シャッフルしたトランプの並び順を記憶したり、不規則に並んだ何百もの数字を数分で記憶できる人は、先天的に優れた記憶力をもっているわけではありません。彼らの脳は普通の人の脳と同じです。

わたしは先日、第15回目の「全米記憶力大会(USA Memory Championship)」に出場しました。その際、幸運にも大会を2回連続で優勝しているNelson Dellis氏から、記憶力を高めるテクニックを学ぶことができました。彼から学んだ、普段の生活で誰でも記憶力を向上できるテクニックをご紹介しましょう。

誰にでもできる記憶力向上トレーニング

ソフトウェア開発者から「記憶力登山家」へと転身を遂げた28歳のDellis氏は、学生時代の成績は平均で、記憶力も平均だったと言います。

ある日彼のおばあさんがアルツハイマー病を患ったことがきっかけで、記憶力を高める方法を学びたいと思うようになったそうです。今では彼は、国内の2つの記憶力大会で優勝し、不規則に並んだ303個の数字を5分間で記憶できるという記録をもっています。

彼のこうした過去が、記憶力の向上は誰にでも可能であることを物語っています。要はトレーニングとテクニック次第なのです。

イメージを思い描き、そのイメージを場所に結びつける

Dellis氏から、リラックスして課題を見る方法を学びました。その方法は基本的に次の2つのステップに分けることができます。これは頭脳を使うスポーツや趣味、駐車場所を覚えたいときなどにも使うことができます。

  1. 記憶しにくい、抽象的で退屈な事象(名前や数字など)を視覚的なイメージへと変える
  2. そのイメージを簡単に想起できる場所「記憶の保管場所」を見つける

「Nelson」(ネルソン)という人の名前を覚える例に、このステップを実践してみましょう。

  1. ネルソンという名前から、ネルソン・マンデラのような有名人の顔をイメージします
  2. ネルソン・マンデラとの共通点を見つけます(たとえば、大きい鼻とか)
  3. 名前を覚えたい人の鼻を見てネルソン・マンデラを思い浮かべます(より際立った特徴や性的な特徴、ユニークな特徴を使う方が、効果が高まります)

名前を記憶するときには発音に注目するのもいいそうです。ネルソンのNelからはひざまづく人(kneeling)、ソンからは太陽(sun)、つまり太陽に向かってひざまづく人を思い浮かべるなど(編注:日本語に応用してもいいでしょう)。イメージを結びつける場所は着ている服や目、ひげなど、その人の目立つ特徴であればなんでもOKです。

とにかくぶっとんでいて馬鹿げたイメージ、個人的な経験と結びつける方が効果的です。

数字から動作や物を連想して記憶する「ドミニクシステム」

不規則に並んだ数字やカードを記憶する際には「ドミニクシステム」と呼ばれるテクニックを使うそうです。記憶力チャンピオンのDominic O'Brien氏が開発した方法で、基本メソッドは数字を文字に変えるというもの。数字を誰かのイニシャルである2つのアルファベットに変えて、動作や物と結びつけるのです。

たとえば、0という数字はアルファベットのOに似ていますから「OO」としましょう。0という数字によく結びつけられるのは、イニシャルがOOである、ミュージシャンのオジー・オズボーンです。そこからさらに連想される動作は、彼の伝説的な行為として知られるコウモリの首に噛み付くという動作、そして連想する物はコウモリです。0という数字を見たら、コウモリの首に噛み付いているオジー・オズボーンを思い浮かべればよいのです。

この方法を使う際には、できるだけ自分の身近な人物を思い浮かべる方が効果的です。トランプのカードを覚えるときも同様です。たとえば、わたしはハートのジャックからは、夫が目玉焼きを焼いているという動作、そしてフライパン上の卵という物を連想するようにしました。スペードのキングは、『ユージュアル・サスペクツ』 のケビン・スペイシー。連想する動作は、金のライターに火をつけるという動作、連想する物は金のライターです。

そして、次にやるべきことは、そうした情報を結びつける場所を見つけることです。ネルソンが教えてくれた、イメージを想起できる場所をつくるというテクニックです。わたしは家を歩きまわって、人や数字をさまざまな家具に結びつけていきました。

こうすることで、短い時間でカードを記憶することができます。カードを見たら、そのカードの人がどういう物を使って、どういう動作をしているのかをイメージします。たとえば、カードをめくると、オードリー・ヘプバーンが(ダイアのクイーン)が入浴をして(ハートの5)、剣をもって(スペードのジャック)、ソファに座っているイメージをします。

こうしたイメージを簡単に想起できるようになるには、相当な時間をかけて練習をする必要があります。脳のスキルが強化されますし、トランプを使って練習すればクリエイティブに考える練習にもなります。

日常生活でも応用できる記憶力トレーニング

日常生活においても、こうした視覚イメージを場所に結びつけて記憶する方法を活かすことができます。なじみのある場所から始めてみてください。たとえば、買い物リストを覚えるときには、玄関前に牛乳をぶちまけてしまったイメージ、2枚の巨大なステーキ肉に玄関で襲われているイメージ、絨毯の上でプレッツェルが踊っているイメージなど...。

繰り返しになりますが、動きが多く、強烈かつ大げさで、意味と場所を強く結びつけられるほど、うまく記憶できます。また、記憶力を高めて、脳を鍛える練習を積み重ねるほど、アルツハイマー病にかかる確率も低下します。

また、視覚イメージを使うのが得意でなければ、他の感覚も使ってみましょう。音、匂い、触覚など。毎日の生活で、物がどのように見えるか、聞こえるか、感じるかにもっと注意をはらえば、視覚イメージスキルも高まります。

多くの物を見て、より多くの注意を払うようにしましょう(正直に言うと、注意力が欠けているせいで、わたしは人の名前や顔が覚えられないのだと思っています)

もし、記憶力チャンピオンのように記憶力のトレーニングをしたければ、こんな記憶力向上ゲーム(英語)もあります。ぜひ練習してみてください!

Melanie Pinola(原文/訳:佐藤ゆき)