Design社では、コストダウンが可能になれば、発展途上国で受け入れられると考えている。そうした国では、従来型の補装具は天文学的に高価だからだ。
Fripp Design社の製品は、デジタル加工ならではの利点もある。従来の補装具の場合、患者が何かでそれを失ってしまうと、代わりの補装具を最初からつくらなければならないので、再び、数千ドルを支払って数カ月待たなくてはならないが、Fripp Design社のシステムでは、「印刷」ボタンを押すだけで代替の補装具をつくることができる。
患者が暑い気候の場所へ引越し、日焼けをした場合は、技術者が色を調整し、新しい補装具を約200ドルでプリントアウトできる。
Fripp Design社は現在、保健関連の監督機関の認可を求めているところだ。その一方で、同社は1年以内にインドで3Dプリントの義眼を発売する計画だ。
TEXT BY JOSEPH FLAHERTY
IMAGES BY FRIPP DESIGN
TRANSLATION BY TOMOKO MUKAI/GALILEO