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ちょっといい話

第118話 ひたむき

挿し絵  伝え聞く所によると、今回のリクエスト「徳を積むって、どんな生き方?」をくれたsaichanは、大手CD制作会社にいたものの、無性に歩いて四国遍路がしたくなったらしい。そこでなんと、思い切って会社を辞めてしまい、遍路修行を成満じようまん(達成の意)。そのまま遍路や巡拝の仕事をしている旅行会社に就職したという可愛い娘らしい。お坊さんと一緒に旅をすることが多いだけに、巡拝の中で何気なく使われる“徳を積む”という言葉が気になっているようだ。
さて、言葉からいえば“徳=善い行い”ということ。そして、この善を積み重ねて得られるものが功徳ということになっています。ところがこの功徳がちょっとクセモノで、こういう話があります。

昔、中国の皇帝が達磨大師に聞いた。
「わしは、即位してから、お寺を造ったり、写経したり、お坊さんの数を増やす政策をしてきたが、いったいどんな功徳があるかのぉ?」
すると達磨は答えた。
「そんなもん、何の功徳もありゃしません」
「へっ?」
「お寺をつくれた事、写経できること自体が功徳。他に期待なんかしなくていいのです」

 さて、あなたの一日の生活の中で、何の打算もなく、人のために過ごしている時間がありませんか?それが“徳”なんだと思います。家族のための食事作り。乗客のことだけを考えてする安全運転。あなたと会えて嬉しいと思って発せられる“おはよう”の一言。
私が「この人、徳を積んでるな」と思う時、ほとんどが“自分のご都合を離れた、だれかのためのひたむきさ”が、その人全身を包んでいることに気づいたことがあります(宮崎駿作品のテーマが同じであると知っているのは私だけではないだろう……)。
徳を積んでいる人は、自分が徳を積んでいるという意識は、殆どないでしょう。今回のお題をいただいて、徳とは不思議なものだとつくづく思いました。

 さて、次回はその不思議な徳について続けます。題して“人の為と書いて偽り?!”。この言葉を、自慢気に受け売りしたことある人、読んでみて!