警察署に連行された容疑者が、取調室で何もない机の前に座っている。そこには嘘発見器もないし、アメとムチを巧みに操る名コンビの刑事も居ない。そこに一人の刑事が、紙と鉛筆を持ってやって来た。容疑者の目の前にそれを差し出し、こう言うのだ「描け」と。

...と小説っぽく書き出してみましたが、この虚構の世界のような取調室の光景も、心理学系ジャーナル「Applied Cognitive Psychology」に載っている研究結果が広く採用されるようになれば、現実味を帯びてくるかもしれません。その研究結果とは、最初の取り調べでは、口頭で尋問するよりも、絵を描かせてみた方がウソを発見しやすいというものです。

 研究者は、ウソをつく人間の落書きや走り書きには、正直な人間には見られない傾向がある、という仮説を立てました。例えば、本当は会っていないはずの人と会った、と言っている場所について、ウソをついている人間に絵を描かせてみると、細かいところが抜け落ちていたりするのです。絵が全体的に説得力に欠けていたり、会ったと言っている人物の詳細が描かれていなかったりします。

また、正直な人間が描く絵は、肩越しのカメラで撮ったように、自分の目線で描かれており、事前調査よりも詳細に真実について描かれることが多いです。ウソをついている人間は、俯瞰のカメラのような目線で描かれており、現場の状況を離れて見ているような感じになります。

普通の取り調べでは、容疑者は何をしたのか? という質問をされ続けます。それと同じように、容疑者に何をしたのか詳細に描かせるのです。口頭の答えと描かれた絵では、詳細さという点では、そこまで大きな違いはありませんでした。しかし、ウソをついて騙そうとしている絵よりも、真実を描こうとしている絵の方が、ほんの少しだけ精度が高かったのです。このような些細な違いは、口頭の答えでは分かりにくいのだそうです。

おもしろいことに、本当のことを言っている人間の絵には、その場にいた第三者が登場しますが、ウソをついている人間の絵には、そのような第三者は登場しません(本当:80%、ウソ:13%)。

加えて、本当のことを言っている人間は第三者について多く語りますが、ウソをついている人間は第三者について語りません(本当:53%、ウソ:19%)。

また、本当のことを言っている人間の絵は、前述のように、自分の目線で状況が描かれていますが、ウソをついている人間の絵は俯瞰の目線で描かれています(本当:53%、ウソ:19%)。

この「第三者を描く」という方法で取り調べをすると、本当のことを言っている人間は80%、ウソをついている人間は87%の確率で見分けることができ、口頭の取り調べよりも有効だ、という結果が出ました。

ウソをついている人間は、絵を描く時にディテールを創作しなければならず、急に絵を描けと言われても、その時間が十分に足りないので、結果的に絵の完成度が低くなり、ウソを見破るのに効果的なのです。ウソをついていない人間にしてみれば、すでに自分が見てきた光景なので、完璧に覚えてはいなかったとしても、詳細が描きやすいという訳です。

実生活でも何だかウソくさいなと思ったら、紙とペンを持ってきて絵を描いてもらうといいかもしれませんね。

If You Want to Catch a Liar, Make Him Draw [Psychology Today]

Adam Dachis(原文/訳:的野裕子)