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岩井の本棚 「マンガにでてくる食べ物」 第45回

ひとりで焼肉、ジュージュー、モニュモニュ


(図1)
ここでイタリアンとか言う奴は男じゃないですね

先日同僚が若い子にごはんをご馳走しようとして「寿司と焼肉だったらどっちがいい?」ときいたところ「焼肉で!」と即答されたそうです。 雰囲気的に言うとこんなカンジ(図1)。

寿司も確かに美味しいけれど、腹いっぱい食べるジャンルのものじゃないから食った食った感が味わえない。満足感でいえば焼肉の持つ力強さに勝るものはないのかもしれません。若い子はやっぱ焼肉ですよ。

「この時期にしか出回らないシンコの鮮烈さは格別だ」だの「今日のシビは脂ののりが今ひとつだね」などと寿司くってうんちくタレる若衆は信用できません。

ですがおなかいっぱい焼肉を食べよう、と思ったら、とてつもない金額になるのも事実。
僕の知り合いで会社の仲間5人で焼肉屋にいき、しめて21万食ったバカがいます。
いったいどれだけ食ったんでしょうか。これは極端としても、2人で1万くらいは普通にいっちゃうのが焼肉の難点です。

しかしながら、じゃあ家庭でやればいいじゃん・・・と肉を買い集めて家庭のホットプレートで肉を焼いても、 焼肉屋で味わうあの美味しさについぞ追いついたためしがない。実に不思議ですね。

いちど僕も家庭焼肉の究極を目指して100g1500円くらいする但馬産A5牛ロースに100g700円もする国産牛ハラミを買い込み、 さらには上野のコリアンタウンで買ってきたタレにキムチ、焼くのは備長炭に七輪、と凝りに凝ってみました。

確かにおいしかったものの、やはりあと一歩で及びません。
あとどんなに換気扇を全開にしようとも、家庭で七輪焼肉は煙の問題がクリアできません。
一週間くらい部屋から脂を吸った煙のにおいが取れないのです。そういったトータルで見れば焼肉屋はむしろリーズナブルだったりもします。


(図2)
この肉、これだけで4000円くらいします

ちなみに「A5」というのは牛肉の等級、つまり肉質。
A5は最高級品質で、いわゆる有名店の特上カルビとか特上ロースに使われているような、細かい霜降り(サシ)がビッシリと入ってるやつです。
ただ一般にはこの等級はあまりなじみがないかもしれません。最近はスーパーでもA4くらいなら表示されて売られているようになってきましたが。

ちなみにマンガで「A5」という等級が登場したのは、僕の知る限り立原あゆみ先生の「喰人」のみです(図2)。
さすがネオンの似合う男の世界を描く立原先生だけある。このマンガ立原先生初の食い物マンガですが、森以蔵の話も出てくるし、全体のエピソードの味も濃すぎ。
オトナの漫画、とはこういうのをいうのです。

たとえば美味しいぬか漬けを作るには毎日かき混ぜるのが重要→漬ける人によって味も違う→女性ホルモンが関係してるぽい、 ヘタしたら腋毛も→禁欲的な坊主の僧侶の若妻が、二の腕までつっこんで作ったのが、過去最高の味だった・・・と「ワキ毛美人が作るヌカ漬け最高!!」みたいなえらい主張になっている。 なんかちょっとソレ汚くない・・・なんて発想は、オヤジにはないのです!


(図4)
バイアグラ、って言葉がスラっと出てくるのもオヤジぽい

そういえば「本気 サンダーナ」でも一年ほど男と肉と魚を断たされた愛人、というのが出てきますね。
「近づいたらいい匂いがする」「息吹きかけただけでイキよるじゃろ」「まるで生きたバイアグラだ」(図3・4)・・・変態の発想ですね。おかしいです。


(図3)
濃厚なフェロモンを人為的に作ろうって発想が変態のソレです

女性ホルモンを過剰に放出させようさせようって発想がスゴい。
ポっと出の若造には出せない味ですよ。僕も中年になったらこうなるのか、と思うと憂鬱です。

おっと話がズレた。焼肉でした、焼肉。
でもみんなで焼肉に行くと、いくつか気になる点があります。
ひとつは鍋奉行ならぬ「肉奉行」が登場すること。

「それ焼きすぎ!」「ギアラはもっと焼く」「タンは片面だけ焼いて」などといわれると、本人に悪気はないのですが、やはりうっとうしい。

一番困るのは店員の仕切りが強い焼肉屋ですね。
経験があるのですが「ロースは10秒くらい、 炙るようなカンジで」「ああダメダメ、はやく網からあげて」とか「ウチのハラミは厚切りなんで網の端でじっくり炙ってください」とかテーブルに店主自らべったり張り付かれていわれると、 何のために自分で焼くシステムなのかもう分からなくなりますね。
落ち着いて食わせろ、自分の好きなように焼かせてくれと。

これだったら店主が焼いて、皿に盛って出せばいいじゃんと思うこともたしかにあります。
かといって「もういいんでどっかいってください」ともいえんし。
でもとびきり上等の肉を、なんもかも一緒に網にのっけて焦げ付かせちゃう無頓着なヒトも多いから言い分もわかるんですけれどね。


(図6)
いやいやそれは小さな事でしょ


(図7)
小皿にとりわけてくれる極悪不良


(図5)
たいてい僕もその役です


肉奉行とまで行かなくとも「肉焼く係」を押し付けられがちな人は確かにいる。
その人が網に乗っけていって、ほかの連中がみんなで食べる、みたいな。 クロ高にもこんなシーンがありました(図5・6)。

かと思うと生傷の絶えない乱暴ものが意外にこまめに焼けた肉を小皿に取り分けたり(図7)。 口では物騒なことをいいつつもお母さんみたいな心遣い・・・って悪い奴じゃなさそうですね。

もうひとつの難点は、自分が網に乗っけ、絶妙の焼け具合になったとたんに、その肉をほかの奴がかっさらっていってしまうこと。 友人同士で行くと結果早い者勝ち、になってしまって自分で焼き加減を調節するのが難しい。こんな僕はひょっとしてさもしいんでしょうか。

以前3人で焼きに行き、特上タン塩(2180円)を頼んだ際、5枚とも僕が網に乗っけたにもかかわらず、1枚も食えなかったことがあります。 焼き具合の好みが早い奴にぜんぶ食われる、って、同じことを「OL進化論」で描いましたな(掲載巻見つからず)。


(図8)
チンピラとスケのカップルって平日の昼によくいます


(図9)
肉の「緊急避難」って実践者の発想です


(図10)
トレンチコート姿、でも頭の中は焼肉だらけ


(図15)
いかにも肉って肉だ・・・名台詞


(図16)
画力の高さが逆に惜しい

そんな弊害を受けないためにも、ここで僕がおすすめしたいのが「ひとり焼肉」です。
この言葉には最近「家のキッチンで一人焼肉の宴を開くこと」という意味もあるみたいですが、ここでは「一人で焼肉屋に行くこと」と捉えてください。

でも一人だと入りづらい店の筆頭が焼肉屋。 店に入ればこんな客ばかりだし(図8)。敷居は高いですよね。
一人きりなので焼き、飲み、食べるを展開するとこんな慌しくなっちゃうけれど(図9)、自由に焼き具合を楽しめ、 思う存分食べれる「ひとり焼肉」は外食の王様と呼べるでしょう。 それにしても東海林さだおの観察力にはうなるほかありませんね。 こんなカップル、平日の昼間にほんとにいるもん。

ちなみにマンガでもこの「ひとり焼肉」シーンはいくつか出てきます。
最もはやく「一人焼肉」という単語を使ったのは僕の記憶では「かっこいいスキヤキ」(図10)。

作者の泉昌之は久住昌之(原作)+泉晴紀(絵)のコンビ。
ついでに言えば焼肉ではないものの「スキヤキにおける肉の取り合い」と「人間のみみっちさ」(図11・12)をネタにしたのもこのコンビが初でしょうね。


(図11)
ねたみ


(図12)
そねみ


その後何年もたって、久住昌之・谷口ジローコンビで「孤独のグルメ」が連載された時にも「ひとり焼肉」が登場しました(図13〜16)。よほど思い入れがあるのでしょうか。


(図13)
ふつうはそうですね


(図14)
焼肉+ご飯は最強のコンビ


これから取引、じゃあ一発スタミナつけるか、というときに川崎の焼肉屋で遅めの昼飯で小さな宴が始まる・・・ このシーン、谷口ジローの画力ですら勢いを伝えきれてない気がするくらい。 ここで出てくる「うんうまい肉だ いかにも肉って肉だ」・・・すごい名セリフです。

そう、こういうときにA5だのハネシタだのリブ芯なんか出てこなくていいんです。 歯でかむときゅっと鳴るような歯ごたえとタレの焦げた匂い、それだけでいいんですよ。

ちなみにハネシタ、リブ芯とも牛肉の部位で、常連客に出したりとか、メニュー表に載せない裏メニューだったりするあたり。
常連にしか出さない肉ってイヤな言いまわし、「ピューと吹くジャガー」にもあったなあ(図17)。


(図17)
焼肉屋は常連向けメニュー多すぎ


(図18)
おちつけ、まずタレにつけよう


で、それがこの肉(図18)。
形状からしてザブトンあたりでしょうか(食べたことないけど)。

あとひとり焼肉シーン、といえばもうひとり知られざる名手がいました。このシーンです。


(図19)
モーニングの巻頭を、焼肉シーンが飾った瞬間


(図20)
そう、ひとりで


(図21)
んぐんぐ


(図22)
モニュ・・・


(図23)
モニュ・・・


(図24)
モグ・・・板垣組のスタッフ絶対「今日モニュモニュするか」とかいってるハズ

「はふっ、はふっ」「んぐんぐ」(図19・20・21)

さだやす圭の「ダニ」のオープニング。
一心不乱に肉を食いまくるこのシーン。
実はこの焼肉代、ぜんぜん払わないまま主人公は店を後にする・・・というシーンなんですが「タダだと思ってやりたい放題」感があふれてて、忘れられません。

このマンガ、町のもてあましもんのチンピラがヤクザと闘ってたかと思うと、最後なぜかプロ野球選手になってホームランをカキーンと打ち、 なぜか「ハ・ワ・イ!! ハ・ワ・イ!!」と爺さんたちが大合唱して終わる、 としか説明しようがないド怪作で、僕ストーリーはどんなだったかもうひとカケラも覚えてないです。
が、この焼肉シーンだけは7年たった今も忘れられません。それだけインパクト大。

当時新連載ということでここ巻頭カラーだったのですが、同じ日に発売のヤンジャンはMEGUMIだったかのグラビア、 かたやモーニングはというとはふはふんぐんぐの焼肉シーン、と雲泥の差だったことを覚えています。

うーん、思い出しが止まらない。もうひとつ印象深い旨そうな肉の食い方っていったらやっぱり「バキ」でしょうか。

「モニュ・・・モニュ」「モグ・・・」(図22・23・24)

このモニュモニュ、怪物=大食漢、を説明するシーンで必ず登場。 今回探し出せなかったけれど勇次郎もモニュモニュ肉食ってたシーンあったはず。

これねえ、肉塊くいてえなあ・・・ってつくづく思わせる擬音ですね。 だってモニュモニュだよ? モグだよ? こんなん描かれて食いたくならないほうがどうかしてますよ!

そんなわけでひとり焼肉をおすすめする次第ですが、気をつけないといけないことが多々あります。

「ポーションが多すぎる」
焼肉屋さんの一人前はカルビなどの正肉系はそうでもないですが、 「一口だけ食べたい」ような内臓系は逆に一人前の量が多く残してしまいがちです。

僕も一回ハツ頼んだら、8枚も出てきて往生したことがあります。2きれでいいのに。
店の人に相談すると盛り合わせにしてくれたりするので、頼む前に量を確認しましょう。
「ひとり客お断りの店がある」
ロースターがテーブルに埋め込んである店は、収容客数に限りがあります。 つまりひとりでも4人でもロースターは一個使ってしまうのです。しかもひとり客は長っ尻。

そのため一部のお店ではひとり客を断っていたりするので、 事前にひとりでも大丈夫かどうか確認が必要です。予約もひとりだと受け付けない店があります。

また現在タンやハラミは良い品質のものを揃えるのが大変なので、 いくら美味しいからってひとりで3人前とか注文するとイヤがられますので要注意です。
「時間を外していく」
ひとり客可の店でも、店にとってひとり客はあまりありがたくないことを考えて、忙しい時間帯は外していくのが無難です。
土曜の6時くらいに行くなど言語道断です。

また気分的にも、ほかの客席が盛り上がってたりすると、 特に最初のメニューが出てくるまでの間、ひとりだと何もすることがないので異常に寂しいのです。

これは友人が経験したことですが、家族連れと相席になってしまい、 ロースターを間借りして片隅でこしょこしょと肉を焼いたりしてたらわびしさで泣きたくなったそうです。 プレッシャーに弱い人はひとり焼肉に向いてません。
「肉マニアかと思われる」
上記をクリアして居心地のいい焼肉屋をやっと探し出して通い始めると、たいてい店主が4・5回目くらいに話し掛けてくるようになります。 「今日はミスジのいいのが入ってますよ」「メニューにはないけどうちのコムタンは自信作です」などと言い出すのはたいてい5回目くらいです。

店の人に悪気はないのですが、おすすめの裏メニューはたいてい一皿2000円くらいするので、頼むかどうか非常に悩みますし、 場の雰囲気で値段を聞き出せないので会計時にビビります。

一番うまい断り方は「いやーもう美味しかったんでおなか一杯です、ホントねえ」あたりでしょうか。
僕もかつて「クラシタのいいのがありますよ」と店主に言われたのですが、クラシタという単語が分からなかった(肩ロース肉の部位です)ので赤っ恥をかきました。

余談ですが、冒頭の若手に焼肉をおごった同僚、というのは現在宇都宮にいるスタッフ竹下くんです。
彼は若手が思わずタン塩をタレにつけようとしたのを見て怒り

「レモンをつけろ!!」

といって若手をその場で生説教したそうです。意外に肉奉行だったんですね。
おごってもらったとはいえ、牛のベロの破片につけるタレのことでガッツリ怒られてしまった彼・・・福岡店の梅本くん、元気でやってますか? くじけないでくださいね・・・。

というわけで今回はひとり焼肉を紹介してみました。
どうですかひとり焼肉? え、やっぱりみんなと行くのがいい? いやいやそうはいってもあなた、ほら、ねえ。
・・・まあ、そうですよね、やっぱひとりってことはないですよねえ・・・。

今回取り上げた本はいずれも本店にて取り扱っております、中野近辺は焼肉屋もたくさんありますよ!
本を買ったあとは焼肉屋で本読みながらひとり焼肉へ
GOです!
GOなのだわ!
GOしやがれです!
GOなのかしら!
・・・すみません久しぶりの更新なので感覚がつかめなくなってしまって混乱しちゃいました・・・。

※この記事は2006年7月25日に掲載したものです。

(担当岩井)

お問い合わせ (営業時間:12:00〜20:00)

まんだらけ中野店(詳しい店舗地図はこちら)
〒164-0001 東京都中野区中野5-52-15
TEL:03-3228-0007 / e-mail:nakano@mandarake.co.jp