USB 3.0規格のFAQ(1) ―― 信号波形からSuperSpeed USBを理解しよう
本稿では,SuperSpeed USB(USB 3.0)の物理層の規格について,FAQ(Frequently Asked Questions)形式で説明する(3回に分けて掲載する予定).読者対象は,パソコン周辺機器のエンド・ユーザではなく,組み込みシステムや半導体の開発エンジニアである.なおここでは,パソコンのようにホスト側でUSB 3.0を制御するものを「ホスト・コントローラ」,ホストと接続されるUSBメモリや外付けハード・ディスク装置(HDD),SSD(Solid State Drive)などを「デバイス」と呼ぶ.(編集部)
※ 本記事は2009年8月時点のUSB 3.0の仕様をもとに作成しています.改定などにより内容が変更される可能性があることをご了承ください.また,掲載された技術情報を利用して生じたトラブルについては,組み込みネット,著作権者,ならびにUSB-IFは責任を負いかねますので,ご了承ください.
Q.USB 3.0とUSB 2.0の違いは?
A.物理層がまったく異なる.電気的に互換性がない信号線を追加して実現している.
USB 3.0は「USB」といいながらも,物理層だけを見ると名ばかりです.目標とするデータ帯域幅および後方互換性を確保するため,従来のUSB 2.0とはまったく異なる,電気的に互換性のない信号線を追加しています.すなわち,2種類のバスを併せ持つデュアルバス・アーキテクチャで実現されています(図1).その結果,コネクタのレセプタクルにも端子を追加し,1本のケーブルに別のシリアル・リンクを束ねたかっこうになっています(図2,図3).
USB 2.0では,NRZ(Non Return to Zero)フォーマットに符号化され,DC結合でツイスト・ペア・ケーブルを使って双方向に伝送していました.一方USB 3.0では,PCI ExpressやSerial ATAとほぼ同等の物理層を採用しています.8b/10b符号化とともにデータ・スクランブルを併用します.AC結合でシールド・ツイスト・ペア・ケーブルを使い,上りと下りの信号線が独立したデュアルシンプレックス(双対単方向伝送),SSC(Spread Spectrum Clocking;周波数拡散クロッキング)が必須です(表1,図4).
USB 3.0は特にPCI Express Rev. 2.0に類似しており,物理層用のチップ(PHY)の設計をかなり流用できるようになっています.PHYとMAC(Media Access Controller)の間のインターフェースについては,USB 2.0ではUTMI(USB 2.0 Transceiver Macrocell Interface),あるいはULPI(UTMI+Low Pin Interface)を使用していました.一方USB 3.0では,PCI Expressでも使われているPIPE(Phy Interface for PCI Express)Rev.3.0を利用しています.PIPEは米国Intel社独自の仕様ですが,事実上の業界標準となっています.この結果,規格の策定から非常に短い期間でサンプル・チップの出荷が可能となりました.
以上のように,USB 2.0とUSB 3.0の物理層は完全に異なるものである,ということを理解しておく必要があります.一方,PCI ExpressやSerial ATAなどの高速インターフェースについて勉強しておくと,USB 3.0の物理層を理解するのは簡単です.