脅えていた。それはもう、完膚なきまでに脅えていた。
逃げる寸前の森ネズミでも、とどめを刺されんとしているボールアニマルでも、こんな瞳はしていない。
「そんなに嫌か?」
「やだ」
「幼児じゃないんだから」
「いやだ」
ソードマンは頑なに、建物の角に噛り付いていた。放っておけば根まで張りそうな勢いだ。
彼は絶賛家出中の身で、何がなんでも実家の肉屋の前は通りたくない!というのである。
レンジャーとしては前を通るのみならず、干し肉を幾切れか買い求めるつもりだったのだが。
彼女は途方に暮れて、もう一人の連れであるバードを振り返った。
彼はソードマンとは幼馴染なのだが、それでも適切な対処法は分からないらしい。レンジャーの視線に気付くと、お手上げです、とばかりに肩を竦めた。
「ごめん、僕たち、迂回して帰るよ。買い物任せてもいい?」
結局バードが荷物の大半を引き受け、レンジャーが単独で肉屋に向かうことになった。ソードマンは脅えて使い物にならなかったが、放っておけばそのうち宿に戻るだろう。
件の肉屋の店番は、年の頃13、4の少女だった。
緋色の髪とアーモンド形の大きな瞳、人懐っこい笑顔は、確かにソードマンとよく似ている。
「いらっしゃいませ! 何にしましょ?」
(この子のどこに、あそこまで脅えなくてはならないような要素が……?)
注文を出しつつ、レンジャーは家出少年の心理について想いを馳せた。
■昼のヒトコマ/地元組/拍手ありがとうございました!■
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